「持ち家」はもう憧れの存在ではない? 「建築着工統計」2022年計が公表
朝倉 継道
2023/02/16
持家は大幅減
建築着工統計調査報告の令和4年計分(2022年1~12月計分)が、1月末に国土交通省から公表されている。いくつか目につくところをピックアップしていこう。
まずは、住宅全体の数字だ。
22年の新設住宅着工戸数 85万9529戸
前年比 0.4%増
なお、前回分(21年)の前年比は5.0%増だった。2年連続の増加となっている。
前々回分(20年)で見られた「コロナ禍」による急な落ち込みからの回復が、とりあえず続いた22年といってよさそうだ。
ただし、内訳を見ると住宅の種類ごとの差も見えてくる。
持家 25万3287戸(前年比 11.3%減)
貸家 34万5080戸(同 7.4%増)
分譲マンション 10万8198戸(同 6.8%増)
分譲一戸建 14万5992戸(同 3.5%増)
このとおり、持家の大幅減が目立っている。
さらに、この25万3287戸という数字は、少なさで1960年の23万3259戸に次ぐものだ。よって、00年代以降の最高となる45万1522戸(00年)や、10年代以降最高の35万4772戸(13年)に比べると、当然ながらかなり落ち込んでいる。
かつて70年代には70万戸を超える数字も何度か見られた持家だが、いまはすっかり市場がしぼみ、戸数での規模はピークの1/3程度になっている。ざっと、高度経済成長期前半の水準に戻ったかたちだ。
活況の分譲一戸建市場
一方、分譲住宅・一戸建の数字を見てみたい。分譲一戸建は、住宅としての性格や形がさきほどの持家と近い。
数字を再掲しよう。22年の分譲一戸建・新設着工戸数は14万5992戸だ。
これは、なんと興味深いことに分譲一戸建のデータが残る88年以降、3番目の高い数字となる。下記は「14万戸超」を積み上げた6つの年を戸数の多い順に並べたものだ。
1位 1996年 14万7944戸
2位 2019年 14万7522戸
3位 2022年 14万5992戸
4位 1994年 14万4698戸
5位 2018年 14万2393戸
6位 2021年 14万1094戸
見てのとおり、18年以降の年だけで1~6位のうち4つを占めている(19、22、18、21年)。こうした数字が続く近年においては、分譲一戸建への需要はかつて以上にマーケットに溢れているとみるのが妥当だろう。
なお、上記には挙がらないものの、コロナ禍が市場を冷ました20年の数字も実は13万を超えている。高水準といっていい(13万753戸)。
以上から、分譲一戸建のマーケットは、いままさに活況にあるといっても差し支えないだろう。
持家の弱みとパワービルダー
さて、そんな分譲一戸建と持家とのコントラストだが、要因はおそらく多岐にわたっている。そのうち、重要と思われる2つを挙げてみたい。
まずは、時代の流れとともに表に顕われてきた持家の弱みだ。
土台となる人口の減少・少子高齢化によって、一戸建を持ちたいとする需要が縮小してきている点は分譲一戸建と同じであるにしても、とりわけ持家にあっては以下のハンディが重い。
- 一般的には立地が不便な郊外となりやすい
- 同じく高度利用しにくい土地となりやすい
- 庭や敷地、建物が広い物件となりやすく、維持に負担がかかりやすい
- 建築主個人の都合や嗜好が反映された特徴(癖)を持つ家が建てられやすい
これらが相まって、
- 売却や相続で苦労する物件になりやすい
すなわち、投資の有効性が低くなりやすい点において、持家は「住宅すごろくの華々しいゴール」などといわれていた時代の魅力をいまは次第に失ってきているといえるだろう。
一方、分譲一戸建はどうか。こちらの“活況”にあっては、おそらくキーワードがひとつ存在する。それは「パワービルダー」だ。
いわゆるスケールメリットを活かしての土地、建材等の仕入れから、住宅の高度な規格化、回転率を見据えたスピーディーな物件販売、広告宣伝の効率化や大胆なコストカットなど、住宅購入のローコスト化を徹底していとわない彼らのタフな仕事が、高くなったマンションに手が出ない住宅一次取得者層などを上手く取り込むことで、市場を広げる力となっていることはたしかだろう。
経済のいまを敏感に反映
次に、住宅から離れ、民間非居住建築物を見てみたい。
「用途別」のなかに目立つ数字がある。製造業用建築物のデータだ。前年比24.5%の増加となっており、かつ、この数字は全9用途のうち、今回唯一の前年比増を示すものとなっている。(全9用途――ほかには「鉱業、採石業、砂利採取業、建設業」や「情報通信業」「卸売業、小売業」などがある)
そこで、製造業といえば、目下、設備投資が積極的に進められている業態だ。昨年9月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)では、製造業の設備投資額(計画)は全企業規模を合わせた合計で前年比21.2%増となっており、これが「88年以来の高水準」などと報道されていたのが記憶に新しい。
さらに、続く12月の短観でも数字は20.3%と高い水準が維持されている。こうしたデータと符合するかたちで、建物の新設着工数もやはり伸びているといえそうだ。
一方、「卸売業、小売業」は、前回の前年比が18.2%のプラスとなり、コロナの影響からいよいよ脱するかのように見えたが、今回は再びマイナスに戻っている(8.8%減)。さらに、同じくコロナの直撃を受けた「宿泊業、飲食サービス業」の数字は依然浮かび上がらず、4年連続でのマイナスが続く状況となっている。
以上、紹介した各データについて、さらに詳しくは下記を参照されたい。
「国交省 建築着工統計調査報告 令和4年計」
「e-Stat 建築着工統計調査【住宅】利用関係別 時系列」(99年以前の数字)
「日銀短観(概要)」
(文/朝倉継道)
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。