予算20万円! 古民家をDIYでエコリノベしたら見えてきた「リノベーション田舎づくり」の可能性
馬場未織
2017/02/16
「リノベーションまちづくり」が空き家を抱える街を救う!?
高齢化、少子化、人口減少…ひところの賑わいが、うたかたの夢のごとく消えてしまい、空き家だらけになってしまった街が、日本のあちこちに増えてきています。ですが、そんな街が『リノベーションまちづくり』によって再び活気を取り戻しているという事例が各地で見られるようになってきているのをご存知でしょうか。
『リノベーションまちづくり』とは、遊休物件を活用すべく改修し、街に必要な事業をその空間に立ち上げて地域活性化につなげていく手法です。
とりわけ衰退の気配漂う地方都市においてその効果は大きく、単に建物をよみがえらせて不動産価値を高めるという物質的な変化にとどまらず、ほしい街のかたちは自分の手でつくっていけるんだという意識変革も生み出し、“まちの未来づくり”のあり方として高く評価されています。
田舎の地域づくりにとって、効果的な手段はあるのか?
一方で、田舎の地域づくりにとって、効果的な手段は何でしょうか?
もちろん、遊休物件に事業を立ち上げる手法がそのまま有効な場合はありますし、それが観光人口を増やし地域活性につながる事例も見られます。
ただ、のどかな環境を味方につけるという方向で考えた「リノベーション田舎づくり」もあって然るべきです。
野外生活の魅力が注目されがちな田舎暮らしではありますが、一方で若者離れ、少子高齢化による人口減少で空き家問題は都市部以上に深刻です。
南房総市の場合は市内に6000戸の空き家があり、これは実に全戸数の3割を占めます。当然、コミュニティの弱体化が進む未来もあります。こうした地域の課題を解決しつつ、田舎暮らしを豊かなものにする方法はあるのでしょうか。
全国から延べ100人が参加した『南房総DIYエコリノベワークショップ』
先日、筆者の運営するNPOでは『南房総DIYエコリノベワークショップ』という4日間のイベントを開催しました。隙間風だらけの寒い民家をみんなで断熱改修するというプログラムで、全国から延べ100人超が参加しました。
参加者は、「南房総」「DIY」「エコリノベ」というキーワードのいずれかに惹かれて応募したわけですが、このワークショップは単なる4日間のイベントにとどまらず、「リノベーション田舎づくり」のきっかけを大いに孕(はら)んでいました。
というのも、ワークショップの縁がその後、各地域で自然に、勝手に育ち、何とも楽しげな輪が広がり続けている次第。その縁は「コミュニティ」などという概念におさめたくないようなパワーがあるものなのです。
そこで 「南房総」「DIY」「エコリノベ」というキーワードを軸に、それぞれの掛け合わせがどんな効果を持つか考えてみましょう。
DIY×南房総 ~地域に住まいを“持つ”だけではなく“つくっていく”~
「田舎暮らしをしたい」と思う方がイメージするような古い民家は、修繕箇所がたくさんあります。また、実際に暮らし始めてみると、風情はそのままに現代の暮らしに合った空間にリノベーションしていきたいと思うところも出てきます。
そんな時、「古い家だしなあ、もうちょっとガマンするか」という思いと、「出費が痛いけど見積りとってみるか」という思いの間で悶々とするだけでなく、カンタンな修繕やちょっとした家具づくりなどを自身で手掛けられるようになると、家に対する感じ方がまったく変わってきます。
幸い、古い民家などを賃貸した場合、賃貸マンションなどと違って「壁に穴を開けるな」といったルールはまあほとんどなく、「ボロいかわりに自由にしていいよ」と言われることが多いので、田舎はDIY天国だと言えますね。
DIYのよいところは、空間のできばえだけが価値ではない、というところです。
クオリティは、自分の力量次第。業者に発注したものだと細かい瑕疵が気になるのに、なぜかDIYの空間では失敗も想い出になります。自らチャレンジを許しつつ未来をつくる実験場として、大いに遊ぶことができるわけです。
また、ひとりではなかなか進まない作業もみんなですれば楽しいものとなり、共につくる仲間を募るきっかけとなり得ます。さらに、DIYのスキルアップにより自分でできることが増えて、「お金がなくてもけっこう生きていけたりして…」と生活に自信もついてきます。
さらに、屋外に広い作業スペースがとれる田舎は最高の環境です。金槌やインパクトの音などで近隣に恐縮するほど密集していないため、のびのびと作業できます。むしろ、「何をやってます?」とのぞく隣人と会話が生まれたり、「お宅もやってあげましょうか?」「一緒にやりましょうよ」と交流が生まれることも。
作業を介したコミュニケーションは、実に楽しいものです。
わたしの暮らす南房総には「DIYマフィア」と呼ばれる素敵な集団がいます。知り合いの家を直してまわる腕利きの素人たちで、夜になると直しかけの家で楽しい宴会をし、終わると次に困っている人の家に行きます。きっと彼らは、ただ飲むだけではもう飽き足らないかもしれません。笑。
エコリノベ×南房総 ~快適な地域を個々の住まいからつくっていく~
写真提供:豊口信行さん
エコリノベとは、言葉をそのまま開くと「エコロジカルなリノベーション」となります。
断熱性・気密性など住まいの環境性能を高めて快適さを獲得すること、それに伴って暖房費が削減、CO2排出量も大幅に削減されることが期待できるリノベーションのことで、体感・コスト・環境すべてにプラスを生む動きがつくれるとも言えます。
さらに再生可能エネルギー利用や地域資源の有効活用も抱き合わせで進めていけば、快適な地域をつくる動きにもつながっていきます。
前述の『南房総DIYエコリノベワークショップ』では、築120年の民家に対してエコリノベを行なったわけですが、「古くて寒い家」が見た目はそのままに「古いけれど暖かい家」に変わっていく体感は忘れがたいものになりました。
畳をはがして気密シートを張り、さらに薄いスタイロフォーム(発泡スチロール系の断熱材の一種)を張り、畳を戻すと、足元がじんじん冷えてくる感覚がふっと途切れます。これが家の居心地を悪くしていたのか、と瞬時に気づくほど。
障子面にはポリカーボネート(CDの材質にも使われるポリエステルの一種。強度は金属並みで耐衝撃性が大きい)をはめて、そこに桟木を取り付けて障子を張ることで空気層をつくれば、縁側と室内を障子紙1枚で仕切っていた状態とは比べ物にならないほど断熱性能が高まります。また、天井懐には厚さ100mmの断熱材を敷きこみ、上昇気流で暖かい空気が逃げていくのをきっちり防ぎます。
すべてを終えた後、障子を閉めて小さな石油ストーブをつけると、徐々に部屋のなかが暖まりはじめました。
それまでは、ストーブ周辺にいないと暖かさを確保することができなかったのに、わずか10分程度でフワッと体が温まる程度まで室温が上昇。何より、肌に触れている床面が冷たくないことで体感温度がぐんと上がりました。
つまり
体感温度=(室温+放射温度)÷2
ということ。
放射温度とは物体の表面の温度ですから、これが冷たければいくら空気が暖かくても体感温度は低くなる。逆に、空気が冷たくても陽だまりで床が暖まっていると体感温度は高くなります。
体感と理屈が合致すると、「暖かさを得るためには何をすればいいか」が見えてきますよね。
エコリノベがなぜ、街づくりにつながるのか
「エコリノベ」がなぜ、街づくりにつながるか。
それは、地域の居心地をよくするからです。
“地域の居心地”というのは、外部空間や商業空間といったパブリックスペースの話だけではありません。ひとりひとりの家の居心地が、基本です。そして、「エコリノベ」によって、家の居心地をよくすると同時に地域のつながりを強めることが可能になるのです。
年間5000人近くにものぼるヒートショック(家のなかの急激な温度差がもたらす身体への悪影響)で亡くなる方が1人でも減らせれば、どんなにいいか。
里帰りする子や孫から「おばあちゃんち、寒くて行きたくない…」なんて思われることが減れば、どんなにいいか。
移住トライアルをしてみたはいいが「家が寒すぎる」ということに心が折れて移住を断念する人が多いという現実。こんなところでのつまづきを減らせたら、どんなにいいか。
そのために、大きなお金をかけずに断熱改修をするノウハウが大事になってきます。
業者に発注すると1棟700万円ほどもかかるといわれる断熱改修も、上記のような方法であればかかる実費は20万円程度。
さらに大事なのは、エコリノベのノウハウを地域で共有すること。学びあいながらひとつひとつの家の居心地をよくして、暮らしのクオリティをあげていくプロセスでは、お金で解決していたら絶対に手に入らないものが手に入ります。
それは作業による連帯感であり、達成感の共有であり、結果生まれる仲間意識です。地域のつながりを強めるために、といってヘタなイベントを打つよりよほど効果があると、筆者はひそかに確信しています
「リノベーション田舎づくり」の可能性
「リノベーション田舎づくり」、いかがでしょうか。
既存住宅の価値を上げる、居心地をよくする、といったとき、個別のオーナーや住み手だけがそのメリットを享受するのではなく、1軒の家のリノベーションに地域の人たちを巻き込んでいくことができたら、それは巧(たく)まずして、街づくりにつながります。
また、地元生活者・移住者・二地域居住者が一体となって取り組むことができるものでもあることも特徴のひとつです。
これらのことは、昨年度より南房総DIYエコリノベワークショップを始めてようやく知り得たことです。しかも、当初設定していた到達目標とはすこしずれたところに出てきた効果だったりします。
田舎でこそできることを模索するのは、なかなかに楽しいことです。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。