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週末は田舎暮らし! を始めよう(22)

セミの声、子どもの声にも防音対策!? ”快適さ”って何ですか?

馬場未織

2016/08/12

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セミの声は、心地いい? うるさい?

 今年の夏は仕事を入れすぎて、週末以外はほとんどパソコンに向かう日々。ため息をつきながら、窓を開けます。近くにある公園からセミの大合唱が聞こえてくるのが、わたしにとっては日々の大きな癒しです。

 たまにぶらっと外に出てセミの声のシャワーを浴びると、ここに椅子と机を持ってきて仕事がしたいなあ…と思うことも。

「信じられない。セミってただうるさいだけじゃない?」
娘は、心底共感できない、という顔でわたしを見ます。

「信じられない。セミの声で心が洗われるような気がしない?」
わたしも負けずに言います。

 自分がいいと思うことが、他人もいいと思ったら違うよ、ママ。押しつけないで。常日頃から批判されていますから、そのあたりで会話を切り上げて、再びパソコンに向かいます。

 セミの声はいくら大音量でもまったく癇に障らないのがなぜか、自分でもよくわかりません。

 みなさんは、セミの声は好きですか? うるさいですか?

「賑やかな里山暮らし」と「静かな都会暮らし」

 週末に暮らす南房総の家は、東京の家とは比較にならないほど、生きものたちの賑やかな声がします。

 車道から離れているので車の音はほとんどしませんが(うちに用があって来る人のエンジン音くらい)、そのかわり木のさざめき、竹藪の軋む音、鳥や虫の声などの音が常にしています。

 特に風の吹く日は、裏の竹藪のザワザワが家のなかにいてもよく聞こえます。伸びた竹が家の屋根をなでようものなら、「ゴゴゴゴゴ! ゾゾゾゾゾゾゾ!」と大音響です。ああ、竹の整理をしなければ安眠妨害になってしまう、と慌ててノコギリ片手に家の裏に回ります。

 夜は、人間以外の存在の気配をそこかしこで感じます。田んぼのなかからは無数の蛙の鳴き声が聞こえ、秋になると虫の声にとってかわります。イノシシがブヒブヒと通る音がするので「こっち来たらダメ!」と声をかけると、ザバザバと藪のなかに帰っていく足音がします。たまにフクロウが「ホホッホホーホー、ホッホー」「ホッホー、ホホッホホーホー」と呼応する声が聞こえると嬉しくなります。人間の活動が止むと、人間以外が動き出す。大勢でひとつの土地をシェアしている感覚です。

 都市生活ではどうでしょう。近所の家から騒々しい音がしたり、隣の工事現場からがたがたと音がすると、静かな生活が乱される気分になることがあるのではないでしょうか。昨今話題の保育園建設問題も、「子どもの声がするなんて耐えられない」という生理的な拒否反応が原因だったりします。

 わたしの好きなセミの声も、騒音と認識されることも。近くで鳴くセミの声は70デシベル以上ありますから、「落ち着いて生活できない」と、防音カーテンや防音サッシを導入する人もいるようです。

 都心の住宅街は、本当に静かです。人があまり歩いていない日中などは、しーんと水を打ったようで命の気配を感じないほど。これは「閑静な住宅街」としてひとつの大きな価値となっていますから、静かな環境こそが暮らしやすさだと感じる人は数多くいるということです。

暮らしを改善し続ける先にあるもの

 生活上の物音に対して厳密になっていく現代人の感覚は、静かな環境をどんどん追求していった先にあるのかもしれません。子どもの声や、セミの声も、車道の騒音と同じで「何デシベルあるじゃないか」と対策の対象となっていきます。近所に話し声が漏れる気遣いをするくらいなら、と年中窓を閉め切って空調を頼りに暮らす人もいます。

 確かに、工事の音や、車道の音は、心地よいものではないかもしれません。

 ただ、行き過ぎた静けさの追求は、生きていること=音を出すこと、ということ自体を否定する方向に向かうことになります。物音=悪、ととらえれば、里山での暮らしは耐えられないような代物です。

 心地よさを求めて、人々は暮らしを改善してきました。
 静かな暮らし。清潔な暮らし。面倒な人づきあいの少ない暮らし。

 ただ、それらを手に入れるようになったことと引き換えに、「静かでなければ暮らせない」「誰かが触ったものなんて気持ち悪い」「電話で直接話すなんてしんどい」などと、暮らしのなかに「…ねばならない」が増え、自らストレス要因を増やしていっているともいえます。昨今では、新築の木の匂いが服につくのが気になる、という悩みもあるようで、思わぬものが不快要素だと認識されることも増えています。

 わたしたちは、どこに向かって、どこまで、暮らしを人間向きに改善し続けていくのでしょう。どんな環境に満足し、どんな環境が耐えられなくなるのでしょう。セミの声のする公園は騒音源、ということで、生きものの駆除が行なわれるようになる日も来るかもしれませんね。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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