ハンガリー全土からロゼとスパークリングが集まるワインフェスティバル
パップ英子
2016/06/05
ヴァイダフニャド城 (c)FinoMagazin ( http://www.finomagazin.com/ )
好きなワインが飲み放題の3日間
ここ最近、日本は全国的に夏のような気温の日が続いているようですね。現在、筆者の暮らすブダペストでは至る所では毎週のように楽しい野外イベントが開催され、外出するのがワクワクする、そんな心地よい季節です。
今回、皆様にご紹介するのは、5月初めにブダペストで開催されたワインフェスティバルについて。年1回、Rosaliaというそのイベントは文字通り、ハンガリー全土から極上の“ロゼ”ワイン、シャンパン(*)が一同に集まります。
(*)実際にはフランスのシャンパーニュ地方で生産された発泡酒だけがシャンパンという呼称が許され、それ以外の発泡酒はスパークリングワインと定義されています。
はじめに受付で専用カードに金額をチャージすれば、好きなロゼやシャンパンがグラスで飲み放題! それが3日間も続くという、ワイン好きにはたまらないイベントなんです。
ボートを借りて周遊を楽しむ人の姿もうっすら見えるこの湖、実は冬の間はスケートリンクに変身し、ブダペスト市民の娯楽スポットとして、人々を多いに楽しませてくれます。
今年は、この湖の向こう側にある“古いお城”が入り口で、そのまた奥にある市民公園がイベント会場でした。古城の周りには湖をはじめ、後ほどご紹介する“英雄広場”、そして奥には、ワインフェスティバルの会場となった市民公園があるこのエリア。とてもロマンティックで風情がある場所なので、観光客はもちろん、カップルにも大変人気があるんです。
ロマンティックな“古城”、ヴァイダフニャド城
ヴァイダフニャド城の入り口 (c)FinoMagazin ( http://www.finomagazin.com/ )
当コラムで恒例となってきた建築物の説明ですが、この古城についても説明しますね。
ハンガリー語表記はVajdahunyad、ヴァイダフニャド城と呼ばれるこのお城。ヴァイダフニャド城は、ハンガリーの英雄のひとりにあげられる“フニャディ・ヤーノシュ侯”と縁があるお城といわれています。
“フニャディ・ヤーノシュ侯”は15世紀に実在した、ルーマニア出身(現在のルーマニアは元々、ハンガリーの領土)のハンガリー貴族の名。彼はオスマントルコの大軍をベオグラードで打ち破り、ヨーロッパのイスラム化を阻止した英雄として知られています。
このヴァイダフニャド城は、そんな英雄の居城だった“フニャド城”(現ルーマニアにある城)をモデルに建設されました。ですが実際はお城ではなく、19世紀末、ハンガリー建国千年を祝う万博のために建てられたパビリオンだったんです。
ロマネスクやゴシック、ルーマニア様式など、あらゆる建築様式が融合した美しい外観。なかに入ると、立派な大理石の階段や見事な彫刻のある柱、彩り豊かなステンドグラスの窓やクリスタルガラスのシャンデリアなど、内装もまた美しいのです。
現在はヨーロッパで最大規模の農業博物館を有するヴァイダフニャド城。このロマンティックな“古城”を一目見ようと、日々、大勢の観光客が訪れています。城の門の上に、Rosaliaと書かれた赤いのぼりがありました。
ハンガリーきっての老舗ブランド「トゥルレイ」
(c)フィノマガジン/FinoMagazin( http://www.finomagazin.com )
さて、では本題のワインフェスティバルをレポートしましょう。このイベントでは受付でまず、金額をチャージするカードと専用のワイングラスを購入します。受付を済ませて周囲を見渡すと、市民公園である野外の会場には、約50以上ものワインメーカーやワイナリーがブースを展開し、自慢のロゼ&シャンパンをゲストにふるまっていました。
上の写真は「トゥルレイ」(Törley)という、ハンガリーでも最も有名なワイナリーが展開していたブース。1882年に創業された「トゥルレイ」は、ハンガリーきっての老舗ブランドです。
「トゥルレイ」の創設者、トゥルレイ・ ヨージェフ(Törley József)は、シャンパンの本場であるフランスのシャンパーニュ(ランス)地方で、本格的に複雑な製造知識を学んだ人物。本場シャンパンの醸造技術を活かして発泡酒の生産を開始した「トゥルレイ」は今日、ハンガリーを代表するワインブランドとして、世界中のワイン愛好家達に親しまれています。
(c)FinoMagazin ( http://www.finomagazin.com/ )
フェスティバル会場ではこのように、木のテーブルと椅子がところどころに配置され、人々が思い思いに腰掛けて、会話とともに美味しいワインを堪能しています。爽やかな初夏の風を感じながら、緑豊かな空間で試飲するシャンパンの味は格別でした。
(c)FinoMagazin ( http://www.finomagazin.com/ )
とあるワイナリーのブースをのぞくと、自慢のロゼワインたちが、氷水の入ったワイン(シャンパン)クーラーのなかに寝かされていました。
ワイン好きの方ならよくご存知の光景ですが、ワイン知識をさほど気にしていない方だと意外に知らないかもしれません。冷やして飲むのがベストなシャンパンなどの発泡酒は、そのボトルをこのようにワインクーラーのなかに水と氷をはり、さらにはお塩をふたつまみほど入れて冷やします。氷はできれば、ボトルの首くらいまであるのが理想です。
なぜお塩を入れるのかというと、塩を入れることで凝固点が0℃より下がるので、シャンパンを素早く冷やすことができるんですね。10分ほど待てば、飲み頃としてベストな温度にまで冷やすことができます。
ハンガリーワインの名産地、エゲル地方の爽やかな白ワイン
Tarjányi IGAZGYÖNGY2015 (c)FinoMagazin ( http://www.finomagazin.com/ )
実は元々、都内の食品会社で仏、伊、豪州のワインインポーター業務に従事し、資格も取得してワイン道を邁進していた若かりし頃の筆者。当時の職務と試験勉強で培った知識は、現在はワインの商品コピーやワインコラムなどで生かせていますが、ワインの世界は本当に奥が深くて、永遠に学ぶことだらけです。
とはいえ、ワインはあくまでも“飲み物”ですから、いかに美味しくいただくかがすべてではないかと思います。
そんなワイン好きな筆者はこのイベントに2日間足を運びましたが、お酒が弱くなったのか、試飲できたのは10種類ほどでした。10本のワインの中から選んだいちばんのお気に入りは、エゲル地方のお手頃価格な白ワイン。ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ビアンカ、トラミネールといった白ワインの葡萄品種を4種ブレンドしてつくられた微発砲酒、白のスパークリングワインでした。
このワインの生産者は、エゲル地方にある「タールヤーニ」(Tarjányi)というワイナリー。“IGAZGYÖNGY”の名前には、真珠=パールのようにキラキラと輝くワインという意味合いが込められているのだとか。文字通り、光にかざすとワインの小さな気泡がパールのようにキラキラと輝いていました。
このワイン、最初に果実や花の香りを感じると、口に含めば小さな気泡が心地よくマイルドに広がり、さらには、爽やかな味わいの余韻がじわじわと続きました。
このワイナリーがあるエゲル(Eger)はヘヴェシュ県の県都で、白ではなく赤ワインの生産地として大変有名な場所。ですが、今回、気に入ったのは白のスパークリングワイン。初夏にぴったりの爽やかな味わいが楽しめましたよ。
ところで皆様は、「アロマ」と「ブーケ」という言葉をご存知でしょうか? ワインをテイスティングする時、ワインの色合い、香り、味わいをチェックしますが、これらの用語は香りを確認するときに使用する言葉なのです。
“アロマ”には第一、第二とあり、第一アロマはブドウ自体から出る香りやブドウ成分が発酵中に変化した香りを、第二アロマは発酵中に酵母や乳酸菌が生成した香りを意味します。その後、ワイン熟成中に生まれる香りを「ブーケ」と呼ぶのですが、なんだかさっぱり分からないという方もいらっしゃるでしょう。
よくワイン愛好家が試飲前にグラスを回すシーンを目にするかと思います。それはスワリングといって、そのグラスを動かす行為の前に感じる香りをアロマ、回した後に感じる香りをブーケと覚えるとわかりやすいですよ。
ワイングラスの脚は長いほうがいいの?
(c)FinoMagazin ( http://www.finomagazin.com/ )
“Rosalia”はお昼前から午後10時までと大変長いイベントなので、夕方以降から訪れる人々がとても多かったです。夜、ライトアップされた会場は、とても雰囲気があり、お酒好きにはかなり心地良い空間でした。
これはトカイ地方(*2)のワインを試飲した時に撮影したワイングラス。“Rosalia”という文字がペイントされたイベント専用グラスは、会場でテイスティングした後、もちろん持ち帰りOKです。そのため、なかには昨年使用したワインを今年も持ち込もうとする人が毎年います。
しかし、このワイングラス、タイトルのペイントの色が毎年違う色で、昨年のグラスでは試飲できないんです。そのため毎年、ブースで試飲を拒否されるお客さんの姿はよくある光景で、このイベントの小ネタにもなっています。
ワイングラスに話を戻しましょう。皆様はご自宅にあるワイングラスの形状、よくご覧になったことがありますか。
ワイングラスの持ち手は、ワイン業界では脚と呼ばれています。このグラスの脚、その長さなのですが、長きにわたりワインスクールや文献などでは、グラスの脚が長いほうがよいワイングラスであると説明されていて、筆者もずっとそのように認識していました。
なぜ、グラスの脚が長いほがよいワイングラスだとされていたのでしょうか? その理由は持ち手(脚)が短いと、体温がワインに伝わって温度が上がってしまうことや、長い方がスワリング(グラスを回して香りを楽しむこと)しやすいといった理由からです。
しかし近年になって、ボール(ワインの入るところ)の部分を持っても、何の温度変化の無いことが「証明」されたそうで、ワイングラスのトップブランド、リーデル社さんでも脚が長いワイングラスを推奨するような表記はありません。
ただし、いまだに脚が長いほうがいいと信じていらっしゃるワイン業界の方が多いのも事実なので、上記の意見を述べても断固違うと主張される方もいらっしゃるかもしれません。筆者の個人的な感想としては、脚が短いワインだと、ワイン本来の香りや味わいが脚の長いワインよりも感じられないことは確かに多く、長いほうが美味しい状態でいただけるような気がします。
ワイングラスの知識をもう1点、お伝えしますね。実はこのワインを注ぐ量、グラスに注ぎすぎないことがポイントなんです。そうするとグラスのなかに広い空間が生まれ、ワインと空気を十分に触れ合うので、ワイン本来の“アロマ”(香り)を感じることができるためです。赤ワインなら約120〜150cc、白ワインなら約90ccほどグラスに注ぐのがベストですよ。
ハンガリー建国千年を記念して建設された英雄広場
Rosaliaの会場を後にして、バス停に向かって歩いていると、夜、ライトアップされてますます神々しくなった英雄達の姿が! ここは1896年、先ほどの古城と同様、ハンガリー建国千年を記念して建設された英雄広場という場所。英雄広場はとても広々としていて、市民のシンボルのような広場なんです。
中央には高いポールが立ち、その両側に羽根を広げるように半円を描きながら大列柱が並んでいます。
大列柱の左半分は誰が祀られているのかというと、ハンガリーの初代国王イシュトヴァーン、また、ブダ王宮を建設したべーラ4世や、前回コラムでもお伝えしたマーチャーシュ王など。そして、右半分にはラーコーツィ・フェッレンツやコシュート・ラヨシュなどハンガリーの政治家や将軍達が祀られています。
まさにこの国の英雄のみが讃えられている広場で、ハンガリー史を語る上でかかせない重要人物の姿ばかりです。
ガイドツアーなどでは必ずといっても良い程、英雄広場が行き先に入っている英雄広場。バスやトラムなど公共機関でブダ側から訪れる場合は、英雄広場を抜けると湖が見え、会場となった古城、市民公園へとたどり着けます。
ハンガリーはトカイ地方のトカイ・アスー・エッセンシアという白ワインが最高級ワインに認定されていますが、今回のフェスティバルはロゼとシャンパンがメインでしたので、トカイワインについては機会があればご説明しますね。
ロゼとシャンパンワインのフェスティバルRosaliaの様子、いかがでしたでしょうか?
6月にはブダ王宮でビール・フェスティバルもあり、初夏から秋口まで、お酒好きにはたまらないイベントが続くハンガリー。この国の人々は、チェリーなどの果物からつくられるパーリンカという蒸留酒を愛飲していて、昼間からアルコール摂取するのはごく自然なことで、本当にお酒好きな人ばかりです。
お酒が楽しめる人生とは、より豊かな食生活を楽しめることを意味するのでしょう。ただし、お酒で羽目をはずしすぎないように、マナーを心がけながら、その上で、美味しくいただきたいものですね!
この記事を書いた人
“FinoMagazin”(フィノマガジン)主宰(編集長)
ハンガリー在住コラムニスト。 食品会社でワインインポーター業務に従事した後、都内の広告代理店に転職。コピーライター、ディレクターとして勤務。百貨店やデパート、航空会社、ベビー・ブランド等のクリエイティブ広告で、インテリア製品のコピーライティング、ディレクション等を数多く手がける。 2013年、夫の国ハンガリーに移住後も育児に奮闘しながら執筆業に邁進。日本の雑誌(出版社)でハンガリー紹介記事(取材・撮影・文)を担当。また、自身とハンガリー人クリエイターとで運営するブダペスト発ウェブメディア“FinoMagazin”でもインテリアを含めたライフスタイル全般コラムを連載。美容メディアにてビューティ・コラム連載、その他、企業のWEBサイトや企画書制作、日本のTV局、広告代理店、メーカーからの依頼でハンガリー現地ロケ・コーディネート等、多岐に渡る業務をこなしている。 自身主宰のハンガリー情報WEBメディア “フィノマガジン” http://www.finomagazin.com/