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週末は田舎暮らし! を始めよう(11)

週末田舎暮らしでどこに住む? どう暮らす? 決められず悩むあなたへ。

馬場未織馬場未織

2016/03/25

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田舎暮らしイベント、参加者にとって意義は?

二地域居住、二拠点生活、といったカテゴリーが一応確立されてから数年経ちます。

わたしは、ちょっとだけほかの人よりも早くこのライフスタイルを実践しているという理由から、しばしば、二地域居住や二拠点ワークのレクチャーや、現場を回るツアーのアテンドをする役回りを求められるようになりました。

千葉、南房総といった地域限定のものや、「二地域居住」「都市農村交流」といったコンテンツのイベントなどさまざまな集まり方があり、少しずつ興味やモチベーションの違う方たちと接することとなります。

これらの、地方活性にまつわるイベントは日々全国で開催されていて、興味があれば毎週参加できるくらい充実している状態です。また、以前は参加者サイドに座っていた方が、いつの間にか講師サイドにいらっしゃることもあり、こうしたイベントをきっかけに暮らしを変えることになった方が実際にいるのだなあと感慨深く思うことがあります。

と、いいつつ。

一方で、参加者の方々はこれらのイベントの後、どんな思いを持ち帰っているだろうか、と考えることも、あります。
主催者や講師などには「とてもよかったです!」「刺激をいただきました!」という感想が届くことがほとんどですが、実際のところは、どうでしょうか。

情報に触れることで、知った気になる

主催サイドは、未知の世界へ参加者を誘う立場として、なるべく意義のある時間や内容を考えるように努力していると思いますが、それでも、限られた時間のなかで伝えられることは限られています。
あるいは、ある種の刺激的な内容や、わかりやすい事例など、瞬発力のある情報ばかりが届いてしまい、リアルな暮らしとはちょっと違う次元でイメージがつくられてしまうこともあると思います。

たとえば、都市部で開催されるイベントでは、移住者や二地域居住者など暮らしの実践者から話を聞きます。
お得ですよね! 現地へ出向かなくても情報がやってくるのですから。

発信者はとっておきの画像や動画も使って暮らしの様子を伝えてくれますし、懇親会などもあるわけです。興味を持つ地域の住民とつながることができ、リアルな情報をもらうこともできます。

ただし。

それらの「リアルな情報」は、あくまで、「情報」です。
新しく始めたい生活をイメージするとっかかりにはなるかもしれませんが、それはまさに、ほんのとっかかりに過ぎません。

情報発信サイドとしては、なるべくビビッドで楽しい話をします。成功したイベントについてや、感動した話などを、数珠つなぎにして。日常の地味な作業のことや、何となく手こずっていることなどをわざわざ伝えないことのほうが多いかもしれない。

そうだよね、確かに話だけじゃわからないよねということで、地元の生活を見せてもらう現地ツアーなどがありますね。こちらに参加する方たちは、ぐっと現実的に検討をしていたりします。

見せてもらえる場所も、観光名所ではなく実際の暮らしぶりですから、いろいろ感じることは多いはずです。古民家のDIY、移住者の開いたカフェ、新規就農した農家さん、オリジナリティあふれる宿泊施設など。もやもやしていた「やりたいこと」に輪郭が与えられ、ひょっとしたら自分もできるかも、と思うかもしれません。

というか、それこそが企画側の願いなんですけどね。

ただし。

見学先を30分、くるっと回って話を聞いてわかることは、やはり30分ぶんのことだと思ってください。
見ると聞くとは大違いですが、住むと見るとはこれまた、大違いです。

当たり前のことのようですが、「知った気になる」ことの弊害は、存外大きいものです。
あんな感じね、こんな苦労ね、ここがポイントね、と理解することで、すでに経験したかのような錯覚に陥り、「もっといいところはないかな」とほかの地域も見て回る。そのうち、感覚が麻痺してきます。どれも似たり寄ったりね、もっとこう、ずば抜けて感動する場所ないかしら、と。

相対評価をし始めると、もはや批評者の視点でしか見られなくなってきます。

決め手は、自分でつくるもの

わたしはよく、「ひとつのところに住む」というのは、結婚みたいなものだな、と思うことがあります。

結婚生活はいろいろあります。価値観が違ってケンカもします。うんざりもします。でも、お互いがつくりあげてきた暮らしがあるわけで、そのかけがえのなさに気づいて、続けていく。

長い時間つきあっていくなかで、互いが歩み寄りながら、調和の形をつくり出していくわけです。
それは、夫婦ごとにすべて違う形で、単純に引き比べられるものではありません。
絶対評価なのです。

移住や二地域居住を始めようとする方は、セミナーやツアーで得た出会いをとっかかりに、改めてご自身で情報を得て、縁をつくり、その縁を育ててみてはいかがでしょうか。

縁は、育てなければ続きません。また、育てるのには労力を伴います。小さな決断の連続ですし、慣れないことだってしなきゃならない。でも、そうして育てた縁は、もはやほかと比べるようなものではなくなります。愛着が芽生え、心が通い、かけがえのないものとなっていきます。

苦労は、喜びと表裏一体であることに、気づく瞬間です。

「房総もいいし、山梨もいいし、茨城もいいけど、決め手がね」というあなた。

決め手は、外にはないです。
決め手は、自分がつくるものだと思います。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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