知っておきたい名作家具(4) フィン・ユールの美しき世界(2/2ページ)
パップ英子
2016/02/14
メーカーのために生み出されたふたつの作品
(左)(c)flickr/Hyeon Kim title:Scandinavian Furniture Exhibition (右)(c);©flickr/Pat M2007 title:Furnishings by Finn Juhl
次にご紹介する作品は写真の左側のソファ。1951年、フィンがアメリカの家具会社“Baker Furniture Inc.”(ベーカー・ファーニチャー) のためにデザインしたものです。
モダンアートに感銘を受けた、流れるようなエレガントな曲線と彫刻的なフォルムが特長のグレーのソファ。家具会社の『ベーカー』の名が、そのままソファ名になりました。
写真のお宅では、リビングの主役となる『ベーカーソファ』とマットの色を合わせ、部屋全体に統一感を出しています。床が明る目のフローリングなので、グレーのソファや黒のデスクが目についても暗い雰囲気にはならず、カラーバランスがとても絶妙なコーディネートですね。
一方、右の写真は『46 Sofa』という名前がついた、やや小さめのふたり掛けソファ。この作品もまた、フィンが小さなソファメーカー "Carl Borup" のために1946年にデザインしたものなのだそうです。
先に述べた『ポエト』と同じくらいの大きさですが、『ポエト』に比べて緩やかなエッジでつくられた本体部分や座面部分の厚めのクッションのせいか、よりボリュームがあるつくりに見えますね。
カラフルな引き出しがキュートな『ダブル・チェスト・キャビネット』
出典: ©flickr/Miss Copenhagen title;Finn Juhls Hus (15)
とてもカラフルな引き出しに遊び心が詰まったこのキャビネット。
フィン・ユール作の『ダブル・チェスト・キャビネット』は、支柱を軸にして、中央から開くと、このカラフルな引き出しがパッと現れる楽しい仕掛けとなっています。
お茶目で愛らしいデザインは、眺めるだけで思わず笑顔になりますね。
フィン・ユールがつくり出したデンマークのモダン・インテリア
ここでもういちど冒頭の写真をご覧ください。とても奥行きのあるリビングルームは、1942年彼が30歳のときに建てた自身の家です。暖炉のある広々としたリビングで、大きな窓から美しい庭が見渡せるようになっています。
彼はこの家にあるものすべて、建物に始まり、家具、カトラリーに至るまでデザインしました。そして、完成の暁には自身で大絶賛したほど、情熱を注いだ芸術作品だったのです。
『フィン・ユール・ハウス』が建った当時は、その室内の色使いや外光の取り入れ方、家具のレイアウトなど、世間の人々にとって真新しいものでしたが、今日ではこの家は、デンマークにおけるモダン・インテリアの本流となり、世界中のインテリア・ファンが訪れる聖地のようになっています。
彼が活躍した1940-50年代は、まさにデンマークのモダン・デザインが開花した時代でした。
その功績を讃えて創設された「フィン・ユール・デザイン賞」では、毎年、革新的な業績を残したデンマークのクリエイターにその賞が授与されることになっています。
今回はデンマークのモダン・デザインを牽引し、家具の彫刻家と評されたフィン・ユールの名作家具をご紹介しました。次回もまた、名作家具に迫ります。どうぞお楽しみに。
この記事を書いた人
“FinoMagazin”(フィノマガジン)主宰(編集長)
ハンガリー在住コラムニスト。 食品会社でワインインポーター業務に従事した後、都内の広告代理店に転職。コピーライター、ディレクターとして勤務。百貨店やデパート、航空会社、ベビー・ブランド等のクリエイティブ広告で、インテリア製品のコピーライティング、ディレクション等を数多く手がける。 2013年、夫の国ハンガリーに移住後も育児に奮闘しながら執筆業に邁進。日本の雑誌(出版社)でハンガリー紹介記事(取材・撮影・文)を担当。また、自身とハンガリー人クリエイターとで運営するブダペスト発ウェブメディア“FinoMagazin”でもインテリアを含めたライフスタイル全般コラムを連載。美容メディアにてビューティ・コラム連載、その他、企業のWEBサイトや企画書制作、日本のTV局、広告代理店、メーカーからの依頼でハンガリー現地ロケ・コーディネート等、多岐に渡る業務をこなしている。 自身主宰のハンガリー情報WEBメディア “フィノマガジン” http://www.finomagazin.com/