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「家具の彫刻家」と讃えられる北欧家具の巨匠

知っておきたい名作家具(4) フィン・ユールの美しき世界

パップ英子パップ英子

2016/02/14

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出典:Ordrupgaard | Finn Juhls hus - arkitektur og møbler i verdensklasse

「家具の彫刻家」が生み出す斬新なデザインと美しい曲線

これまで、ハンス・J・ワグナー、アルネ・ヤコブセンなど、北欧インテリアの巨匠達が生んだ名作家具を取り上げてきました。今回は、上述したふたり、そして、ボーエ・モーエンセンとともに、北欧の名作家具の4大巨匠に数えられる人物、フィン・ユールの美しい世界をご紹介します。

フィン・ユールはもともと建築家でしたが、モダンアートの影響を大きく受けたその彫刻的なデザインは、長く建築業界から異端のレッテルを貼られていたそうです。

しかし、そのデザイン形態の斬新さ、美しい曲線、さらにその完璧なまでに美しいディテールで、しだいに世間から「家具の彫刻家」と讃えられるようになりました。

デンマークの家具を世界に知らしめた巨匠の生涯


出典:Finn Juhl Art Museum Club

20世紀中頃、それは北欧家具の黄金期と呼ばれた時代。その時代に大活躍したのが、名作家具を次々に生み出したデンマーク人のフィン・ユールです。先に述べましたが、彼の家具のいちばんの特長は、その美しい曲線と考え抜かれた完成美にありました。

まずは、デンマークが生んだ巨匠フィン・ユールの生涯について触れたいと思います。

1912年、彼はデンマークのコペンハーゲンで生まれました。デンマーク王立美術大学で建築を学び、1934年に大学を卒業。その後、建築家のヴィヘルム・ラオリッツェンの事務所で働き始めました。

建築学を専攻していたフィンのデザインは、当時のインテリアマイスター達のものと大きく異なっていました。そのため、彼のデザインの独創性の部分ばかりが悪目立ちしてしまい、実際の家具構造については脆弱さが見え隠れしていたのです。

そんな彼に対する世間の評価が変わったのは1937年のこと。当時スネーカーマスター(技を極めた家具職人の最高位)として有名だったニールス・ヴォッダーという人物とパートナーを組むようになり、キャビネットメーカーの展示会に出展します。

ヴォッダ―とパートナーを組んだ途端、それまでは世間から否定されていた彼の「脆さと独創性」が、世間から魅力的な個性として認められるようになったのです。さらにフィンは、加工がむずかしいといわれたチーク材を積極的にメイン素材として取り扱うことにも成功しました。

そうして1940年、彼はあの『ペリカン・チェア』を発表します。

世界の名作と呼ばれるふたつの作品


(左)(c)flickr/Joe Wolf title:Finn Juhl Pelican Chair DWR (右)(c)flickr/Joe Wolf title:Finn Juhl Poet Two-Seater Sofa DWR

左の写真は、翼のような可愛いらしいフォルムで、ペリカンチェアと名づけられた椅子。

誕生してから80年近く経た今日もなお、特に女性達からとても愛されている名作家具です。翼の部分が身体を優しく包み込み、低めの座面が上質のくつろぎを与えてくれます。

ペリカンチェアの翌年、1941年にフィンが発表したのが写真の右側の作品『ポエト』。このソファもまた、世界の名作と謳われる家具のひとつです。

『ポエト』という名は、彼が愛読していた本に登場する詩人(Poet)のことで、そのポエトが使っていた椅子をもとにデザインしたソファなのだそうです。このソファは彼の自邸に置くためにデザインしたといわれています。

フィンが彫刻家のエリック・トーマセンや、ハンス・アルプのレリーフといった、モダンアートの影響を大きく受けたことでも知られるソファです。『ペリカンチェア』と『ポエト』は、彼にとって初期の代表作ともいえる名作家具でした。

メーカーのために生み出されたふたつの作品


(左)(c)flickr/Hyeon Kim title:Scandinavian Furniture Exhibition (右)(c);©flickr/Pat M2007 title:Furnishings by Finn Juhl

次にご紹介する作品は写真の左側のソファ。1951年、フィンがアメリカの家具会社“Baker Furniture Inc.”(ベーカー・ファーニチャー) のためにデザインしたものです。

モダンアートに感銘を受けた、流れるようなエレガントな曲線と彫刻的なフォルムが特長のグレーのソファ。家具会社の『ベーカー』の名が、そのままソファ名になりました。

写真のお宅では、リビングの主役となる『ベーカーソファ』とマットの色を合わせ、部屋全体に統一感を出しています。床が明る目のフローリングなので、グレーのソファや黒のデスクが目についても暗い雰囲気にはならず、カラーバランスがとても絶妙なコーディネートですね。

一方、右の写真は『46 Sofa』という名前がついた、やや小さめのふたり掛けソファ。この作品もまた、フィンが小さなソファメーカー "Carl Borup" のために1946年にデザインしたものなのだそうです。

先に述べた『ポエト』と同じくらいの大きさですが、『ポエト』に比べて緩やかなエッジでつくられた本体部分や座面部分の厚めのクッションのせいか、よりボリュームがあるつくりに見えますね。

カラフルな引き出しがキュートな『ダブル・チェスト・キャビネット』


出典: ©flickr/Miss Copenhagen title;Finn Juhls Hus (15)

とてもカラフルな引き出しに遊び心が詰まったこのキャビネット。

フィン・ユール作の『ダブル・チェスト・キャビネット』は、支柱を軸にして、中央から開くと、このカラフルな引き出しがパッと現れる楽しい仕掛けとなっています。

お茶目で愛らしいデザインは、眺めるだけで思わず笑顔になりますね。

フィン・ユールがつくり出したデンマークのモダン・インテリア

ここでもういちど冒頭の写真をご覧ください。とても奥行きのあるリビングルームは、1942年彼が30歳のときに建てた自身の家です。暖炉のある広々としたリビングで、大きな窓から美しい庭が見渡せるようになっています。

彼はこの家にあるものすべて、建物に始まり、家具、カトラリーに至るまでデザインしました。そして、完成の暁には自身で大絶賛したほど、情熱を注いだ芸術作品だったのです。

『フィン・ユール・ハウス』が建った当時は、その室内の色使いや外光の取り入れ方、家具のレイアウトなど、世間の人々にとって真新しいものでしたが、今日ではこの家は、デンマークにおけるモダン・インテリアの本流となり、世界中のインテリア・ファンが訪れる聖地のようになっています。

彼が活躍した1940-50年代は、まさにデンマークのモダン・デザインが開花した時代でした。

その功績を讃えて創設された「フィン・ユール・デザイン賞」では、毎年、革新的な業績を残したデンマークのクリエイターにその賞が授与されることになっています。

今回はデンマークのモダン・デザインを牽引し、家具の彫刻家と評されたフィン・ユールの名作家具をご紹介しました。次回もまた、名作家具に迫ります。どうぞお楽しみに。

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この記事を書いた人

“FinoMagazin”(フィノマガジン)主宰(編集長)

ハンガリー在住コラムニスト。 食品会社でワインインポーター業務に従事した後、都内の広告代理店に転職。コピーライター、ディレクターとして勤務。百貨店やデパート、航空会社、ベビー・ブランド等のクリエイティブ広告で、インテリア製品のコピーライティング、ディレクション等を数多く手がける。 2013年、夫の国ハンガリーに移住後も育児に奮闘しながら執筆業に邁進。日本の雑誌(出版社)でハンガリー紹介記事(取材・撮影・文)を担当。また、自身とハンガリー人クリエイターとで運営するブダペスト発ウェブメディア“FinoMagazin”でもインテリアを含めたライフスタイル全般コラムを連載。美容メディアにてビューティ・コラム連載、その他、企業のWEBサイトや企画書制作、日本のTV局、広告代理店、メーカーからの依頼でハンガリー現地ロケ・コーディネート等、多岐に渡る業務をこなしている。 自身主宰のハンガリー情報WEBメディア “フィノマガジン” http://www.finomagazin.com/

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