「病気」とはいったい何か?――漢方医学の基本「三陰三陽思考」 その1(1/2ページ)
杉 幹雄
2020/11/25
イメージ/©︎Sergii Sverdielov・123RF
重要なのは臓器のバランス
私は子どものころから病弱だったことから「病気という現象はどのようなものか?」と考えることがよくあり、大人や病院に行ったときに医師によく質問しました。しかし、納得できる説明を受けたことがありませんでした。
これは大学の医学部に入り、医学について学び医師になっても、病気の本来の姿が分かりませんでした。そんな中で漢方や整体、鍼灸の治療を受けたとき、その疑問に一筋の光を与えて下さったのが鍼灸師の恩師の谷佳子先生でした。
ただ、学校で学ぶようなものではありません。
昔の医療の現場では、今のように優しく教えを受けるのではなく、学びたければ自分でという世界でした。つまり「大匠は教うるに規矩をもってし、人をして巧ならしめず」(偉大な師匠というものは、およそ基準を教えるだけで、こまごまとした小刀細工的なことは教えないもの)の通りで、恩師の谷佳子先生から漢方のことを直接教えて頂いたことはありません。今から思うと「物事の捉え方を悟らせ、次に漢方を悟らせること」を意図していたのかも知れません。
そんな教えを受け、自らも実際に漢方治療を採り入れながら日々の診察から病気の姿を求めていると、漢方医療を解説した『傷寒論』に記された薬草構成から不思議なことに気づくことができました。
それは「病気という現象は臓器バランスを崩している姿」であるということです。
『傷寒論』では病気の状態を「陽病」と「陰病」に分け、陽病から陰病へと症状が進行し死に至るとされています。陽病の状態を3つ、陰病の状態を3つに分けていることからこれを「三陰三陽思考」といっています。そして、『傷寒論』では、この「三陰三陽思考」を基盤としています。
話はそれますが、漢方について書かれた本を見ると、これに五行説(万物は火・水・木・金・土の5種類の元素からなるという考え方)も加えられていますが、これは後世に伝えることを考えた他の著者が序文に五行説の観念を入れたものです。
『傷寒論』では「陰陽」と、それに並んで漢方医学では欠かせない概念である「気血水」についてのみ書かれています。このことは大塚敬節先生も『傷寒論解説』の中で指摘しています。
つまり、漢方医学の原点である傷寒論処方では、臓器のバランスを重視して治療構成をしており、これこそが漢方医学の基本の考え方に他なりません。言い換えれば、本来の漢方医学において五行説は重要ではないのです。
この記事を書いた人
すぎ内科クリニック院長
1959年東京生まれ。85年昭和大学医学部卒業。国立埼玉病院、常盤台病院、荏原ホームケアクリニックなどを経て、2010年に東京・両国に「すぎ内科クリニック」を開業。1975年大塚敬節先生の漢方治療を受け、漢方と出会ったことをきっかけに、80年北里大学東洋医学研究所セミナーに参加。87年温知堂 矢数医院にて漢方外来診療を学ぶ。88年整体師 森一子氏に師事し「ゆがみの診察と治療」、89年「鍼灸師 谷佳子氏に師事し「鍼治療と気の流れの診察方法」を学ぶ。97年から約150種類の漢方薬草を揃え漢方治療、98年からは薬草の効力別体配置図と効力の解析を研究。クリニックでは漢方内科治療と一般内科治療の併用治療を行っている。