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斎藤道三に追い出された美濃の土岐家と明智光秀の関係

菊地浩之菊地浩之

2020/06/24

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明智光秀像(本徳寺蔵)

源氏との関係が深い土岐家の系譜

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・明智光秀は、美濃守護(みのしゅご)の土岐(とき)家の一族と称している。

土岐家は清和源氏でも有数の名門で、酒呑童子(しゅてんどうじ)を退治したという源頼光(みなもとの よりみつ)の子孫、平家に謀叛した源三位頼政(げんさんみ よりまさ)の又従兄弟にあたる土岐光信(とき みつのぶ)が、美濃国土岐郡(岐阜県土岐市)に住み、土岐氏を名乗ったことにはじまる。

光信の曾孫・土岐光行(みつゆき)は源頼朝に仕え、その孫・土岐頼貞(よりさだ)は足利尊氏に従ったという(頼朝と尊氏の年齢差はおおよそ150年くらいなので、頼貞が光行の孫ということはあり得ない。間の人物を大幅に省略しているか、もしくは偽系図だということだ)。

頼貞の弟・土岐頼遠(よりとお)は戦にはめっぽう強く、美濃守護に任ぜられたが、バサラ大名と呼ばれた乱暴者の代表で、光厳(こうごん)上皇が乗った牛車(ぎっしゃ)に対して「院(いん:上皇)と言うか、犬と言うか。犬ならば射ておけ」と矢を放ち、乱暴を働いた。こんな人物でも助命嘆願が相次いだというから、よほど軍事の才能があったのだろう。ただ事態を重く見た足利家によって処罰された。

名門の一族も下克上によって零落

甥の土岐頼康(よりやす)は、室町幕府の要職・侍所別当(さむらいどころのべっとう)に任ぜられ、土岐家は「四職」(ししき)の一角を担う名門とされた。

しかし、応仁の乱の頃から守護代・斎藤家が擡頭(たいとう)して土岐家は零落し、その斎藤家をも乗っ取った斎藤道三(『麒麟がくる』では本木雅弘)によって、美濃守護・土岐頼芸(よりのり[よりなり、よりあきともいう]:尾美としのり)は美濃から追放されてしまう。頼芸は、妻の義甥にあたる朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)を頼って越前(福井県)に逃げ落ちた。

ところが、優柔不断で厄介ごとを嫌う義景は、頼芸の亡命を許さず、頼芸は上総国(千葉県)に逃げのびた。斎藤家が織田信長(染谷将太)によって滅ぼされると、信長に転仕した稲葉一鉄(いなば いってつ:村田雄浩)は旧主・頼芸を美濃に迎えた。本能寺の変の半年後、頼芸は82歳の天寿を全うしたという。

京都府京都市中京区下本能寺前町にある本能寺/©︎teraken0925・123RF

歴史オタクの家康によって高家と大名に取り立てられて

頼芸の嫡子・土岐頼次(よりつぐ)は、松永久秀(吉田鋼太郎)、豊臣秀吉(佐々木蔵之介)を経て、徳川家康(風間俊介)に仕え、旗本になった。頼次の子・土岐頼勝(よりかつ)は1000石を領し、高家(こうけ)に列した。赤穂浪士に討たれた吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしなか)で有名な、あの高家である。つまりは、名門の家柄なので高級旗本として遇してあげるから、儀式・礼典でがんばってくださいということなんだろう(斬りつけられない程度にね)。

ところが、頼勝の曾孫・土岐頼泰(よりやす)が、こともあろうに酔っ払って通行人を傷つけた(斬りつけちまった?)ので改易されてしまう。高家の座は、一族の土岐頼元(よりもと)の子孫が引き継いだ。

実は土岐一族は大名にもなっている。

子孫が幕府に提出した系図によると、明智光秀の一族・土岐定政(さだまさ:旧姓・菅沼)は美濃国多芸(たぎ)郡に生まれ、2歳で父が討ち死にしたので、母の実家・三河の菅沼家に身を寄せ、家康に仕えた。数多くの武功を上げて1万石の大名となったのだが、家康は歴史オタクの名門好きなので、土岐姓を名乗るように命じたという。

明智光秀で有名な明智家は土岐一族と称しているが、真偽は不明で、ここにあげた系図も偽系図の可能性が極めて高い。明智家は美濃明智の発祥とされるが、美濃には可児郡明知庄(かにぐんあけちのしょう:岐阜県可児市瀬田)と恵那(えな)郡明知(岐阜県恵那市明智町)の2つの明智が存在する。2つの明智はともに東美濃に位置するが、困ったことに、定政が生まれた多芸郡(岐阜県養老郡養老町)は西美濃にある。むしろ、多芸郡の土岐多良庄(ときたらのしょう)近くの生まれだから土岐を名乗った考えた方が合理的だと思われる。

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この記事を書いた人

1963年北海道生まれ。国学院大学経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005-06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、国学院大学博士(経済学)号を取得。著書に『最新版 日本の15大財閥』『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』『徳川家臣団の謎』『織田家臣団の謎』(いずれも角川書店)『図ですぐわかる! 日本100大企業の系譜』(メディアファクトリー新書)など多数。

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