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【京都で愉しむセカンドライフ】新たな趣味ではじまったデュアルライフ――茶道に学ぶ

奥村 彰太郎奥村 彰太郎

2020/05/29

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菊水鉾お茶席

気持ちが癒された茶道の魅力

セカンドライフの趣味として茶道を習い始めて9年目になる。

始めたきっかけはファイナンシャル・プランナー仲間からの誘いだ。東日本大震災の直後でもあり、心がざわつく日々が続き、気持ちを変えなければと思い茶道体験に臨んだ。

先生の茶室に伺った際、床の間の掛け軸や美しい茶道具、茶釜の沸く音、炭の匂い、抹茶の香りと味、そして釜に水をさした瞬間、湯の沸く音が消え、茶室に静寂の間が訪れた。初めての体験で一気に五感が開く感覚を味わって気持ちが癒された。それ以来、茶道に興味が湧き稽古を続けている。

茶碗や茶入、茶杓といった道具一つひとつに銘があり来歴がある。抹茶を入れる器の「棗(なつめ)」は、漆塗りで綺麗な蒔絵が施されているものや、木目の美しさを見せているものなど茶道具を拝見するだけでも楽しい。床の間の掛け軸の墨跡もさまざま、茶花も生けられ部屋の中に季節感を演出する。
初夏からは畳の上に「風炉」という火鉢のような道具を置き茶釜をかける。秋も深まると畳の一角に小さな囲炉裏のような「炉」が開かれ、畳より低い位置に釜が置かれる。茶道具を並べる位置も変わり部屋の趣がガラッと変わる。

抹茶を飲む機会はこれまでもあったが、抹茶に薄茶と濃茶があり、一椀を数人で回し飲みする濃茶の経験は初めてだった。茶を点てるというが、濃茶は「練る」感覚で濃厚だ。濃茶は上質の抹茶を使うため香りが豊かで、上品な甘味を感じる。和菓子も季節ごとに変わり、さまざまな色と形と味を楽しめる。

茶会に参加するようになると和服で袴を着けることになり、日本に生まれながら民族衣装を自分で着られない歯がゆさを感じ、着付けも学んだ。着物に「お召(おめし)」といった種類のあることも初めて知った。茶道では正座をすることになるが、日常生活では椅子の生活に慣れているので正座は正直きつい。
茶道が盛んになった織田信長や豊臣秀吉の時代、戦国武将が正座をしたとは思えない。千利休の肖像画を見てもあぐらをかいている。正座の習慣が庶民に広まったのは、江戸時代の商人が武士と商談をする際、謙った姿勢を示すためではないだろうか。そもそも「正座」と言う言葉は明治時代にできたらしい。かといって、「あぐら」をかいてやるわけにはいかないので、正座も道を極める修行と考えて稽古に励んでいる。

茶道は花嫁修業の一環として捉えられた時代もあるが、元来、男の作法ではなかったか。武士や町人が茶室という狭い空間の中で本音を聞き出し、お互いの信頼関係を見極める際にも茶室の会話が重要だったと考える。時代は異なるが、茶室という非日常の体験を通じて、新たなコミュニケーションが生まれるように思う。また茶道を通じて、日本の伝統文化への興味も深まり、3年前から京都とのデュアルライフを始めた。

四季折々、茶会が楽しめる京都

梅花祭野点大茶湯

京都では茶会が盛んだ。2月の北野天満宮の「梅花祭野点大茶湯」は、秀吉が行なった「北野大茶湯」にちなんで毎年開かれている京都の風物詩。満開の梅を見ながら芸妓さん舞妓さんの野点を楽しめる。二条城では4月の「観桜茶会」、11月の「市民大茶会」が開かれる。城内の庭園「清流園」の茶室や野点席が設けられる。桜や紅葉を観ながら茶の湯を楽しむことができる優雅なひと時だ。

二条城観桜茶会

6月は下鴨神社の「蛍火の茶会」、広間の茶席の中央に蛍籠が置かれ風情を楽しむ。日が暮れると糺(ただす)の森に蛍が放され、幻想的な蛍火を見ながら小川沿いに森を散策する。7月は祇園祭「菊水鉾お茶席」、室町通にある会所で銘菓「したたり」に舌鼓を打ち、菓子皿を土産としていただける。このような茶会は人気が高く行列ができるほど大規模な恒例行事で、市民の楽しみにもなっている。

下鴨神社

また、神社仏閣や町家で「月釜」という茶会が毎月定期的に開かれている。普段着でいける茶会も多く、茶道の心得の有無にかかわらず、生活の中で茶湯を楽しめる機会が多い。
平安神宮神苑の月釜は毎月第2日曜日に開かれている。造園家七代目小川治兵衛によって作られた美しい庭園に建つ茶室「澄心亭」で各流派の社中が持ち回りでご奉仕をされている。京都御所の傍にある梨木神社の茶室「虚中庵」でも月釜が開かれる。神社の境内には名水「染井」の井戸があり、その名水でお茶を点てていただける。東山にある青蓮院門跡では月釜のほか春秋茶会も開催されている。平成になって復元された茶室「好文亭」は上村淳画伯による花鳥図の障壁画を鑑賞しながらお茶を楽しめる。

好文亭

京都でご縁ができた方が亭主を務める月釜に通う機会も増えてきた。東山の永観堂近くにお住いのYさんは、定年退職後、藪内流の茶人として毎月1週間程度、ご自宅で月釜を開いている。毎月季節感を演出した工夫をされて、客人を楽しませてくれる。くずし字で書かれた掛軸の和歌の解説を聞くにうちに雅な気分になる。

本格的な茶室でお点前を拝見しながら味わうお茶は格別だ。参加される客人は、会社員や主婦、学生、大学教授、友禅染職人、陶工、料理人、菓子職人、呉服屋、書家、演奏家、古物商さらに外国人など多彩だ。流派にこだわりなく、お茶を通じて様々な出会いがあり、京都の奥深さを実感している。京都暮らしを始めてみて、旅行では味わえない楽しみ方が広がっていく。

今年はコロナ禍の影響で、残念ながら全ての茶会が中止になり、楽しむ機会が激減した。緊急事態宣言が解除され、月釜を再開される方もいるが、大規模な茶会は当面行われそうもない。早く収束することを祈るばかりだ。

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この記事を書いた人

ファイナンシャル・プランナー&キャリア・カウンセラー

1953年東京生まれ、東京都立大学卒業、株式会社リクルートに入社。進学や住宅の情報誌の営業や企画・人事・総務などの管理職を務め、1995年マネー情報誌『あるじゃん』を創刊。発行人を務めた後、2004 年 ファイナンシャル・プランナー&キャリア・カウンセラーの資格を活かし、“キャリアとお金”のアドバイザーとして独立。企業研修の講師や個別相談を中心に活動中。大学の非常勤講師も務める。東京と京都のデュアルライフを実践中。

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