まつり方、起源、霊魂はどこいるのか?
正木 晃
2019/04/23
仏壇のまつりかた
仏壇は仏の浄土をあらわしています。もう少し具体的にいうと、お寺の本堂のミニチュア版です。この仏壇に、ご本尊とご先祖の位牌をおまつりするのです。
安置する場所については、仏壇を安置する特別な部屋、つまり仏間があればベストですが、昨今の住宅事情ではそうもいかないでしょうから、家の中でいちばん立派な部屋に安置してください。方角は宗派によって違いがありますので、まず菩提寺の宗派を確認してください。高さは、坐って拝む場合も、立って拝む場合も、ご本尊がご自分の胸の高さ以上になるようにしてください。ご本尊を見下ろすのは、厳禁です。
仏壇の起源とは?
仏壇にはおまつりするものに位牌があります。この位牌の起源は中国です。中国人の伝統的な考え方では、人は死ぬと、その霊魂が二つに分かれます。一つは「魂(こん)」といって、気体状になり天に昇ります。もう一つは「魄(はく)」といって、骨として地上に残ります。
中国人の精神世界に大きな影響をあたえてきた儒教は、魂は天に昇って眼には見えなくなってしまうので、いわばシンボルとして、木主(もくしゅ)と呼ばれる木製のお札を作ってまつり、魄にあたる骨はお墓を作ってまつったのです。この木主が、仏教にとりこまれて、位牌になりました。仏教は日本に伝えられるにあたり、経由地の中国で少なからず「中国化」しました。その中国化の典型例がお墓と位牌なのです。
ちなみに、お墓があるのは、同じ仏教圏でも、東アジアに限られます。そもそも仏教は輪廻転生(りんねてんしよう)、つまり人は悟りを開いて解脱しないかぎり、永遠に生まれ変わり死に変わりを繰り返すという考え方を前提しています。そして最長で四十九日以内に何かに転生しているはずなので、お墓を作る意味がないのです。したがって、スリランカやミャンマーやタイなどの上座仏教(修行をした人だけが救われる=小乗仏教)の国々でも、チベットやブータンなどの大乗仏教の国々でも、原則としてお墓はありません。
霊魂はどこにあるのか?
この種の話をしていると、こんな質問をよく受けます。
「ご先祖様をはじめ、亡くなられた方の霊魂の居場所は、浄土(あの世)なのか、お墓なのか、仏壇(位牌)なのか」という質問です。またお盆やお彼岸になると、「もともと暮らしていた家に戻ってくるといいますが、ふだんはどこにいらっしゃるのか」という質問もあります。
外国はさておき、日本仏教の伝統的な考え方では、浄土(あの世)とお墓と仏壇(位牌)にいらっしゃるというのが、その答えです。要するに、どこか一箇所にではなく、三箇所に同時にいても、全然かまわないのです。曖昧といえば、まことに曖昧ですが、このゆるさが実に日本的とも言えます。
お墓と位牌にたいする思いの強さは、日本仏教独特と言っても良いくらいです。この点は、東日本大震災のような大きさ災害に遭遇したときに、あらわになりました。その証拠に、一刻を争う緊急事態でも、とにかく位牌だけは持ち出したいと願う傾向は、とくに高齢の方々に顕著だったのです。
仏壇が家に置かれた理由とは?
いま家々に安置されている仏壇は、正しくはずし厨子型仏壇といいます。厨子は仏像をおさめる容器、つまり仏殿を意味します。さきほど仏壇はお寺の本堂のミニチュア版と述べましたが、さらに正確を期すと、中世の武士の館などで、氏仏とか守護仏とよばれ、その一族を守護してくれる特定の仏像をおまつりする持仏堂のミニチュア版です。ですから、この厨子型仏壇は、お寺の本堂とその内部に設置された仏殿を縮小したものとみなして良いとともに、先祖供養と分かちがたく結びついていたのです。
また仏壇の起源を、お盆の期間中、家に帰ってくるご先祖様の霊魂を迎えるためにもうけられる精霊棚(しょうりょうだな)に求める説もあります。臨時の祭壇が、仏壇というかたちで、常設の祭壇に変化したというわけです。いずれにせよ、仏壇と先祖供養が当初から、深いかかわりがあったことは疑えません。
厨子型仏壇が普及したのは、江戸時代の元禄ころといいますから、17世紀の終わりから18世紀の初めです。その背景には、先祖をきちんと供養しない者は、キリスト教など邪教の信奉者とみなされ、摘発されかねないという事情もありました。また庶民もある程度の経済力をもち、仏壇を買えるようになったことも大きかったと考えられています。
この記事を書いた人
宗教学者
1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。