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国の平和と社会の安定は「頭のよさ」が創り出す?

朝倉 継道朝倉 継道

2024/12/19

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OECDによる国際「アタマのよさ」比べ

OECD(経済協力開発機構)の主催による、2回目となる「国際成人力調査」の結果が先日公表された(12月10日)。

「16歳から65歳の成人を対象に、各国の成人の社会生活で求められるスキル(成人力)を測定するとともに、スキルと年齢、学歴、所得等の社会経済的背景との関連や影響を調べる国際比較調査」―――であるとのこと。

思いきり平たく言うと、各国国民の平均的な「アタマのよさ」を比べてランキングしたものだ。

今回の調査は、31カ国・地域の約16万人が対象となっている。世界の先進国・地域をほぼ網羅している。日本からの参加は5,165人。調査期間は2022年9月から23年8月(日本は4月)までとなっている。

読解力・数的思考力・問題解決能力

ランキングは3分野に分かれている。「読解力」、「数的思考力」、「状況の変化に応じた問題解決能力」の3つだ。調査対象となった人々は、これらを測定するためのテストを受ける。どんなテストなのか、さらりと紹介しておこう。(以下、国立教育政策研究所のレポートより抜粋、一部を改変)

「読解力」
パンとクラッカーが古くなった時の変化、そのような変化が起きる過程などについての記事を読み、解答欄の文章が正しいかどうか解答、など

「数的思考力」
マイナス20℃からマイナス15℃の温度が保たれている冷凍室について、提示された3つの温度が許容範囲内か解答、など

「状況の変化に応じた問題解決能力」
買い物に行く予定の店が閉店したとのニュースを受けて、別の店で買い物をすませて予定時間までに帰宅するための最速ルートを地図上で解答、など

そのうえで、日本の順位を初めに言っておくと、「読解力」は2位、「数的思考力」も2位、「状況の変化に応じた問題解決能力」は1位となった。世界最高のレベルにあるといえる。

なお、日本を唯一上回る成績を上げたのはフィンランドで、「読解力」1位、「数的思考力」1位、「状況の変化に応じた問題解決能力」も日本と並んでの1位となっている。ムーミンの国は、トトロやゲゲゲの国よりも少し優秀なようだ。

3分野10位までの顔ぶれと平均得点、および、OECD平均、さらに日本と関係の深い2カ国(アメリカ、韓国)のデータを掲げてみよう。満点はいずれも500点となっている。

なお、OECD加盟国ではない中国は調査対象に含まれていない。参加していれば健闘した可能性がある台湾も同様だ。

「読解力」

定義:自分の目標を達成し、知識と可能性を伸ばし、社会に参加するために、書かれたテキストにアクセスし、理解し、評価し、熟考する能力

国名 平均得点
1位 フィンランド 296
2位 日本 289
3位 スウェーデン 284
4位 ノルウェー 281
5位 オランダ 279
6位 エストニア 276
7位 フランドル地方(ベルギー) 275
8位 デンマーク 273
9位 イングランド(英国) 272
10位 カナダ 271
14位に相当 OECD平均 260
16位 アメリカ 258
22位 韓国 249

「数的思考力」

定義:成人期における様々な状況での数学的な要求に取り組み、対処するために、複数の方法で表現された数学的な内容、情報、アイデアにアクセスし、利用し、批判的に推論する能力

国名 平均得点
1位 フィンランド 294
2位 日本 291
3位 スウェーデン、ノルウェー 285
5位 オランダ 284
6位 エストニア 281
7位 フランドル地方(ベルギー)、デンマーク 279
9位 スイス 276
10位 シンガポール 274
16位に相当 OECD平均 263
23位 韓国 253
25位 アメリカ 249

「状況の変化に応じた問題解決能力」

定義:解決方法が即座に利用できない動的な状況において、自分の目標を達成する能力。(問題を明確にし、情報を検索し、様々な情報環境や文脈の中で解決策を適用するために、認知的・メタ認知的なプロセスに取り組むことが必要となる)

国名 平均得点
1位 フィンランド、日本 276
3位 スウェーデン 273
4位 ノルウェー 271
5位 オランダ 265
6位 デンマーク 264
7位 エストニア 263
8位 フランドル地方(ベルギー) 262
9位 ドイツ 261
10位 カナダ、イングランド(英国) 259
15位に相当 OECD平均 251
19位 アメリカ 247
24位 韓国 238

(以上、定義部分については国立教育政策研究所のレポートより記述を抜粋、一部を改変)

アタマのG8

以上、3分野のランキングを見て、まず気付くことがある。それは、上位の顔ぶれが見事なほど同じということだ。

いずれの分野においても、以下の8カ国・地域が必ず1~8位までを占めている。

フィンランド、日本、スウェーデン、ノルウェー、オランダ、エストニア、フランドル地方(ベルギー)、デンマーク

これらは、いわば「アタマのG8」だ。

さらに、このアタマのG8を分けていくと、ざっくりとまず2つに分かれる。

「日本」と「北部ヨーロッパの一地域」だ。

そこで、地図を開くとすぐに判るが、日本を除いた7カ国・地域は、実は距離的に密接だ。海を隔てた場合も含め、皆、隣国つながりで仲よく固まっている。

民族・言語的には大雑把にこうなる。

  • ゲルマン系 ノルマン人―――北ゲルマン語群
    (スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)
  • ゲルマン系 フラマン・オランダ人―――西ゲルマン語群
    (オランダ、フランドル地方(ベルギー))
  • フィン・ウゴル系 バルト・フィン人―――バルト・フィン諸語
    (フィンランド、エストニア)

これらは、要は知られるところの北海・バルト海周りの秀才グループといっていい。

ともあれ、わが日本と日本人が、こうしたアタマも品も良さそうな出木杉君たちの中にひょっこり混じっているというのは(しかもほぼ最上位)、何とも奇妙な雰囲気だ。

なお、北海・バルト海周りで、他に比較的成績上位の国・地域は2つある。

  • イングランド(英国)
    読解力9位 数的思考力13位 状況の変化に応じた問題解決能力10位
  • ドイツ
    読解力11位 数的思考力11位 状況の変化に応じた問題解決能力9位

国の平和と社会の安定は「頭のよさ」が創り出す

さらに、気付いておきたいことがある。

上記「アタマのG8」は、フランドル地方を含んだベルギーも併せ、おしなべて内治が安定しており、外交も堅実、総合的に平和な国であるということだ。現状、治安もほぼよい。

そのことは、この8カ国の中に切迫した隣国からの安全保障上の不安を抱える国が3つ含まれていること。(フィンランド、エストニア、日本。前者2国はロシア、日本はロシア、中国、北朝鮮の脅威が間近にある)

また、内部に言語・民族的な分断を抱える国が存在すること(ベルギー)。

これら、国の安定を揺り動かす牽制要素や重荷を考え合わせたとき、より示唆に富むものとなってくる。

要は、国の平和と社会の安定、さらにそれらが生み出す国民生活の安全は、人々の「頭のよさ」が創り出す度合いが間違いなく大きい。

逆にいうと、国民において、平均して高度な「頭のよさ」があれば、国の平和や安定、安全は、おそらくは自然に実現されやすいものとなっていく。たとえ、そこに多少の地政学的、歴史的、構造的ハンディが存在していたとしてもだ。

あるいは、たびたびの自然災害に見舞われ続ける過酷な環境があったとしてもだ。

(以上のように述べる筆者の視界の端には、イスラエルにおける今回の順位がちらついている。読解力27位、数的思考力26位、状況の変化に応じた問題解決能力25位で、民族的優秀さで知られるこの国がここでは最下位に近いグループの一員)

なお、「OECD国際成人力調査」の結果および概要については、下記リンク先でご覧いただける。

国立教育政策研究所 国際成人力調査(PIAAC)

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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