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ハイパーガミー(上昇婚)とこども家庭庁のレポート

朝倉 継道朝倉 継道

2024/12/11

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ハイパーガミーという言葉

ハイパーガミーという言葉をご存じだろうか。英文字で「hypergamy」と綴られる。日本語においては「上昇婚」などと訳される。

筆者は、この言葉を作家の橘玲(たちばなあきら)氏の文章で知った。女性におけるハイパーガミーの傾向が、アメリカなどにおいては男女の結婚へのハードルを過去に比べ顕著に押し上げているとの論説だ。

ハイパーガミーの意味は、端的にはこうなる―――「女性は、自分よりも確実に上位にあると自らが認める男性をパートナーに選びたがる」

ここでの上位は、ゴリラやチンパンジーの世界だと概ね(あくまで概ねだ)膂力に優れた者が獲得する。一方、人間の場合はそこがかなり複雑化してしまう。

学歴および経済力を筆頭に、社会的地位や影響力、その属する社会によっては身分や血統といったものも重視されるが、とりわけ、学歴と経済力は現代において価値が重い。

その手厳しい現実にあっては、具体的に書くといたずらに人を傷つけるのでそうしないが、要はみんなよく理解しているはずだ。

女性の地位向上と自由の獲得は、文明社会にあってはまことに喜ばしいことにほかならない。しかしながら、そこにハイパーガミーが大小絡み付いていることで、アメリカのみならず、われわれ日本の社会もまた、昨今は難しい局面に踏み込まざるをえなくなっている。

それは、少子化なり、弱者男性の恋愛難なり、強者女性の結婚難なり、非婚化なり、老後の孤独なり、あるいは「陰キャ」「チー牛」などの罵声なりといった、軽重併せた社会の諸相となる。

こども家庭庁のレポート

「令和6年度 若者のライフデザインや出会いに関する意識調査 報告書」と題したレポートが、先般11月付でこども家庭庁から公表されている。

調査対象は2万人。内、未婚の男女が1万8千人、既婚者が2千人。年齢は15~39歳。調査時期は本年7月。設問数は77。ほぼ400ページにおよぶ分厚い(データとしては重たい)ものだ。

これを先ほどのハイパーガミーを踏まえながら、いくつか覗いていこう。

結婚相手に望むこと―――経済力

結婚相手に対し、望むことのひとつとして「経済力があること(年収が高いこと)」を挙げた人の割合は、「未婚」の性・年代別で、以下のとおりとなる。

男性(未婚) 15~24歳 12.9%
25~34歳 12.4%
35~39歳 12.7%
女性(未婚) 15~24歳 41.0%(男性の約3.18倍)
25~34歳 43.0%(男性の約3.47倍)
35~39歳 48.1%(男性の約3.79倍)

見てのとおり、男女の差が著しい。

なお、同じ質問は、既婚者に対しても「結婚前に望んでいたこと」のかたちで投げかけられており、結果は、以下のとおり、未婚者と似た状況が15~24歳を除いて見られるかたちとなっている。

男性(既婚) 15~24歳 15.1%
25~34歳 12.9%
35~39歳 12.4%
女性(既婚) 15~24歳 29.1%(男性の約1.93倍)
25~34歳 42.0%(男性の約3.26倍)
35~39歳 46.7%(男性の約3.77倍)

結婚相手に望むこと―――学歴

次に、結婚相手に対し望むこととして「学歴」を挙げたパーセンテージだ。

男性(未婚) 15~24歳 5.7%
25~34歳 4.2%
35~39歳 2.7%
女性(未婚) 15~24歳 8.4%(男性の約1.47倍)
25~34歳 7.7%(男性の約1.83倍)
35~39歳 6.4%(男性の約2.37倍)
男性(既婚) 15~24歳 5.2%
25~34歳 6.2%
35~39歳 7.4%
女性(既婚) 15~24歳 5.9%(男性の約1.13倍)
25~34歳 12.8%(男性の約2.06倍)
35~39歳 12.8%(男性の約1.73倍)

さきほどの経済力に比べ、数字は全体として小さい。ひょっとすると、ここで学歴を「結婚相手に望むこと」としてあからさまに挙げることに抵抗を感じた回答者が多かったのではないかというのが、筆者の穿った見方となるが、ともあれ、男女差はここでもほぼ明瞭に見られるものとなっている。

配偶者の年収は自分より高い方が望ましい

次に、「あなたは結婚した場合、配偶者とどんな関係でいたいと思っていますか?」との質問の中の「配偶者の年収は自分より高い方が望ましい」の項目において、「そう思う」または「ややそう思う」―――すなわち賛意を示した人の割合となる。なお、既婚者にあっては、かつて「そう思っていた」と「ややそう思っていた」を合わせた数字が示されている。

男性(未婚) 15~24歳 34.2%
25~34歳 37.2%
35~39歳 35.3%
女性(未婚) 15~24歳 68.4%(男性の約2.0倍)
25~34歳 77.2%(男性の約2.08倍)
35~39歳 80.4%(男性の約2.28倍)
男性(既婚) 15~24歳 42.1%
25~34歳 37.0%
35~39歳 38.2%
女性(既婚) 15~24歳 69.5%(男性の約1.65倍)
25~34歳 81.7%(男性の約2.21倍)
35~39歳 80.8%(男性の約2.12倍)

このとおり、既婚の15~24歳を除き、いずれも女性が男性の倍以上を示すものとなっている。

と、いうよりも、むしろ興味深いこととして男性の数字が意外に高い。これがかつて昭和の時代であれば、妻の収入が自らを上回ることを望む男性、あるいはそう思っていても表明する男性はおそらく少なく、現実にそうなったとして“プライド”が傷つくケースはかなり多かったことだろう。

自分に自信がないから「出会えない」

次にこんな質問だ。

「(結婚へのハードルとして)出会いの場所・機会がなかった(現にない)とのことですが、その理由となることとしてあてはまるものをお答えください。すでに配偶者がいらっしゃる方は、結婚前のことについてお答えください」

これに対して、以下の割合が「自分に自信がないから(出会いの場所や機会を得られなかった・ない)」を挙げている。

男性(未婚) 15~24歳 52.4%(既婚男性の約1.54倍)
25~34歳 60.5%(既婚男性の約1.80倍)
35~39歳 61.8%(既婚男性の約2.29倍)
女性(未婚) 15~24歳 51.9%(既婚女性より35.2ポイント少ない)
25~34歳 60.1%(既婚女性の約1.41倍)
35~39歳 63.0%(既婚女性の約1.38倍)
男性(既婚) 15~24歳 34.1%
25~34歳 33.7%
35~39歳 27.0%
女性(既婚) 15~24歳 87.1%
25~34歳 42.5%
35~39歳 45.8%

見てのとおり、ここでは既婚男性に比べた未婚男性の数字が高い(=自分に自信がない)。なお、女性も25~34歳と35~39歳では同様だが、男性ほど大きな差にはなっていない。

それどころか、非常に面白い数字として、女性15~24歳では、既婚者の方が未婚者よりも大幅に割合が高い。すなわち、結婚出来たこの年代の女性の9割近くが、「結婚前まで私は自分に自信がない人だった」と、回答していることになる。つまり、何やらシンデレラチック(?)な雰囲気ではある。

結婚に向けた行動をしない理由

最後に、「現在『結婚も視野に入れた相手を見つける』ことについて行動をしていない理由として、あなたの考えに一番近いものをお答えください」―――すなわち「なぜあなたは結婚に向けた行動をしないのか」との質問に対し、「自分のスペック(給料や学歴など)に自信がないから」を挙げた未婚者の割合となる。

男性(未婚) 15~24歳 6.9%(女性の約2.09倍)
25~34歳 15.8%(女性の約2.36倍)
35~39歳 19.6%(女性の約1.83倍)
女性(未婚) 15~24歳 3.3%
25~34歳 6.7%
35~39歳 10.7%

男女差については見てのとおりだが、目につくのは女性の15~24歳における3.3%という低い数字だ。何となれば、彼女らはさきほど(前項)の質問ではかなりの割合(51.9%)が「自分に自信がない」を訴えていたはずではなかったか。「スペック(給料や学歴など)」以外の何が、彼女たちから自信を奪い去っているのだろう。

これについては、同じ質問にある別の選択肢が、そのうち幾分かの答えを示唆するものであるのかもしれない。

「なぜあなたは結婚に向けた行動をしないのか」―――(答え)「自分の外見に自信がないから」

女性(既婚) 15~24歳 12.5%
25~34歳 9.2%
35~39歳 7.0%

以上、こども家庭庁による調査結果から、いくつか内容をつまみ上げて紹介した。なお、当該報告書においてはほかにもさまざまな設問が数多く網羅されている。ご興味の向きは、下記にてご覧になられたい。

報告書本体
「令和6年度 若者のライフデザインや出会いに関する意識調査 報告書」

関連ページ
「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」

生物としてのハイパーガミー

ハイパーガミーの話に戻ろう。

ハイパーガミーについて、これを表面的な意識の問題として、いわば「女性のわがままを責める」かたちで展開される議論もなかにはある。

しかしながら、筆者はとてもそうは思えない。女性のハイパーガミーは、生物としての人間にあっておそらくは根源的なものだ。

われわれ男性と違い、女性は、生殖行為の完結までに多大な時間とリスクを払わされる。

遺伝子をバラ撒いて終わりのオトコに対し、女性はそうではない。交接、妊娠から出産に至るまで長大な過程を経る。なおかつ、産後の回復期間もそこには軽からず付随する。

よって、生涯において、生殖の機会をトータルに得られる回数は女性にあっては必然的に少ない。少ないがゆえに、彼女たちはそれを可能な限り活かし尽くさなければならない。

すると、当然ながら、より優秀な遺伝子の獲得は、女性にとって生命(いのち)が命ずる切実な課題となる。(ベタに言えばコスパの追求となる)

その点で、女性は明らかに取捨選択する性であり、優秀な遺伝子を選ぶためのモノサシとして、彼女たちは「自分」というものをおそらくは心理の底に据えている。

そのうえで、まことに無慈悲なことに、そのモノサシをもって、われわれ男性は厳しく測られる。

「自分より学の浅い遺伝子では困る」「収入が乏しい遺伝子では困る」

当然の答えが、とりあえずは出て来るわけだ。

よって、よくいわれる「女性の社会進出が進めば、晩婚化、非婚化が進み、少子化する」は、それが実際に起きている社会に関していえば、以上が、その基礎的な理由となるだろう。

もっとも、これは基礎的な理由だ。基礎的であるだけに、エビデンスを動かすカギは、基礎に上乗せされる付加的理由のなかに探し出していける可能性も十分残されているだろう。

なお、筆者は、わが国の少子化をそれほど深刻に思っていない一人となる。

だが、人々が言うとおり、それが真に危機的な状況であるのならば、女性の社会進出が今後もさらに進む上で、考えてみてよいことはまだ幾らもあるはずだ。

もっとも、そこで問題なのは、そうした際の議論において、現在のわが国においては社会的に忌避され、提議はおろか発想さえ許されない空気に包まれてしまうものが、いくつかあることだ。

タブーもアンタッチャブルも、そこでは設けないことが大事だろう。

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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