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賃貸vs持ち家・永遠の論争 決着のカギは「家族」か?

朝倉 継道朝倉 継道

2023/06/13

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永遠の論争のカギとなる言葉

家は賃貸が得か、やはり持ち家か? 永遠の論争だ。

そして、このことが論争になりがちな理由もわれわれは知っている。単純な話だ。賃貸がいいか、持ち家か、その答えを出すための条件が人によって違うからだ。

人それぞれが持つ条件によって、賃貸が得か、持ち家が得かは違ってくる。

条件を突き合わせることで足し算になったり、引き算になったり、掛け算になったり、割り算になったりするこの難しい問題の答えについて、当記事では、ひとつのキーワードを投げかけてみたい。

それは「家族」だ。

「死にたい」と漏らす81歳の妻

ある81歳の老婦人がいる。最近、親しい人に「死にたい」と漏らすようになった。周囲が心配しているという。

原因は2つ年上の夫だ。朝から晩まで、毎日、毎日イライラしながら過ごし、何かと妻に当たってくる。

妻が声をかけても返事がない。逆に、何かちょっとでもミスをすれば「またお前は!」と、大声でまくしたてる。

まだ暴力を振るわれたことはない。だが、新聞紙でテーブルを叩いたり、服を投げたりと、周りのモノには当たる。それがいつ自分に向かってくるか、妻は怖くて仕方がない。

「子どもはとうの昔に独立しています。20年以上夫と2人暮らしです。最後にこんな状況になるなんて、思ってもみませんでした」

涙を拭く妻を見かねて、夫婦の共通の知り合いであるAさんが、ある日夫に声をかけてみたという。

すると――

「イライラの原因はすぐにわかりました。会った瞬間からです。私も彼(夫)にまくしたてられました」

原因は、なんと「屋根」だという。夫婦が暮らす一戸建て持ち家の屋根だ。

屋根が錆びてもう持たないんです!

「うちの屋根が錆びてしまって、もう持たないんです!」

Aさんを見るや、夫は泣きべそをかくような顔をしながら、まるでマシンガンのように以下を吐き出してきたという。

  • 「自宅の屋根が広範囲にわたって錆びている」
  • 「建築後25年以上リフォームして来なかった」
  • 「ここ数年2階窓サッシの結露が急に激しくなったが、多分結露ではなく雨漏りだろう」
  • 「もしもそうなら直すのに100万円単位のお金がかかると聞いた」
  • 「いまの自分には貯えが無い。わずかな年金で食いつないでいる状態だ」
  • 「この年齢ではローンも貸してもらえないだろう」
  • 「いっそ、家と土地を手放すか?」
  • 「毎日気が狂いそうだ!」

これを聞き、Aさんは、

「あなた、息子さんと娘さんがいるでしょう。相談はしたんですか? その問題って、あなただけじゃなく、家を相続する子どもたちの問題でもあるんですよ」

ところが…

「息子からは、たしかに3年くらい前に相続の準備をしないかと相談をもちかけられました。しかし、それに対して私は『縁起でもない、お前は親に早く死ねというのか』と怒鳴り返してしまいました。以来、息子はウチに寄り付きません」

さらに、娘さんとは…

「実は、もう長い間絶縁状態なんです。私が結婚に反対し、彼女の結婚式にも出なかったのが始まりです」

―――最悪だ。

ちなみに、Aさんはこの夫のことを彼がサラリーマンだった現役当時から知っている。真面目に働く人物だったが、退職後、にわかに浪費家になった。退職金で家を買ったまではいいが、さらに旅行や、高価な家具、車の購入、贅沢な外食を繰り返すなど、周りから見て心配な状況が続いていた。結局、案の定、といえるのが現在の状態だ。

つまづきをカバーし合えるのが「家族」の力

とはいえ、目の前のお金に浮かれて思わず贅沢をしてしまったなど、そんな人生の失敗は大なり小なり多くの人にあることだ。そんなとき、互いのつまづきをカバーし合えるのが、すなわち「家族」となる。

ちょっと考えてみよう。上記、問題の夫婦が住む家の屋根修理のために、たとえば200万円がかかるとする。

そこで、この200万円を10年のリフォームローンでまかなうとすれば、金利、団体信用生命保険料を合わせて、月2万数百円程度の負担となることが多いだろう。なお、ローンは息子さん名義で借りることになる。

そのうえで、この家は息子さん夫婦が引き継ぐことが予定されているとして、その場合、支払いの担い手となるべきは、

  • いまこの家に住んでいる夫と妻
  • 将来所有する息子さん夫婦(諸条件により、所有を急ぐことになったりもする)

4人となる。

ちなみに、息子さんとその妻は2人とも働いている。ダブルインカムだ。要はこうなる。

  • 夫 年金収入あり
  • 妻 年金収入あり
  • 息子 勤労収入あり
  • 息子の妻 勤労収入あり

わざわざ並べるまでもない。全員ちゃんと収入はあるのだ。

そこで、さきほどの「月2万数百円」をこの4人で割ってみよう。ひとり5千円ちょっとだ。

どうだろう? 少なくとも「気が狂いそう」だの「死にたい」だのといった話ではなくなるのではないか。

なおかつ、そこに親子関係断絶中の娘さんが、「昔は私もわがままだった。お父さん、お母さんが困っているなら助けたい」と、協力の手を差し伸べてくれたらどうなるか? つまり月2万数百円/5人だ。

ちなみに、この娘さん、お父さんに反対されたとおり結婚はうまくいかずにいまは独身だが、そこそこの収入で自立しているとのこと。

さらに、この屋根修理が内容によって自治体の補助対象に適うようなことがあれば、そこでも恩恵は助け合う家族に微笑むことだろう。

そういうことなのだ。家族の団結というものは危機に強く、リスクに対しきわめて強靭かつ堅固だ。

持つことのリスク=持ち家 持たざるリスク=賃貸

以上の話は、持ち家が「持つことのリスク」を重くはらむ財産であることの典型的な例といっていい。

人の寿命が長い現在、建物としての持ち家は少なからず人よりも先に寿命を迎える。

「家を持っているから老後は心配ない」ではなく、「持っているからこそ老後が心配」も大いにあり得るのが現実となるわけだ。

一方、賃貸はどうだろう。

「自分は一生賃貸」と覚悟している人は、いま日本中に大勢いるはずだ。それが前向きな想いかどうかはともかく、家を持つことのリスクをこの人たちはまったく心配しなくていい。

しかし一方で、持たざることのリスクには一生つきまとわれる可能性が高い。

家を持たざるリスクとは、自分がまともな家に住めるということについての意思決定がつねに他人にゆだねられるという過酷な現実を指す。

端的には、高齢者は部屋を借りにくい。正しくいえば、望む部屋を借してもらいにくい。

「一生賃貸」を高々とつらぬきつつも、自らが高齢になっていくとともにそのことが尻上がりに重くなっていくのが、いまのわれわれの社会の実相といっていい。

とはいえ、この賃貸における「持たざるリスク」も、それを補う家族の協力があればどうだろう。

高齢となったうえで、突発的な抗えない理由でアパートを追い出されたとしても、落ち着ける場所を家族がすすんで用意してくれるのならば、それは上々のセーフティネットだ。

そうなれば、その場合の賃貸生活は、家を持たざるリスクからも、持つことのリスクからも解き放たれたものになる。まことに自由かつ軽快というほかないだろう。

つまり、一生賃貸という生き方は、実は、家族関係が円満で手堅い人生でこそ有利な生き方なのだ。だが、皮肉なことに現実の多くはそうではないだろう。

家族の構築を

以上、述べてきたことをまとめたい。

住宅は賃貸が得か、やはり持ち家か?――この永遠の論争について、われわれ一人ひとりがどう決着をつけるかのカギとして、「家族」はおそらく大きく影響する。

なぜならば、賃貸で過ごす一生も、持ち家で暮らす一生も、裏を返せば人生終盤でのリスク管理という大きな課題を背負わされていることに変わりはないからだ。

もちろん、社会福祉もあるだろう。地域や友人などとの関係もあるだろう。

だが、それ以上に、親族・肉親たる家族が仲良く協力し合えることくらいに強力なリスクヘッジはない。

「住宅は賃貸が得か、やはり持ち家か?」

このことは、われわれそれぞれが、自身が得られる家族の力を踏まえたうえで判断していくのが、より賢明なこととなるはずだ。

なお、「賃貸か、持ち家か」をテーマに筆者は別の観点からの記事も過去に書かせていただいている。興味があれば下記リンク先にてご覧になられたい。

不動産永遠のテーマ『賃貸vs購入』に決着?――帰属家賃を考える

(文/朝倉継道)



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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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