地価LOOKレポート2024年第4四半期 ジェントルな地価上昇が継続
2025/03/07

4期連続で全地区が「上昇」
先月、国土交通省が令和6年(2024)第4四半期分(24年10月1日~25年1月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。
前期に引き続き、全ての地区が地価上昇地区となった。住宅系地区は11期連続、商業系地区は4期連続となる。全地区が上昇地区の状態はこれで4期連続。すなわち丸1年続いている。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。
まずは、国内「全地区」における今期までの5期分の推移だ。
今期 | 前期 | 前々期 | 24年第1四半期 | 23年第4四半期 | |
---|---|---|---|---|---|
上昇 | 80 | 80 | 80 | 80 | 79 |
横ばい | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
下落 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
以下は、国交省のコメントとなる。(抜粋・要約)
- 住宅系地区
「利便性や住環境の優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことなどから、上昇傾向が継続」 - 商業系地区
「再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあり店舗・ホテル需要が堅調。オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続」
前期、今期とも同じ内容となっている。「マンション」「再開発」「インバウンド」が、日本の大都市部地価を現在支える3つの柱だ。
変貌していく池袋
地価LOOKレポートにおける地価の上昇地区には、率に応じて3つのレベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」「同(0%超3%未満)」となる。今期のそれぞれにおける数は以下のとおりとなっている。
上昇地区 | 今期 | 前期 |
---|---|---|
6%以上 | 0 | 0 |
3%以上6%未満 | 6 | 5 |
0%超3%未満 | 74 | 75 |
「6%以上」は見てのとおりゼロだが、それに次ぐ「3%以上6%未満」の地区は6つある。顔ぶれは以下のとおりだ。
種類 | 商業系地区 | 住宅系地区 |
---|---|---|
前期より引き続き「3%以上6%未満」の地区 | 東京都 中央区 銀座中央 東京都 新宿区 歌舞伎町 横浜市 西区 みなとみらい 京都市 下京区 京都駅周辺 |
福岡市 中央区 大濠 |
今期、新たに「3%以上6%未満」に区分が上がった地区 | 東京都 豊島区 池袋東口(前期は「0%超3%未満」) |
今期の新顔となった「池袋東口」について、不動産鑑定士のコメントから一部を抜粋しよう。
「池袋駅周辺では、東池袋1丁目地区及び南池袋2丁目地区等にて市街地再開発事業が進行中であり、西池袋3丁目の大型商業施設跡地の高層店舗兼オフィスビルの建設工事が開始し、池袋駅東口及び西口駅前の再開発が計画される等、池袋エリア一帯の都市機能等の拡充が進んでいる」
述べられているとおり、池袋駅周辺は、現在再開発がホットなエリアとなっている。とりわけビッグプロジェクトなのが、池袋駅西口地区・池袋駅直上西地区―――いわゆる「池袋駅西口エリア」の大規模再開発となる。
地上50階・約270メートルを筆頭に、約220メートル、約185メートル、3つの高層ビルを擁する新たな街が、池袋駅前に誕生する見通しとなっている。
なお、このプロジェクト全体の完成はかなり先となる。27年度に解体工事が始まったあと、順次、各建物などが姿を現しつつ、43年度まで続く予定だ。
ちなみに、池袋は、駅や駅を挟んで建つ百貨店から人々が外に出て行きにくい傾向にある街といわれている。そこで、この再開発に対し、地元や行政は、街の回遊性の向上を大きく期待しているようだ。
過去最高の数字・インバウンド
上記、上昇率「3%以上6%未満」地区の中で、「銀座中央」「歌舞伎町」「京都駅周辺」は、特にインバウンド需要が地価の上昇を大きく牽引しているエリアとなる。
そのインバウンドだが、昨年の「訪日外客数」は、約3,687万人だった。(日本政府観光局・JNTOによる2月19日公表の推計値)
これまで最高だったコロナ禍前の19 年―――約3,188万人を大きく上回る数字となっている。
上記3地区、それぞれにおける不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。
銀座中央
- 「百貨店や商業施設においては好調な売上を維持」
- 「物件供給が少ないなかで当地区の不動産に対する取得需要は強い状況」
- 「当面はインバウンドによる好調な商況が見込まれる」
歌舞伎町
- 「多数の国内若年世代や外国人観光客が当地区を来訪し、活況が続いている」
- 「店舗賃料は当期も上昇傾向で推移」
- 「今後もインバウンドによるさらなる商況の回復が見込まれる」
京都駅周辺
- 「旺盛なインバウンド需要が見られる」
- 「飲食・土産物等の物販ともに強い出店意欲が見られる状態」
- 「収益用不動産の取得需要は強含みの状態で当面は推移すると見込まれる」
ちなみに、今年1月の訪日外客数は約378万人(推計値)で、前年同月比40.6%の大幅増となっている。これは、中国・中華圏のいわゆる旧正月となる「春節」が今年は 1月29日に当たっていたことが大きいが、一方で、アメリカ、カナダやヨーロッパ各国などの数字も「1月として過去最高を記録」と発表されている。今後の推移には要注目だ。
職住近接の街・福岡の「大濠」
「3%以上6%未満」地区の中で唯一の住宅系地区が、福岡市の「大濠」だ。現在、わが国大都市部地価を支えている大きな要素のひとつ、マンション開発が主に地価を引き上げているエリアとなる。
地価LOOKレポートにおける大濠エリアの範囲は、「福岡市営地下鉄空港線の唐人町駅からの徒歩圏」となっている。ちなみに「唐人町駅」というのは、福岡市の中心繁華街に位置する「天神駅」からわずか5分、3つ目の駅となる。実に間近な場所にある。
加えて、唐人町駅から新幹線が発着する「博多駅」までは11分。「福岡空港駅」までは17分。至高の便利さといっていい。(以上、所要時間は福岡市交通局の公表による標準所要時間)
不動産鑑定士のコメントを覗いてみよう。
- 「ブランド力のあるデベロッパーを中心に(分譲マンション)市場を牽引」
- 「高稼働の築浅賃貸マンションを中心に、家賃の上昇傾向が見られ、賃貸市場全体としても好況が続いている」
- 「好況な市況が当面続くと見込まれる」
福岡では、都心への通勤時間に30分以上もかかるようだと「遠い」といわれたりする。
ちなみに、地価LOOKレポートが記す大濠の風景は、「大規模一般住宅の中にマンションが混在する地区」だ。
人口260万人を擁する大都市圏の中心にして、いわゆるコンパクトシティが実現されているとの評価も高い福岡市の象徴的な存在が、大濠といえるだろう。
ジェントルな地価上昇
冒頭に掲げたとおり、地価LOOKレポートにおける「全地区が上昇地区」の状態は今期で4期連続となった。
なお、コロナ禍による下向きの圧力が緩み、下落地区がゼロになったのは21年第3四半期となる。以降、数えると今期は14期目となる。
そこで、さらに過去をさかのぼると、前回、上昇傾向が著しかったのはコロナ禍直前の時期となる。その19年においては、第2四半期から第4四半期にかけて「上昇(6%以上)」の地区が、以下のとおり3地区もしくは4地区現れた。直後、それがコロナで一変している。
19年第2四半期 | 大阪市西梅田・大阪市茶屋町・大阪市新大阪(計3地区) |
19年第3四半期 | 大阪市西梅田・大阪市茶屋町・大阪市新大阪・那覇市県庁前(計4地区) |
19年第4四半期 |
一方、現在の上昇傾向は、それに比べるとジェントルな印象だ。オーバーヒートしたような箇所が窺える様子はない。全体に雰囲気は落ち着いている。
すなわち、投機的、いわばバブルなかたちは生じていないといえるだろう。(大都市部地価においては)
投資を誘う要件はたとえそこに転がっていても、人々は堅実な目で実需を量りつつ、慎重な姿勢で土地にお金を投じているようだ。
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。
「地価LOOKレポート 令和6年(2024)第4四半期分(24年10月1日~25年1月1日)」
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。