地価LOOKレポート2024年第3四半期 全地区上昇が3期連続
朝倉 継道
2024/11/23
全地区「上昇」が3期目に
この11月19日、国土交通省が令和6年(2024)第3四半期分(24年7月1日~10月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。
前期に引き続き、全ての地区が地価上昇地区となった。住宅系地区は10期連続、商業系地区は3期連続。全地区が上昇地区の状態が3期連続で続いている。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後であらためて紹介したい。
まずは、国内「全地区」における、今期および前期までの3期、すなわち1年間の推移だ。
今回 | 前期 | 前々期 | 23年第4四半期 | |
上昇 | 80 | 80 | 80 | 79 |
横ばい | 0 | 0 | 0 | 1 |
下落 | 0 | 0 | 0 | 0 |
なお、国交省は今期の結果について以下のとおり要因をまとめている。(抜粋・要約)
住宅系地区
「利便性や住環境の優れた地区におけるマンション需要に引き続き堅調さが認められたことなどから、上昇傾向が継続」
商業系地区
「再開発事業の進展や国内外からの観光客の増加もあって店舗・ホテル需要が堅調。オフィス需要も底堅く推移したことなどから、上昇傾向が継続」
なお、以上の要因にあっては、前期と内容はほぼ同じとなる。
マンション、インバウンド、再開発―――およそ3つの波に乗り、日本の大都市部地価は、現在コロナ禍を脱して以来続く上昇の過程を辿っている。
東西「インバウンド沸騰の地」が高い上昇率を継続
地価LOOKレポートにおける地価の上昇地区には、率に応じて3つのレベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」「同(0%超3%未満)」となる。今期のそれぞれにおける地区数は、以下のとおりとなっている。
今回 | 前期 | |
上昇(6%以上) | 0 | 0 |
上昇(3%以上6%未満) | 5 | 4 |
上昇(0%超3%未満) | 75 | 76 |
「6%以上」は見てのとおりゼロだが、それに次ぐ「3%以上6%未満」の地区は5つある。顔ぶれは以下のとおりとなっている。
東京都 | 中央区 銀座中央(商業系地区) |
新宿区 歌舞伎町(商業系地区) | |
横浜市 | 西区 みなとみらい(商業系地区) |
京都市 | 下京区 京都駅周辺(商業系地区) |
福岡市 | 中央区 大濠(住宅系地区) |
これらのうち、銀座中央、歌舞伎町、京都駅周辺は、いずれもいわゆるインバウンド需要が沸騰しているエリアとなる。不動産鑑定士のコメントから一部を抜粋してみよう。
銀座中央
- 「訪日外国人観光客による消費が活発な状況」
- 「空中階でもコロナ禍前を上回る賃料水準で成約する事例が出てくるなど、店舗賃料は上昇傾向で推移」
- 「主要通り沿いで建替え計画が進捗」
- 「買い手側による当地区への選好性や開発期待が非常に高い」
歌舞伎町
- 「令和5年4月に開業した複合商業施設を中心に、多数の国内若年世代や外国人観光客等が当地区を来訪し、活況」
- 「飲食やサービス店舗は空室はほぼなく、入替の際も退去前に後継テナントが決まっている状況」
- 「今後もインバウンドによるさらなる商況の回復が見込まれる」
京都駅周辺
- 「免税売上が好調である等、旺盛なインバウンド需要」
- 「飲食・土産物等の物販ともに強い出店意欲」
- 「オフィスビルの新規供給はほとんど見られないものの(中略)総じて新規賃料水準は当期も高値安定」
- 「不動産市場は活況を呈しており、収益用不動産の取得需要は当期も堅調」
このように、わが国の大都市部地価に大小のインパクトを及ぼしているインバウンドだが、目下、以下のような数字が挙がっている。
2024年 訪日外客数(JNTO 日本政府観光局による11月20日発表の数字)
月 | 訪日外客数 | 対前年伸率 |
1月 | 268万8478人 | 79.5% |
2月 | 278万8224人 | 89.0% |
3月 | 308万1781人 | 69.6% |
4月 | 304万3003人 | 56.1% |
5月 | 304万294人 | 60.1% |
6月 | 314万642人 | 51.5% |
7月 | 329万2602人 | 41.9% |
8月 | 293万3381人 | 36.0% |
9月(推計値) | 287万2200人 | 31.5% |
10月(推計値) | 331万2000人 | 31.6% |
なお、1~10月までの累計(推計値を含む)は3019万2600人。この数字は、前年の同じ期間の累計に対する伸び率51.8%、「コロナ」前の19年の同じ期間の累計に対する伸び率12.2%を示すものとなっている。
さらに、その19年の年間累計は3188万2049人となっているが、こちらも突破が目前に迫る状況となっている。
そうしたわけで、コロナ禍のようなことがありうるマーケットの特性上、予断は許されないものの、今後~来年にかけてもインバウンドは、わが国の経済、地価に刺激を与え続ける予測が動かしがたいものとなっている。
「地方の都会」の地価を支えるマンション
マンション開発による地価の押し上げが見られる象徴的なエリアが、いわゆる地方4市(札幌、仙台、広島、福岡)の住宅系地区となる。
不動産鑑定士のコメントから一部を抜粋してみよう。
札幌市(中央区 宮の森)
- 「地域経済の回復がエンドユーザーのマンション需要の基調」
- 「デベロッパーのマンション適地に対する開発素地需要も相応に見込まれる」
仙台市(青葉区 錦町)
- 「堅調なマンション需要」
- 「優良なマンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として強く、今後も取得競合が続くと見込まれる」
広島市(中区 白島)
- 「実需ベースで取得意欲のある県内外の需要者が多数控えており、不動産事業者等の需要は強い状態が続いている」
- 「強気の価格を提示しなければマンション開発素地等の取得が難しい状況」
福岡市(中央区 大濠)
- 「優良なマンション開発が可能なエリアにおいては、素地の需給が逼迫」
- 「素地が売り出された際には、需要が殺到することが予測される」
今後の金利政策や、建築費の上昇といった見通し不透明な状況が続きながらも、利便性の高い大都市部のマンション購入を目指す人々の流れは各地で止まらずといったところだ。
唯一の「純粋地方都市」
ところで、この地価LOOKレポートに採り上げられている調査対象地区は前述のとおり80あるが、このうち79地区が、3大都市圏(東京圏・名古屋圏・大阪圏)内か、先ほどの地方4市も含む道県庁所在地に位置している。
すると、残り一箇所がどこなのか気になるが、それは福島県郡山市だ(郡山駅周辺・商業系地区)。巨大都市圏に属さず、県庁のおひざもとでもない、純粋な(?)拠点的都市として、ここでは唯一の存在となっている。
なおかつ、郡山は、都市としては実質近代に入ってから生まれたため、城下町であった経験もない。すなわち、高崎や浜松や姫路などとも違い、近世における行政の中心であったこともない。
なお、以上の点にあっては、北海道の旭川市も似たプロフィールを持っているが、旭川市の場合、圧倒的に巨大な札幌が同じ道内にあるため、大差の2番手という霞んだ位置に常に置かれることになる。
ところが、郡山市の場合、人口も経済力も堂々県内1位だ。わが国にあって、そこそこの規模のものとしては実に珍しい立ち位置からなる街となっている。
そうしたわけで、筆者は、日本における“純粋地方都市”ともいえるこの郡山における経済面、社会面の数値や動静をよく気にしている。地価LOOKレポートの対象から今後も外さないでおいてくれることを期待している街のひとつだ。
なお、今期の地価LOOKレポート「郡山駅周辺」地区における不動産鑑定士のコメントからの抜粋は以下のとおり。
- 「駅西口付近では大町土地区画整理事業とともに都市計画道路日の出通り線沿いの整備も同時に進捗」
- 「賑わいや回遊性の向上、定住者の増加が見込まれ、供給が極めて限定的な当地区の土地に対する需要は緩やかに強まっている」
- 「将来の地価動向はやや上昇が続くと予想される」
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。
「地価LOOKレポート 令和6年第3四半期分(24年7月1日~10月1日)」
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。