ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

地価LOOKレポート2024年第2四半期 前期に続いて全地区が上昇地区に

朝倉 継道朝倉 継道

2024/09/05

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

全地区「上昇」が今期も継続

この8月30日、国土交通省が令和6年(2024)第2四半期分(24年4月1日~7月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。

前期に引き続き、全ての地区が地価上昇地区となっている。住宅系地区は9期連続、商業系地区は2期連続となった。そのため、全地区が上昇地区の状態も2期目となっている。

なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては、当記事の最後で改めて紹介したい。

まずは、国内「全地区」における前期、前々期からの推移だ。

項目 今回 前期 前々期
上昇 80地区 80 79
横ばい 0地区 0 1
下落 0地区 0 0

こうした状況について、国交省は、以下のとおり主な要因をまとめている。(抜粋・要約)

「住宅系地区」
利便性や住環境の優れた地区でのマンション需要が引き続き堅調であることなど。

「商業系地区」
各地の再開発事業の進展や、国内外からの観光客の増加による店舗需要の回復傾向が継続。オフィス需要も底堅く推移。

落ち着き始めた「大濠」

今期、目立った動きといえば、それは全国有数の“地価ホットスポット”福岡県福岡市中央区「大濠」地区(住宅系)の上昇幅が、落ち着き始めたことだろう。

地価LOOKレポートにおける大濠の地価上昇率は、これまで4期にわたって、「6%以上」~「3%以上6%未満」~「同」~「同」と推移してきた。今期は、もう一段下がって「0%超3%未満」と評価されている。不動産鑑定士によるコメントから、一部を抜粋してみよう。

「福岡市内におけるマンションの販売状況は依然堅調であり、完成在庫は少なく、マンション分譲価格は上昇傾向が続いている。一方で、当期においては物件によって販売状況が鈍化する等によって、物件ごとに差が見られるようになっている」

「福岡市内でも有数の優良マンション供給エリアに位置付けられる当地区では、取引価格は上昇傾向が続いているが、上昇幅に縮小傾向が見られるようになっており、当期の地価動向はやや上昇で推移した」

福岡ひとり、しばらく人口を伸ばす

なお、今年4月公表の福岡市による将来人口推計によれば、市の人口は今後も増え続け、2040年には約170.2万人に達すると予想されている。2020年の161.2 万人からは約8.9万人の増加。率にしてプラス5.5%となる。

さらに、その内訳を見ると、高齢者人口(65歳~)はプラス32.7%とやはり大幅に伸びるものの、生産年齢人口(15~64歳)はマイナス0.9%で、減少幅は少ない。人口増に加え、現役世代の数がさほど減らないと予想される福岡市は、いま暫くは、さまざまな投資が活きやすい“買い”の街であることが続きそうな様子だ。

ちなみに、福岡市とともに「地方四市」としてよく挙げられる札幌市、仙台市、広島市の人口は、福岡のようにはいかず、40年に向けては減っていくと予想されている。以下は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」から採った数字となる。(同推計による福岡市のデータも添える)

札幌市 20年 197万3395人
40年 186万8252人(減)
仙台市 20年 109万6704人
40年 105万6113人(減)
広島市 20年 120万754人
40年 111万1468人(減)
福岡市 20年 161万2392人
40年 166万4570人(市の推計よりは少ないが、増)

銀座・歌舞伎町・京都駅前―――東西インバウンド沸騰の地

先ほども各数字には触れたが、地価LOOKレポートにおける地価の上昇地区には、率に応じて3つのレベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」「同(0%超3%未満)」となる。

今期のそれぞれにおける地区数は、以下のとおりとなっている。

項目 今回 前期
上昇 (6%以上) 0地区 0
(3%以上6%未満) 4地区 6
(0%超3%未満) 76地区 74

「6%以上」は、見てのとおりゼロ。それに次ぐ「3%以上6%未満」の顔ぶれは、以下のとおりとなっている。

東京都 中央区 銀座中央(商業系地区)
東京都 新宿区 歌舞伎町(〃)
横浜市 西区 みなとみらい(〃)
京都市 下京区 京都駅周辺(〃)

このうち「みなとみらい」については、街づくり事業の着工(83年)から約40年を経た現況について、別の記事に簡単にまとめてある。―――(「福岡市が『大都会』に昇格 地価LOOKレポート2024年第1四半期」)。

そのうえで、みなとみらいを除く他の3地区だが、これらはいずれもインバウンド需要が沸騰しているエリアだ。不動産鑑定士のコメントから一部を抜粋してみよう。

銀座中央
「訪日外国人観光客による消費が活発な状況(中略)百貨店や商業施設の好調ぶりは、これまでの売上を凌ぐ勢いが続いている」

歌舞伎町
「昨年4月に開業した複合商業施設を中心に、多数の国内若年世代や外国人観光客等が当地区を来訪し、活況が続いている」

京都駅周辺
「当地区は観光客の集散拠点ともなっており、特に円安等の影響から外国人観光客が多く、旺盛なインバウンド需要が見られる」

ちなみに、インバウンドといえば、少し前にこんな報道が話題となった。(6月・日本経済新聞・一部を要約)

「24年1~3月期の訪日客消費が年換算で名目7.2兆円となった。輸出額としては半導体等電子部品などを上回り、自動車に次ぐ規模となっている」(インバウンド消費はGDP統計上サービス輸出に分類される)

その後、政府からは、上記よりもさらに数字の増えた「8兆円」が視野に入るとの見通しも示されている。(7月・観光立国推進閣僚会議)

インバウンドは、産業としてある面白い特徴を持っている。それは、海外移転しないことだ。たとえば、車やアパレルの工場は外国に引っ越す可能性があるが、古社名刹は日本を出て行かない。スーパーや飲食店は海外にも出店できるが、富士山やニセコの山は日本を逃げ出さない。そのため、一旦ブランドが確立するや、地域の経済基盤として長期わたり腰を据えてくれる。安定性、持続性の高さが、大きな特長となっている。

とはいえ、オーバーツーリズムも昨今各地で問題となっている。しかしながら、われわれはぜひ知恵を凝らしてこれを解決していきたいものだ。今後加速していく人口減少による消費の縮小は、インバウンドが伸びなければ、その分だけショックの重いものとなるだろうからだ。

地価LOOKレポートとは?

最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。

国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。

全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。

留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。

以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。

地価LOOKレポート 令和6年第2四半期分(24年4月1日~7月1日)

(文/朝倉継道)

【関連記事】
福岡市が「大都会」に昇格 地価LOOKレポート2024年第1四半期
東京一極集中はよくないことなのか?「地方創生」10年目の総括


無料で使える空室対策♪ ウチコミ!無料会員登録はこちら

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

ページのトップへ

ウチコミ!