ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

「建て替え~退去」を契約書で約束してもダメ 老朽化物件を貸す場合の大事な留意点とは

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

イメージ/©︎serezniy・123RF

賃貸住宅オーナーの前に立ちはだかる借地借家法

将来遠くない時期に建て替え話が進みそうな古い賃貸物件。それを他人に貸す際に注意すべきこと。その大きな2つといったらなんだろうか?

ひとつは工作物責任だ。「老朽化したアパートの外階段が崩落し、入居者がケガ」などといった場合に指摘されるオーナーの責任だ。物件所有者の無過失責任も問われることになる民法による厳しい定めをご存知の方も多いだろう。(民法第717条1項)

もうひとつは、借地借家法による入居者保護のための規定だ。「他人に貸している古い建物を壊して、新しい土地活用を始めたい」などといった際、これがネックとなり、話が進まなくなることがある。

そこで、この記事では、上記のうち後者について触れていきたい。

結論としては「定期借家契約」の選択を勧める内容となるが、そこに至るまでの理由について、より多くのオーナーに知ってもらえると幸いだ。

約束は初めからなかったことに

建物賃貸借契約書を見るなかで、こんな特約が結ばれているのをたまに見かけることがある。

「賃貸人より本物件建物の建て替えを行う通知を受けた場合は、賃借人は無償かつ速やかに本物件を明け渡すこと」

あるいは……

「本物件は建て替えを予定しているため、次回の契約更新は行わない」

見てのとおり、賃貸人(オーナー)はまさに将来の新たな資産活用を想定し、事前の準備としてこれらを盛り込んでいるわけだが、結論として、原則これらは無効だ。争いになった場合、意味をなさない可能性が非常に高い。

例えば、入居者から……

「たしかにそういう契約書にハンコは押した。だが、その後事情が変わり退去はできなくなった。申し訳ないが住み続けさせてほしい」

そう要求され、かつ、物件の状態も実際に入居者が住み続けることが可能なものであるならば、オーナーはこれを覆すのはかなりの確率で不可能だ。

根拠は「借地借家法」となる。その規定によれば、建物賃貸借契約におけるオーナーからの解約申し入れや更新拒絶の通知は、いわゆる「正当事由」が認められなければこれを行えない(借地借家法第28条)。

なおかつ、それに反するような、賃借人が不利となる特約は、たとえ結んでも同じく借地借家法によって無効とされてしまうのが原則だ(借地借家法第30条)。つまり、さきほどのような約束は、初めから存在しなかったことになるわけだ。

正当事由の5要素とは

オーナーからの解約の申し入れや更新拒絶の通知が可能か否かの分れ目となる正当事由について、これを構成する5つの要素とそれぞれの観点を挙げていこう。

正当事由が認められるかどうかは、これらすべてを勘案しながら、総合的に判断されることになる。

1.建物の賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とするそれぞれの事情
入居者とオーナーのどちらが、その建物(部屋)をより深く重く必要としているか?

2.建物の賃貸借に関する従前の経過
例えば、入居者はこれまでちゃんと家賃を払ってきたか? 現に正しく払っているか? など

3.建物の利用状況
例えば、入居者は建物の勝手な改装や無断転貸など、契約違反をしてこなかったか? など

4.建物の現況
入居者が普通に安全に暮らせる建物か? 例えば耐震面での危険性はどうか? など

5.賃貸人による賃借人への財産上の給付、すなわち「立ち退き料」の内容
物件明け渡しにともなう入居者の不利益等を補完するものとして、十分なものになっているか?

ちなみに、このうちもっとも重い主たる要素とされるのが1だ(賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情)。そのため、住もうと思えば普通に住める物件だが、老朽化したので次の土地活用を展開するため建て替えたいといった理由のみでは、オーナー側の物件に対する必要性が弱く、ここをクリアできる要件とはならないだろう。

さらに、5の立ち退き料は、それのみをもって正当事由にはならないと解釈されている点に注意が必要だ。入居者が1~4の事由によって建物を明け渡す際、入居者に生じる不利益をカバーできるものとなっているか、さらにはそれらの事由に正当事由としての力が足りない場合、それを補完できるものになっているか、いわば2次的な要素として、立ち退き料の多寡・内容は判断されることになっている。

まとめよう。

繰り返すが、建物賃貸借契約におけるオーナーからの解約申し入れや更新拒絶の通知は、こうした「正当事由」が成立しなければ行えない。また、入居者保護の観点から、オーナー側が示す正当事由が実際に正当事由として認められるためのハードルはおしなべて高い。

それゆえ、さきほどのような特約が意味をなさない可能性も非常に高いのだ。正当事由が存在しなくとも入居者が建物の明け渡しを迫られるかたちが記されたさきほどの特約2例は、「賃借人に不利なもの」として、借地借家法第30条によりほぼ無効とされるだろう。

以上は、老朽化物件をひとに貸している、または貸そうとしているオーナーならばぜひ知っておくべき大事な基礎となる。

定期借家が救ってくれるが…

では、オーナーはどうすればよいのか?

まずは、これから物件を貸そうとしているオーナーの場合、答えは「定期借家契約」となる。これまでに述べたとおり、賃貸人からの解約申し入れや更新拒絶が困難な「普通借家」に対し、契約で定められた期間の満了をもって、建物の賃貸借関係を確実に終わらせることができるのがこの定期借家制度だ。

すなわち、将来建物の取り壊し~建て替えが予想されるのならば、それに合わせた期間を契約期間として設定し、定期借家契約を結ぶことで、入居者の“居座り”を避けることができる。単純明快かつ究極の解決策といっていいだろう。

ただし、この方法にはデメリットもある。それは、募集が弱くなりがちなことだ。物件が定期借家物件となることで、通常の傾向としてマーケットからは選択を避けられやすくなる。「建物は古いし、しかも住める期間は限定されてるし」ということで、家賃を大幅に下げざるをえないケースも出てくるだろう。

一方、すでに物件を入居者に貸しているオーナーはどうだろう。「貸している」とは、いま述べた定期借家ではなく、従来の普通借家で貸しているということだ。

この場合は、入居者にお願いをし、現在の契約を一旦合意解約させてもらう方法を採る。そのうえで新たに同じ物件での定期借家契約を結ぶのがセオリーだ。

とはいえ、こうした「切り替え」については、オーナー側からはもちろん強制はできない。強制であれば、それはとりもなおさず合意ではなく、一方的な普通借家契約解約の申し入れとなる。すると正当事由が必要となり、要は話が振り出しに戻ってしまうかたちとなる。

加えて、定期借家制度の施行日である2000年3月1日より前に契約された居住用建物賃貸借契約(居住用に限られる)については、上記の切り替えができない。たとえ当事者間で円満合意したとしてもできないのだ。

これは、当初4年ほどで廃止されるともいわれていた入居者保護のための手厚い措置だが、現在も残り続けている。そのため、ある意味有名な、定期借家にかかわる制限となっている。(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法・附則第3条)

借地借家法39条は役に立たないのか?

さらに付け加えよう。借地借家法第39条のことだ。条文の見出しには「取壊し予定の建物の賃貸借」とあって、これを使えば取り壊し予定の建物を貸すことが容易であるように一瞬思ってしまう人もいる。

「……一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において、建物の賃貸借をするときは、第30条の規定にかかわらず、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができる」

しかし、実はそうではない。条文冒頭にはしっかりと触れられているが、これには条件があって、ここでの建物の取り壊しは「法令又は契約」により義務付けられているものでなければならない。

そこで「法令又は契約」とは何かといえば、例えば都市計画法などによる建物の取り壊し義務や、土地が定期借地であることによる建物の取り壊し・更地返還義務などがこれに当たるとされている。要は、該当させるためのハードルがかなり高いのだ。

オーナーが自身の将来の土地活用のために解体業者などと建物取り壊しの「契約」を結んでいるといったレベルでは、これには当たらないと解釈されているので、ぜひ注意しておきたいところだ。

【この著者のほかの記事】
同じ条件なのに周りの部屋の家賃が自分の部屋より安い…そんなときどうする?
告知期間は賃貸でおおむね3年「人の死の告知に関するガイドライン」のポイント
掘り出し物の良質な物件も 定期借家の「いま」を借りる側も知っておこう

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

ページのトップへ

ウチコミ!