軽く思っていたらキケン 賃貸住宅での「入居者が住む部屋」へのオーナーの立ち入り(2/2ページ)
賃貸幸せラボラトリー
2021/11/10
オーナーが入居者の承諾なく部屋に入れる条件は?
上記の判決はいまから14年前のものだ。“被害者”が女性ではなく、仮に男性だった場合に結果がどうだったかについては、多少興味がもたれるところだろう。
しかしながら、同じことがいま起こったとして、ご承知のとおり現在はいわゆるジェンダー平等に向かって世の中が進んでいる時代だ。司法による判断の方向性についても、おのずと想像ができるといったところだろう。
そのうえで、入居者が住む部屋へのオーナーの立ち入りについてだ。入居者の承諾がなくともそれが可能となる場合があるとすれば、どんな場合なのだろうか。
答えを挙げよう。まずは、オーナーが「賃貸物の保存に必要な行為」をしようとするケースだ。この場合、オーナーの立ち入りが、民法により許されている(そういう解釈となる)。
(民法第606条2項)
「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」
ここでいう、保存に必要な行為とは何かといえば、分かりやすいのが雨漏りの修理だろう。賃貸物たる建物においては、それが通常に使用できる状態を維持するために必要な行為のことをいう。
なので、オーナーがこうした「保存に必要な行為」を行おうとする際、入居者はこれを拒むことができない。かといって、オーナーがいつでも勝手に部屋に入り、修理を始めていいというわけではないが、オーナーから事前に正式な申し入れがあったならば、入居者はそれにもとづく行為については、拒否ができないということだ。
さらには「緊急時の立ち入り」となる。
「部屋の中でモノが燃えているようだ」「ガスの臭いがする」「部屋から下の階に水が漏れている」といった緊急時においては、もはやプライバシーのなんのと言ってはいられない。入居者の応答がなかろうが、留守だろうが、オーナーがカギを開け、急いで室内を確認することは、これも「保存に必要な行為」となるわけだ。さらには民法698条に定めるところの「緊急事務管理」にも当たることとなるだろう。
加えて、いわゆる安否確認もここには並べられるべきだ。入居者の生死や、健康にかかわる重大事が部屋の中で起きている可能性があるケースでの立ち入りは、入居者の承諾がなくとも許されて当然の行為のはずだ。
要旨がしっかりと落とし込まれた「標準契約書」
さて、以上に述べてきた、入居者のプライバシーに配慮することの重要性と、民法による定めの趣旨をわれわれに上手く伝えてくれるよい成果物があるので紹介しよう。国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」の中にある、貸主の立入り要件に関する部分だ。
(立入り)
第16条 甲(貸主・以下同)は、本物件の防火、本物件の構造の保全その他の本物件の管理上特に必要があるときは、あらかじめ乙(借主・以下同)の承諾を得て、本物件内に立ち入ることができる。
2 乙は、正当な理由がある場合を除き、前項の規定に基づく甲の立入りを拒否することはできない。
3 (略)
4 甲は、火災による延焼を防止する必要がある場合その他の緊急の必要がある場合においては、あらかじめ乙の承諾を得ることなく、本物件内に立ち入ることができる。この場合において、甲は、乙の不在時に立ち入ったときは、立入り後その旨を乙に通知しなければならない。
ところで、こうした方向性とは逆に、なかにはオーナーに強引な権限を与え過ぎの契約書も見かけることがある。例えば……
(契約書条文)
「貸主は、必要があると認める場合は、借主の承諾がなくとも本物件内に立ち入ることができる」
読んでのとおり、これでは入居者のプライバシーが守られない。オーナーは自身の理屈と判断で、いつでも入居者の部屋に入ることができる内容となっている。そこで、オーナーがこうした条文に沿うかたちで、さきほどの民法の内容も無視し、「保存に必要な行為」の目的なくして入居者の住む部屋へ無断で立ち入った場合はどうなるだろうか?
その際、争いになれば、オーナーはたとえ契約書をタテにしたところで、その有効性そのものを否定されかねない分の悪い戦いを強いられるように思われる。つまり、危ない実験はわざわざすべきではない、ということになるだろう。
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室