賃貸住宅でペット可にするなら「飼育細則」を決めること そのとき重要な2つのポイント
賃貸幸せラボラトリー
2021/10/12
イメージ/©︎smit・123RF
ペット可物件にするなら必須の「飼育細則」
空室対策のために、賃貸物件を「ペット不可」から「ペット可」に。ところが、いま住んでいる入居者の了解を事前に得なかったために、「勝手にルール変更は困る」「私、重い動物アレルギーなんですが」と、苦情が殺到……。
そんな、残念な結果を招く賃貸住宅オーナーの話は、最近、滅多に聞かなくなった。
とはいえ、やはりペット可にまつわっては、オーナー側の想定が甘かったり、行き届かなかったりすることによるトラブルやハプニングが起こりやすい。そこで、それらを抑えるため、重要なのが「飼育細則」の設定となる。要は、ペット飼育に関する細かなルール決めだ。
この記事では、飼育細則を定める際、特に重要となるポイントを1つ、今後重視されていく可能性が高いポイントを1つ、計2つをピックアップしていきたい。
前者は、「飼えるペットの種類・サイズ・数を厳密に決める」こと。後者は、「狂犬病予防接種、その他ワクチン、去勢、避妊」についてのこととなる。
1.飼えるペットの種類・サイズ・数を厳密に決める
飼育細則には、共用部分でのペットの移動方法や、専用部分(各住戸内)における飼い主の原状回復義務の詳細など、さまざまなルールが通常盛り込まれる。そのなかでも、もっとも大事な決めごとといえるひとつが、飼える動物の指定・限定だ。
一例を挙げよう。
1.原則、飼育可能な動物は、犬および猫とする
2.特定動物等、法令で飼育が禁止されている生き物や、その他、人に危害が及ぶおそれのある生物、または、騒音、悪臭、住環境の汚染源となりうるなど、近隣に迷惑をかけるおそれがある生物については、厳に飼育を認めない
3.犬、猫以外の小型の愛玩動物や、鳥、爬虫類、魚、昆虫等、近隣に迷惑をかけるおそれのないすべての生物の飼育については、個別判断のため、事前に相談のこと
ちなみに、2については、通常、建物賃貸借契約の禁止事項にも「猛獣、毒蛇等の明らかに近隣に迷惑をかける動物を飼育すること」などと記されているはずだ。つまり、細則によって、ここでは二重の抑えがかけられるかたちとなるわけだ。
さらに、非常に大事なのがペットのサイズと数の限定となる。
例えば、
・犬の場合、成犬時で10kg以下とする
・その他の生物のサイズについては、犬の場合を原則上限とし、なおかつ要相談とする
・犬、猫の数は、合わせて2頭(匹)以下とする。その他の生物については要相談
などと規定する。ちなみに、成犬時で10kg以下といえば、柴犬がおおむねこれにあてはまる。そのうえで、こうした飼える動物の種類、サイズ、数の限定によって、どんな効果が生まれるかを具体的に示すと(いずれも実例)、
「ペットといえばもちろん犬か猫と、オーナーも管理会社も思い込んでいたが、その入居者が連れてきたのはなんとヒツジだった」
「小型の犬を2匹飼っていますと申告していた入居者だが、実はその2匹というのはゴールデンレトリーバーの子犬だった。あっという間に成長し、体重30kgの大型犬2頭が狭い部屋に暮らすことになった」
こうしたビックリ事例を避けることができるようになるはずだ。なお、以上に併せて、より正確な確認のため、入居審査時にはペットの写真を提出してもらうのがよいだろう。もちろん、そのことも細則に規定する。
2.狂犬病予防接種、その他ワクチン、去勢、避妊
こちらは、ペット可賃貸物件の運営において、今後重視されていく可能性が高いと思われるテーマだ。すでに運用している管理会社ももちろんある。まずは犬だ。犬については、狂犬病の予防接種、および、その他感染症のワクチン接種を飼育の条件にし、それを細則に規定するのが望ましい。
なぜなら、散歩への行き帰りなど、他のペットやその飼い主との接触機会が犬にあっては自然に発生しがちとなるからだ。物件内での感染症の発生を抑えるためのルールづくりは、ペット可物件を運営するオーナーとして、当然担うべき責務といえるだろう。
また、猫については、去勢・避妊手術の実施を入居の条件とするのが望ましい。
猫の飼育においては、現在は室内飼いが特に都市部では基本となっており、賃貸集合住宅の環境下では、それはますます当然のこととなる。発情にともなう、いわゆる「問題行動」によるトラブルや、物件へのダメージを避けるため、生き物としての猫に対してはかわいそうなことだが、これらは、ペット可物件においてはぜひとも導入すべき入居条件とせざるをえないだろう。
なお、犬の狂犬病予防接種は、そもそもペット可物件云々以前に、法令上の義務となっている(年1回)。従って、入居契約時、入居者に対し、証明書(狂犬病予防注射済証)の提出を求めるのは、管理上のいわば最低ラインだ。なおかつ、年1度の接種報告義務についても、細則にはしっかりと明記しておくべきだろう。
一方、狂犬病以外の犬の感染症ワクチンについては、予防できる感染症の数に比例して、少ないもので3種、多い場合は10種以上など、さまざまなものがいわゆる混合ワクチンのかたちで存在する。そのため、何種以上を入居の条件とするかについては、面倒なことにオーナー側の判断にすべてゆだねられることとなる。
参考までに、ペットホテルやドッグランなどでは、3種、あるいは5種以上の混合ワクチンを過去1年以内に接種していることを宿泊や入場の条件としているところが多い。また、ある管理会社では、「5種以上、毎年接種」をペット可物件への入居条件に据えている。
とはいえ、これらのワクチンをどのくらいの頻度で愛犬に接種すべきかについては、副反応への懸念などから、「幼犬の時に接種が正しく行われた犬であれば3年程度ごとでよい」など、現在、専門家の間でも意見が割れつつある。
つまり、この辺りの判断については、実はオーナーも含め、賃貸住宅関連業界全体の勉強課題のひとつともなっているわけだ。参考となる情報はインターネット上で無数に拾えるので、適宜判断していってほしい。
ともあれ、「狂犬病予防接種、その他ワクチン、去勢、避妊」については、それを行わないことによるデメリットの回避のほか、ともすればそれ以上に、ペットを飼う入居者の姿勢を推し量るものである要素が強い。
よって、これを細則に示すにあっては、だらしないペットの飼い方をする飼い主を排除する意味も、当然大きく含まれている。
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室