ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

「昭和の大家」から学ぶ——いまどきオーナーが見逃しやすい入居者募集のキホン

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

イメージ/©︎gajus・123RF

オーナー自身が入居者を募集するのに免許は要らない

「もう3カ月以上も空室が埋まらない……管理会社はちゃんと募集をしてくれているのだろうか? 仲介会社は動いてくれているのだろうか? 私には彼らに頼る以外何もできないのに……」

そんな風に頭を抱えている賃貸住宅オーナー、もしや思考がどこかで止まってはいないだろうか? 思い出してみよう。賃貸住宅の貸主が自らの物件の入居者を募集するのに、免許は必要ないのだ。

そう。入居者を獲得するために、オーナーは本来、自らが動いていいのだ。そのもっとも簡単なひとつが、周りにいる人や、目の前にいる人に声をかけるという方法だ。基本、コストもかからず、チャレンジしてみてまったく損はない。

入居者候補が目の前をぞろぞろ…?

ある賃貸マンションでの話だ。

居住用の部屋はすべて単身用。昨年の9月下旬に、そのうちの1室で退去があった。だが、そのあと、この部屋は新たな入居者の募集で苦戦した。オーナーがやきもきしながら待ち望んでいた次の入居者が決まったのは、年が明けて1月半ば過ぎのこと。ほぼ4カ月間の空室が生じたことになる。


長期の空室だけはなんとしても避けたい 写真はイメージ/©︎paylessimages・123RF

ちなみに、この部屋が原状回復とクリーニングを終え、ドアの鍵も交換し、「入居者さんいつでもどうぞ」の状態になったのは10月10日前後のことだ。よって、逃した収入は賃料約3カ月分となった。3カ月=1四半期分の水揚げがゼロになったと考えると、それなりの痛手といっていい。

なお、この物件だが、不人気物件ではない。普段はもっと早く、平均して前の入居者の退去後1カ月程度、募集期間にして2カ月ほどで空室が埋まる(前入居者がまだ住んでいる間に募集は通常開始される)。つまり、物件自体に「力」はあるのだ。なので、オーナーも管理会社も「今回もいつもくらいのスピードで決まるはず」と、若干油断はしていたのかもしれない。

そこで、現場の状況だ。この物件を実際に見に行くと、建物は明るい色の外壁に囲まれたRC造で、1階には店舗が入っている。店舗はやや広めの美容室だ。スタッフはアシスタントを除いて8人いるそうで(店長含めた正規の美容師=スタイリストの数となる)、1人が1日少なくとも5~6人以上の客を担当している。そのため、彼ら・彼女らが月22日間ずつ稼働したとすると、この店を訪れる客は、単純計算で月900~1000人程度を下らない数となるわけだ。

なお、この美容室のエントランスは、マンションのエントランスのすぐ横、目の前のところに位置している。なので、もしもマンション側エントランスの前に何かモノが置かれていれば、美容室を出入りする客の目に、それは否応なく飛び込んでくるかたちとなる。

 

実はスゴイ 昭和オーナーのアナログな募集術

そこで結論だ。この物件で空室が出た際は、オーナーはマンションのエントランスに洒落たボードなどを立て、「入居者募集中」を告知するべきだ。募集のチャネルを増やすのだ。連絡先は管理会社としておけばいい。

美容室があるおかげで、いつもファサード(建物の前面)が華やかな空気に満たされているこのマンション。テラコッタ製のプランターには花も飾られ、お洒落な雰囲気が漂いまくりだ。なので、そこに掲げられる「空室あり」の告知は、ほぼ間違いなく、美容室にやってくる9割方が女性であるゲストの胸に届く。あるいは、当人に引っ越しの予定や希望がなくとも、そこから友人などへと口コミが広がることも十分期待できるだろう。

こうした可能性を現在のオーナーはよく忘れているのだ。これは、物件に「空室アリマス」の貼り紙を掲げて入居者募集をしていた昭和40~50年代前半くらいまでの大家の感覚だ。

なお、その頃といえば、こうした貼り紙のほか、近所からの人づてや、入居者が退去の際に後輩や同僚など、別の入居者を連れてくることなどで常に部屋が埋まるため、「不動産会社に募集を頼んだことがない」というオーナーも、よくいたりしたものだ。ゆえに、そんな昭和オーナーがタイムスリップして、いまここに現れたら、今回の物件については次のようなアドバイスもするかもしれない。

「そもそも、こちらで空室が出た際は、最初に美容室さんに声をかけてみては? 入居者候補の単身者の皆さんが、たくさん働いているじゃないですか」

さらには、人が住むのみならず、従業員の休憩場所兼商品保管用スペースなどとして、そばに部屋を欲しがっている店もよくあるものだ。

故郷の母を同じ屋根の下に呼びたい

入居者募集を管理会社や仲介会社に任せるだけでなく、自ら動くオーナーも増えてきた。

例えば、自身の物件が駅に向かう通勤者がたくさん通る路地にあるのを幸いとして、エントランスに花で飾った洒落た募集告知を掲げるオーナーがいる。ねらいは近所の他の物件からの住み替えニーズだ。このオーナーは次のように話す。

「私の物件は庭が自慢で、夜のライトアップもきれいなんです。毎日通勤の行き帰りに眺めていて、『ここってイイな』と思ってくれている方がきっと何人もいるはずです」

一方、空室が出ると、まず初めにいま住んでいる入居者全員に声をかけるオーナーもいる。その結果、「一室空くのなら、田舎で一人暮らしをしている親を呼びたい」と、新たなニーズを掘り起こした。本来、単身での入居であれば健康状態がやや心配な高齢のお母さんを子どもがそばで見守ってくれるかたちとなり、入居者・親御さん・オーナー、3者にとってベストな結果となっている。


親とはできるだけ近くに住みたい イメージ/©︎acheev・123RF

こんな剛腕オーナーもいた。

さきほどの「庭が自慢」のオーナー同様、近隣からの住み替えニーズを狙おうと、自身の物件の募集チラシをこしらえ、なんと、それを近所の競合物件の郵便受けに何十枚と配り歩いたのだ。

ちなみに、これは別に悪いことではなく、なんの違反にもならない。だが、発覚するとかなりの確率でトラブルにはなるだろう。方法としてあり得ても、業界目線的にはどの地域でもビックリの、いわば “免疫のない” 行為となるはずだ。実際、このオーナーも、「よく考えたらマズかったです」ということで、間もなくこれを自粛した。

オーナーが動く際の2つの注意点

最後に付け加えておきたい。

オーナーが自ら動き、入居者を獲得するやり方にあっては、「いまどき」であるからこその注意点が2つある。

ひとつは、入居者をつかまえるのはオーナー自身であっても、契約にかかわる事務手続きなどについては、管理会社や仲介会社、つまりプロにこれを任せておくことだ。トラブル予防の観点からも、その辺りについてはプロの手順とフォーマットにのっとっておくのが、オーナー、入居者、両者にとってやはり安心・安全だ。

そしてもうひとつ。物件内でのトラブル予防のための気配りも忘れないようにしたい。入居者に声をかけ、新たな入居者を連れて来てもらうようなケースでは、これが成功すると、物件内に、お互いによく知り合う関係の入居者が生まれることになる。

夜間など、それぞれの部屋を訪問し合っての会話や、頻繁な出入り等、他の入居者の迷惑となるような騒音が生じないよう、必ずお願いはしておきたい。

【この著者のほかの記事】
味方のはずが強力なライバル? 管理会社と付き合うために賃貸住宅オーナーが知っておきたいこと
人気のフリーレント物件のウラ側 借りる際の3つの注意ポイント
ペット不可の物件でも小鳥やハムスターなら飼える? 答えは契約書の中にある

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

ページのトップへ

ウチコミ!