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契約書をどう読み取るか――敷金・保証金を巡るトラブル

大谷昭二

2020/05/08

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借り主が賃貸住宅を退去する際に、ハウスクリーニングやクロス張替え等の原状回復費用として敷金が返金されない、敷金を上回る金額を請求されたという相談が寄せられています。2019年に国民生活センターに寄せられた原状回復問題の相談件数は7995件と、いまだに大きな問題です。

ここでは不動産賃貸における敷金・保証金を巡るトラブルの問題解決をQ&A方式で解りやすく解説していきます。

契約書にかかわる疑問――行きすぎた契約内容は指摘すべきか?

Q.契約書の内容を見ていたら、「家賃の支払いを1日でも遅延した場合には、即刻退去するものとする」となっていました。
そういう契約内容は不当だと思うのですが、削除を求めたほうがいいのでしょうか? それとも、法的に認められないと思うので無視して契約したほうがよいのでしょうか?

A. このような規定は、単なる脅しに過ぎません。法的にも認められていません。
家主としては、家賃の滞納を恐れるあまり、このような規定を設けていると思いますが、認められませんので安心してください。

家主側から契約を解除するには、借主との間で信頼関係がなくなるような事態が前提となります。
「信頼関係がなくなるような事態」とは、家賃の滞納で言うと、判例では、6カ月程度以上の滞納があれば、「信頼関係がなくなった」とみなされているようです。

いずれにしても、契約時点で削除を求める方法もありますが、強い要求をすれば、契約そのものを拒否される可能性もありますので、あまり神経質にならず、無視して契約してもよいと思います

契約の履行と不履行はどこが線引きになるのか?

Q.「契約の履行に着手」とはどいうことでしょうか?

A.解約手付は、家主にも借主にも契約を解除する権利を保障しています。しかし、いつまでも、契約解除が可能としておくと大きなトラブルが発生する可能性があります。
そこで、解約手付で解約することができる期限を「契約の履行に着手するまで」としているのです。

この「契約の履行に着手」というのは、判例で、「客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために不可欠の前提行為をなすこと」となっています。
「ただし、自らが履行に着手したに過ぎない場合は相手方が履行に着手しない限り解除できる」としています。
そして、契約の相手方が契約の履行に着手するまでは、解約手付で契約の解除が可能とされています。

さらに、「契約の履行に着手」することと
「契約の履行の準備」とは異なるとされており、「契約の履行に着手」は、厳密に考えられています。

具体的な例で考えましょう。

家主にとっての「契約の履行に着手」は、借主へのカギ渡したというのがわかりやすい例になります。
一方、借主にとっての「契約の履行に着手」は、契約金の残金をすべて振りこむなど、もはや後戻りができない状態になったような場合です。

しかし、家主が、借主に貸すために、物件のクリーニングを行ったり、クロスの張り替えなど内装工事などを行ったりすることは、「契約の履行の着手」ではなく、「契約の履行の準備」行為と考えられています。

というのは、クリーニングや内装の張り替えそのものは、借主との契約がなかったとしても、前の入居者の退去後に行うことが多く、借主との契約の履行とは直接結びついているとはいえないからです。

契約金の振り込みとカギ渡し――家主と借主の公平性

家主は、借主が契約金のすべてを振り込んだ後は、手付金の倍返しでは契約解除ができず、
借主は、家主からカギを受け取った後は、手付金の放棄での契約解除はできないということです。

しかし、これらだけが、「契約の履行に着手」として考えると、家主に非常に不利になる可能性があります。
つまり、借主が契約金をすべて支払えば、家主は手付金での解約はできないのに対して、
家主からカギを受け取る直前まで、借主は手付金の放棄だけで契約を解除することができるからです。

こうしたかたちで契約の解消が行われたとすると、家主は1年間、空室のまま残しておくというようなリスクを抱え込むことになり、法的な公平性があるとは言えません。
そこで、家主・借主の双方とも、もはや後戻りができない状態になったときには、「契約の履行に着手」したと考えるほうが妥当です。

具体的に言えば、借主が契約金の残金をすべて支払った後は、家主も借主も、手付金での解約はできず、自己都合で解約する場合には、相手に対する損害賠償の責任が生じると考えるのです。

家主については、判例などから、手付け解約できないのは明らかですが、借主の場合にも、「契約の相手方」ではなく、「当事者の一方」が契約の履行に着手したということで、手付け解約ができないと判断し、万が一、借主が契約を解除する場合には、敷金などは別として、礼金などは違約金として没収されても仕方ないと考えるべきでしょう。

なお、いずれにしても、この点については、判例などで明確な判断がなされていないため、現場レベルで、どのような解釈を行うのが合理的で公平性を持つものなのかを考えて判断することになります。

(文/大谷昭二 画像/123RF)

 

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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