狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
田中 裕治
2020/03/20
イメージ/©︎123RF
古い狭小住宅は現状のままで売り出す
空き家が社会問題になっていますが、なかでも、相続と関係した地方の不動産を処分したいという相談が増えています。そうした空き家のなかには市街地にあって土地や建物が小さいけれど、処分は可能かという物件があります。
こうした狭小物件は、単に「狭い」という理由だけで売れないということはありません。むしろ小さくても「駅から近い」「買い物に便利」など立地条件によってはすぐに売れてしまうものあります。また、周辺の相場より価格を下げることで売れる可能性は高くなります。
しかし、意外と勘違いされているのは建物を壊して更地にしたほうが売りやすいと考えているという方が多いことです。じつは狭小住宅の場合は、更地にしてから売るというのはまったく当てはまりません。
こうしたケースで更地にしてしまうと、以前と同じ建物の広さと同じ家を建てることができなくなる可能性が高くなります。というのも、建ぺい率を規制する法律は1952(昭和27)年、容積率を規制する法律は63(昭和38)年にできました。つまり、63年以前に建てられた家はこうした法律の制限はなく、狭い土地でも広い家が建てられました。しかも、こうした法律は改正の度ごとに建ぺい率、容積率はどんどんと厳しくなっています。そのためこれに引っ掛かってしまうと、以前と同じ広さの家は建てられません。そして、古い家はその可能性が極めて高いのです。
とはいえ、すでに建てられた家はこうした法律の基準をオーバーしていても、リフォームをして住むことができます。ですから、建物は壊さず、そのままにしておいたほうが、広い家として売り出せることになるのです。
測量、残置物処理にはいくらかかる?
土地・建物の売却相談のなかでも地方の誰も住んでいない実家の建物や土地を相続したけれど、費用かけずに処分したいというご相談も多くあります。
こうした不動産を処分するにはさまざまな費用がかかります。とくに空き家問題がクローズアップされるなかで、国の法制審議会では相続時の登記が義務化されようとしており、今後はこうした費用も考えておく必要があります。
加えて、こうした相続時の登記、あるいは売却にしても付随して必要になるのが測量とその費用です。もちろん、きちんと区画整理された分譲地で隣接する土地の境界が明確になっていれば問題はありません。しかし、隣接地との境界が曖昧だったり、揉めている、あるいは、登記されたのが何代も前といった場合では、事前に測量が必要になります。不動産の場所にもよりますが、測量にかかる費用は、30坪の土地でおおよそ30~40万円前後が1つの目安になります。
さらに、実家を処分するにあたっては、家に残されたものの処分も必要です。自分で行うにしてもその交通費や処分費用がかかります。こうしたいわゆる残置物処理を業者に頼めば30坪の家でおおよそ40~50万円ぐらいが相場です。売却する場合、建築不可物件で建物をそのままに売却する場合であれば、雨漏りや設備の不備の修繕費用も考慮する必要もあるでしょう。
このように売却するには費用がかかりますが、これもやり方次第。
何もしないで売却することも可能です。もちろん、その場合は測量費用や残置物撤去費用、修理費などは値引きを検討する必要はあります。買い主と折り合いがつけば可能なわけで、細かいことはひとまず置いて、現状のままで売り出してみるのも1つの方法です。
【実例紹介】相続で取得した後、「再建築不可などの問題物件の売却」(埼玉県児玉郡上里町)
「相続で取得した不動産があります。兄弟で相続した長年空家にしたままの共有不動産を、維持管理もできないため、売却したい」というご依頼でした。
駅から比較的近くの住宅と畑が混在するエリアにある一戸建て。長年、空き家だったためメンテナンスはされておらず、そのままでは使用できる状態ではない。公道に出るにはが第三者所有地を通行しなくてはならない
お話をうかがっていくなかで、建て替えができない建築不可物件であること、家から公道までお隣の私道(厳密にいうと通路)を通行しなければならないことなど、ご本人たちも知らない問題が発覚しました。
私道通行についてはお隣との交渉の末、合意。建て替えについても測量などを行い特別な許可が出れば可能ということになったのですが、売主さまは費用をかけたくないとのことで、現状のままで販売を開始しました。
しかしながら、物件に対するお問い合わせも少なく、長い期間、厳しい状況が続きます。
販売開始から1年半が過ぎたころ、私道通行の合意をいただいたお隣より「草木に害虫が大量に発生しているので対応してほしい」という苦情が寄せられます。それをきっかけに、そのお隣と協議を重ね「現状の販売価格で購入することはできないが、こちらの予算で売っていただけるなら購入してもよい」とうことになり、売主さまも妥協され、売買が成立しました。
この件でのポイントは「売るときに発覚する不動産トラブル」です。この物件では建て替え不可、公道までの第三者の私道の使用など相続して売却しようとしたときにいろいろな問題を知ることになりました。
こうしたトラブルが事前にわかっていれば、相続の分配も変わっていたかもしれません。前にお話ししたように、古い物件では建ぺい率や容積率などの面で建築不可物件というのはめずらしくありません。古い不動産の場合は、専門家に依頼して事前に調査されることをおすすめします。
「売れない不動産はない〜負動産を富動産に変える〜」田中裕治氏のコラム一覧
第1回 どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回 「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回 狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回 車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回 売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回 共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回 「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回 共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回 別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする
この記事を書いた人
一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。