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牧野知弘の「どうなる!?  おらが日本」#12 「サラリーマン大家さん」の真髄

牧野 知弘牧野 知弘

2019/11/02

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イメージ/123RF

多くの会社に棲息 マイペースおじさん

昔は植木等さんが歌って踊った「いちどやったらやめられない」いい職業がサラリーマンだった。だが、最近はそうでもない。会社同士の合併などあたりまえ、社内の昇格にも試験がある、上司にゴマをするだけではなかなか思うような出世もなく、プレッシャーばかりでさびしい人生を送るサラリーマンがなんと多いことか。

そんな熾烈な出世競争に明け暮れる会社の中で、ひとり、ひたすらマイペースに日々を過ごしているおじさんにお気づきだろうか。

会社には定時にちゃんと出社する。そのかわりあまり残業もせずに5時をすぎると、「みなさん、おつかれさまでした」と挨拶をして、さっさと帰ってしまう。滅多なことでは飲みにもでかけない。
 
当然のことだが、会社内ではあまり出世はしない。でも何か失敗をしでかしているわけでもないので、降格などのお咎めを受けることもない。ましてや馘にもならない。「そこそこ」の会社生活を過ごしているおじさんが実は多くの会社に棲息している。

このような平凡なサラリーマンに見える人の中に、「サラリーマン大家さん」がいる。この種族の人たちは、世間が思うところの「不動産屋」のイメージからは程遠い人たちだ。

まず、人とはあまり深く交わらない。人と接するとお金がかかるからだ。もちろん飲みになど行くとさらにお金がかかるので、会社の行事だけにして、いただける給料でコツコツ不動産を買っているのだ。

買うのはたいてい賃貸マンション。普通のサラリーマンの給与の範囲ならワンルームマンションが一般的だ。

もちろん、最初からワンルームを全額賄うだけの貯金はないので、頭金程度にしてあとはローンを組む。ローンの金利部分は一定限度を所得から控除ができるので、毎年ちゃんと確定申告をして、所得税の還付を受けている。

気楽に暮らし しっかり蓄財

サラリーマンは年末に年末調整を受けて所得の申告をしないで済むのが普通だが、しないで済む、ということは関心がなくなるということと同義で、唯々諾々と税金を納めるのが普通のサラリーマン。これに対して、サラリーマン大家さんは確定申告をし、部屋の維持にかかった費用である、ローン金利などを所得から差し引いて、手取りの収入を増やしている。

一生懸命働いて、出世競争に勝ち抜いて地位と名誉、そして高額の報酬を、と頑張るサラリーマンは多いのだが、最後まで出世を貫ける幸せな人はごくわずか。その他の多くのサラリーマンが、結局は出世競争という舞台での敗者となってしまう。

多少人よりも早く部長に昇進したとしても、同期であまり出世しない人との年収の差なんて、日本の多くの会社ではほとんどないのが実情だ。

出世などという自分の実力に対する「思い込み」とかなりの「運の良さ」に人生をかけてぼろぼろになるよりも「実質的」に生きよう、というのがサラリーマン大家さんの考え方だ。

もうおわかりだろう。出世を重視しないのなら、遅くまで働く動機もないし、そりの合わない上司にお世辞を言わずに済む。ましてや毎晩、居酒屋で時間を費やす必要もない。気楽に暮らして、しっかり蓄財。これほど合理的な生き方はない。

サラリーマン大家 行動指針4ヵ条?

ではサラリーマン大家さんになるには、具体的にどのようにしたらよいのだろうか。サラリーマン大家さんの鑑のような、私の知人で関西出身のNさんを紹介しよう。

自分の家にお金をかけない

ただでさえ、つましいサラリーマンの給与だ。出世であくせくしない分だけ同僚とは同じか少し下回るくらいの額だ。大切にしよう。一番の敵は住宅ローンだ。自分の家はただ住んでいても、家賃収入があるわけではない。家族のために大きな家を買ったところで、子供が独立すれば、残された夫婦には広すぎる。多少狭くても子供なんてすぐいなくなる。
 
まずは定年まで、あるいはあるはずの退職金をアテにして返済し続ける住宅ローンの呪縛から解放されることだ。そこで浮いたお金を投資に回す。
 
Nさんは、夫婦と大学生のお子さんを筆頭に3人の子供の夫婦5人家族で、自宅は約17坪(56㎡)の古いマンションだ。いっぽうで彼の持つ賃貸マンションは10数軒になる。

会社で金を使わない

彼は出世を目指していないので、会社のためにお金を使う必要がない。同僚や上司との飲食は周りが奢ってくれる場合を除いてなるべく行かない。どうしても行かなければならないときはせめて割り勘だ。へたな見栄を張る必要はない。相手だって、「このおっさん、出世しないよね」とわかっているので、奢られなくてもたいして気にしない。二次会なんてもってのほかだ。

Nさんは、たまに一緒にご飯を食べる機会があっても、当然奢ってくれたりはしない。酒を飲むときはきっちり熱燗2本と決めている。しかも一番安い銘柄しか頼まない。私がビールを注文すると「もったいない、ビールなんてアルコール度数が低くて不経済やねん。なんでそないなもの飲むのん」と叱られる。おつまみはいつも冷奴にちくわ2本。それ以上頼もうとすると、ちょっと不機嫌になり、「そんなにいっぱい頼むから太るんだよ。あんたが頼んだ分は自分で払ってね」と必ず言い添える。ちなみにNさんは本当にスリムだ。食べ物にもお金をかけていないことがよくわかる。

のめりこむような趣味を持たない

会社人生に興味を持たないことを誓っても、ほかに金のかかる趣味をもっては何にもならない。ゴルフなんていう、何の生産性もない趣味はやめたほうがよい。高価な道具、行き帰りの交通費、以前より安くなったとはいえ、ばか高いプレー代。しかもスコアが悪かったりすると気分まで悪くなる。精神衛生上もよくない。

なるべくお金をかけずに気分転換ができるという意味ではジョギングなどは良い。身ひとつとシューズとウェアがあれば、ほかにお金はかからない。同時に痩せて健康になる。

ただ、この趣味も「のめりこんで」しまうとやっかいだ。ジョギングに飽き足らず、ホノルルマラソンを筆頭にあちらこちらのマラソン大会に遠征する、ランニングクラブに入って仲間と付き合い、酒を飲む、こうなるとやはりお金がかかってしまう。

Nさんのもうひとつの趣味は読書だ。でも彼は決して単行本を買ったりはしない。はやりの経済本などは会社人間ではないので必要がない。名作文学本を図書館で借りる。人から借りることもある。彼は人の話を聞くのがとても上手だ。話を聞くのはタダだからだ。

生活の水準を変えない

少しお金が手に入ると人間、気が大きくなる。江戸っ子は「宵越しのかねはもたない」などといばったそうだが、サラリーマン大家さんはその多くがきわめて質素な生活をしている。

Nさんはまず、服装には全く気を遣わない。出世をあきらめているから、会社で気を張る必要はないので、ロードサイド店の「2着で19,800円」などという品物ですませる。目立たない普通のおじさんであればよいのだ。

外食は極力しない。家で食べるのが一番安いからだ。自給自足の家庭菜園はかえってお金がかかる。それよりも会社を早めに出て、閉店間際のスーパーで安売りの魚や野菜を買うほうが賢明だ。Nさんは食べ物にもこだわりが一切ない。

旅行もよくない。仕事はヒマなので、有給休暇は存分に使えるが、旅行はお金をたっぷり使ってしまう危険がある。

どうしてもどこかに行きたいなら近隣を散策する。歩くのは走るのと同様にタダだ。健康にもよい。渋滞の高速道路で排気ガスを撒き散らして無駄な時間をすごして金をばらまくよりも有意義で、夫婦の会話もはずむはずだ。

子供の教育も見栄を張る必要はない。公立の学校を十分に活用しよう。幸い今は少子化で大学は全入の時代。子供に投資するお金は効果があきらかに見込める場合は別として、本当に必要な範囲にとどめればよい。子供だって所詮はサラリーマン程度にしかならないとあきらめればよい。サラリーマンに高学歴なんていらない。

成功or自己破産 何が違うのか

このようにして、まずはサラリーマン大家さんになるための心の準備をする。なりたいものになるためには、やっている人のマネをすることだ。野球でもサッカーでもうまくなる人はみんな憧れの人のマネをして成功する。

サラリーマンはどうしても一日のうち一定の時間、たとえば9時から5時までの間は、会社に身柄を拘束される。サラリーマン大家になろうというのに、この時間を無為に過ごすことはもったいないと思うかもしれない。

しかし、この時間はちっとももったいなくない。なぜなら、毎月確実に給料が口座に入ってくるからだ。

自営業や会社経営者なら痛感するところだが、毎月定額のお金が黙っていても入ってくるという商売は世の中なかなかないものだ。

毎月確実に入ってくる給料を軍資金に不動産投資を続ければ「サラリーマン大家さん」は結構うまくいく。Nさんはそれを地で行った人だ。でも世の中巷にあふれているのは不動産投資で大儲けした人が数年後に自己破産。よく聞く話だ。何が違うのか。あなたは本当にNさんのように生きられるか。よーく考えたほうが良い。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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