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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本]#1 大都市が空き家天国になる日

牧野 知弘牧野 知弘

2017/12/18

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イメージ/123RF

2030年代 日本は国ごと「荒れ果てる」

空き家問題は最近ではすっかり社会問題となり、各種メディアのほとんどで取り上げられない日がないほどポピュラーな話題となっている。

総務省によれば全国の空き家数は、2013年で約820万戸。住宅総数(6063万戸)に占める空き家の割合(空き家率)は13・5%となり、日本の住宅の7軒から8軒に1軒が空き家という深刻な事態に陥っている。

野村総合研究所の予測によれば、このまま空き家が除却・滅失されずにいると2033年の調査時点では空き家の数は2146万戸と2000万戸の水準を超え、空き家率は30・2%となる。一般的には空き家率が30%を超えると、地域の治安が急激に悪くなり、地域全体がスラム化するといわれているが、日本は2030年代には国ごと「荒れ果てる」という驚愕の事態が控えていることとなるのだ。

空き家といえば、地方に残された実家の問題と考える人がいまだに多いが、実は現在ではれっきとした都市部の問題となっている。

空き家率こそ山梨や長野といったところが高い率を示し、東京や神奈川などの都市部は全国平均である13・5%を下回っているが、空き家の実数でのワースト5ということになれば、東京、大阪、神奈川といった都市部が名前を連ねる。都市部は住宅数が多く、空き家率が低くても実数は非常に多くなるからだ。空き家問題を深刻にしているのは、地方で風雨にさらされ、幽霊屋敷のようになった家ばかりではなく、都市部に多く存在するごく普通の家なのだ。

現在の日本の世帯数は約5210万世帯。そのうちの3分の1に相当する約1700万世帯が単身者世帯である。以前は単身者世帯といえば、結婚前の若者の世帯というのが通り相場だったが現在は様相が異なる。2014年現在で65歳以上の高齢者の単身者世帯は約596万世帯、30年前(1985年)と比べて約5・3倍も増加している。高齢者社会の進展は、単身高齢者世帯を大量に生み出しているのだ。

雇用機会均等法、大都市法の改正がライフスタイルを変えた

首都圏でも今後、急速にこの高齢化問題が進行する。国立社会保障・人口問題研究所の調べでは、首都圏人口は2015年から20年頃にピークを迎え、その後は減少していくとしている。人口の減少とともに深刻になるのが高齢化だ。

現在、首都圏(1都3県)の人口は3505万人(2014年)と言われているが、そのうち高齢者が占める割合は23%ほどだ。この数値は今後、年を追うごとに高まり2040年には約35%になることが予測されている。首都圏人口の3人に1人が高齢者になる計算だ。

首都圏の高齢者の多くは、高度成長期以降地方から首都圏にやってきて職を得て、家族を持ち、郊外部を中心に家を構えた世代である。その世代の代表ともいえる団塊の世代も今ではその多くがリタイアして首都圏郊外に住み続けている。

そしてその子供たちのライフスタイルは、親たちとは異なり、郊外から長時間通勤をせずに都心に居住するようになっている。背景には夫婦共働きがあたりまえになり、子供を保育所に預けて夫婦ともに働くためには郊外に住宅を構えることはありえず、職場の近い都心部に居住することが必須になったことだ。

この動きを加速させたのが、1997年男女雇用機会均等法の改正によって女性の深夜労働や休日勤務が可能になったこと、1996年大都市法の改正によって東京都心部の容積率が大幅に緩和されて、工場跡地などに超高層マンションが建設されたことだ。

人々のライフスタイルは変わり、昭和の時代の家族像である、サラリーマンのお父さんに専業主婦、子供二人の四人家族は消え失せ、夫婦共働きで子供はいないか一人、保育所に預けるために都心部に居住するのが平成の家族像になったのである。

子供が郊外の親の家に戻らない限りは、現在の高齢者世帯の多くがやがて高齢者単身世帯となり、死亡により空き家化することは容易に予想できる。つまり大量の空き家予備軍がすでに首都圏郊外に潜在しているのだ。

都市部の空き家、その多くはマンションが占める


「空き家=戸建て」ではない

空き家といえば、戸建て住宅ばかりを想像しがちであるが、実は都市部の空き家問題は、今や国民の居住形態としてはごく一般的となったマンションの空き住戸がその中心を占める。東京都の空き家数は81万7000戸であるが、このうちの約63%、51万8600戸がマンションなどの「非木造」(鉄筋コンクリート造および鉄骨造の合計)住宅の空き住戸であることは意外と知られていない。現状では、このうちの8割以上は賃貸用マンションの空き住戸とみられる。

さらに居住用として取得し、築年数が経過したマンションで、そろそろ相続が発生する時代に突入している。郊外の戸建て住宅のみならず、こうした都市部のマンションにおいても相続人である子供や孫が、親のマンションにそのまま居住することは少ないのが実態だ。相続した子供たちは、親のマンションを賃貸に出すが、築年数が古く、部屋の使い勝手が悪いなどの理由で借り手がつかない、または親の残していった膨大な家財道具などに埋もれて、結局賃貸に出さずに空き住戸として放置している物件が増加し始めている。

管理費の未納、修繕積立金不足が資産価値を下落させる

マンションは一般的には区分所有者が管理組合などを結成して、合議制によって資産の価値を維持している。その管理組合運営を財政的に支えているのが管理費であり、建物の修繕等に備えて積み立てるのが修繕積立金である。

ところが最近、築年数が経過し老朽化したマンションを中心に管理費や修繕積立金の滞納が目立ち始めている。原因は区分所有者の高齢化と死亡後の相続人による放置である。

通常築35年を超えると多くのマンションでは上下水道などの配管やエレベーターなど基幹設備の更新が必要になる。また築50年近くになれば、マンションの建替えもテーマになってくる。

ところが、築年数が増えるにしたがって管理費や修繕積立金を滞納する人の割合が増えていくことが国土交通省の調査からも明らかになっている。管理費の未納や修繕積立金の積み立て不足はマンションの資産価値を維持するための大いなる障害となりつつあるのだ。

分譲マンションは、建物の完成時にすべての住戸が分譲される。したがって購入する人の年齢層や家族構成、経済状況などが似通る傾向にある。ところが築年数が経過していくと、初めは「同じ」であった所有者間に格差が付き始める。うまくいく人もいれば、経済的に落ち込んでしまう、健康などを害してしまう人も出てくるのが人生だ。同じはずであった価値観にも微妙な「ずれ」が生じ始めるのが、建物の老朽化にともなって大規模修繕が必要になってくる築30年超あたりからなのである。

この時期に年金暮らしがままならずに管理費や修繕積立金を滞納する高齢者がいる。相続したにも関わらず、空き住戸のまま放置し、管理費や修繕積立金の支払いを行わない相続人がいる。多くのマンションでこうした問題が顕在化し始めているのである。

これまでは、こうした状況に至れば、マンションは比較的「売りやすい」から売ればよいというように考えられてきた。ところが郊外の老朽化したマンションを中心に売却しようにも買い手がいない物件が続出している。首都圏郊外でも最近は中古の売り出し価格が「くるま1台」分ほどの価格になっている物件も珍しくない。


管理費の未納、修繕積立金不足が資産価値を下落させる

管理費や修繕積立金の未納が多くなると当然、必要な管理や大規模修繕が行われなくなる。管理の内容や建物の老朽化を嫌気した住民が逃げ出す。マンション価格が落ち込むことで住民層も変わり、不逞の輩が棲みつくようになる。空き住戸が増えることでマンション内の治安が悪くなる。必要な修繕が行われない結果、防災上も問題が生じ始める。マンション全体のスラム化である。スラム化したマンションの存在は当然にして地域の環境や治安、防災に大きな影響を及ぼすことになる。

マンションの空き住戸問題は一見すると戸建て住宅のように「目に見える」ことは少ないのだが、マンションという建物内で深く静かに進行し、やがて建物全体で大きな問題が露見してくる、そして本来であれば健全に生活を営んでいたマンション内の住民を追い出し、その所有者にも経済的実損を負わせることにつながる実に厄介な問題を内包しているのだ。

都市部でさえ空き家・空き住戸問題は密かに進行している。こんな時代に我々はどんな観点から不動産投資を行えばよいのだろうか。

今までの「成功の方程式」は通用しない

まずは、どこに「人が集まるか」がこれからの不動産投資では極めて重要なファクターとなる。これまでは郊外へ郊外へと人々が移動していったために、主要な鉄道路線沿いを中心に投資を行っていけば、投資で大きなリスクを被ることは少なかった。

これからは都市中心部または郊外にあっても人々が集積しているターミナル駅周辺などがねらい目となるだろう。

東京でいえば麻布や広尾、松濤などの「ブランド住宅地」を買うか、JRの主要ターミナル駅の駅前マンションがその対象だ。

ブランド住宅地は、いつの時代においてもお金持ちが集まる。おカネを持った人が憧れる「ブランドもの」を買ってさえおけば、お金持ちのマーケットの中で繰り返し売買が行われるので、資産価値が落ちにくいのである。

JRの主要駅周辺には、駅郊外部から利便性の高い駅ターミナル周辺に人口移動が生じている。民間版の「勝手コンパクトシティ化」現象とも呼べる動きだ。人が集まるところの住宅価値は上昇するのだ。

空き家をリーズナブルな価格で買い取って、シェアハウスや民泊、ホステルなどの簡易宿所に利用する動きも広がってくるであろう。

間違っても今までの「成功の方程式」を信奉して郊外部で駅から遠く、築年数の古いマンションなどを「安い」からという理由で買い求めてはならないのである。

空き家問題は日本の住宅問題のみならず社会問題そのものだ。これから確実に到来する都市部の空き家天国化に備えた投資戦略を組み立てる時期に来ている。資産ポートフォリオの見直し、組み換えが急がれる所以だ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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