マンションの火災保険、保険料を抑えて必要な補償を確保する方法は?
横山晴美
2017/08/29
そもそも火災保険とは? マンションにも火災保険は必要?
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そもそも火災保険はどんな仕組みで、どんな補償があるのでしょうか。まずは基本的な部分をおさらいしましょう。
火災保険は大きく「建物」と「家財」の保険に分けられ、限度額も別々に設定します。建物だけの保険に加入することも可能です。しかし、火災で建物が被害を受けた場合には、家財も損壊を被ることでしょう。本当に災害に備えるのであれば、補償を建物・家財の両方につけておくのがいいでしょう。
また、火災保険は地震保険の元になる保険である点も忘れてはなりません。詳細は後述しますが、地震保険は火災保険とセットで加入する必要がある保険で、単独で加入することはできないのです。つまり、火災保険に加入することで地震に対する備えを得ることもできるということです。
火災保険の必要性は年々増加している
近年、自然災害のニュースを目にすることが増えています。そのため、火災よりも自然災害のほうが心配だという人もいるかもしれません。ですが、火災保険は「火災」という名称ではありますが、実は自然災害にも対応している保険なのです。
損害保険料率算出機構によると、2011年度の住宅物件事故件数は「火災、破裂・爆発」が7711件なのに対して、「落雷」は1万6428件と倍以上、「水漏れ」は2万9113件と約2.5倍に上ります。
この統計は、火災保険全体に対するものなので、このうちの何件がマンションで起こった事故なのかは発表されていません。ですが、マンションであっても、一戸建てであっても火災以外に多くの住宅物件事故があることは間違いありません。
事故の多様化と、それに対応するカバー力から考えて、やはり火災保険に加入する必要性は高いと言えそうです。
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火災保険の基本的な補償内容は?
では、火災保険のカバー力はどの程度なのでしょうか。一般的な補償内容と事故の例をご紹介します。
(1)火災・落雷、破裂・爆発
建物:火災による自宅の被害、近隣の住宅へ延焼してしまった場合の損害賠償責任など
家財:近隣住宅の出火による消火活動により、自分の家財が水浸しになってしまった、など
(2)風災・ひょう災・雪災
建物:台風による強風のため、屋根や窓ガラスが破損、豪雪による影響で自宅の屋根が潰れてしまった、など
家財:竜巻や台風による強風で窓ガラスが割れ、吹き込んできた風雨で家財が壊れてしまった、など
(3)水ぬれ、外部からの物体落下など、騒じょう
建物:水道管の破損によって天井や壁紙が汚れてしまった、車の当て逃げによって外壁が壊れてしまった、など
家財:排水管の破損によって、電化製品が壊れてしまった、外からボールが飛んできてテレビが壊れてしまった、など
(4)盗難
建物:空き巣が侵入したさい、ドアのカギや窓を壊れてしまった、など
家財:空き巣により電化製品や現金が盗まれた、など
(5)水災
建物:台風による洪水で床上浸水し、壁や床が汚れてしまった、豪雨による土砂崩れで住宅が押し流されてしまった、など
家財:洪水により家財・電化製品が水浸しになってしまった、など
(6)破損・汚損など
建物:室内で椅子が倒れ、窓ガラスが割れてしまった、など
家財:子供同士が遊んでいる最中、テレビとぶつかってテレビが壊れてしまった、掃除中にうっかりデジカメを落としてしまった、など
このように、火災保険に加入していれば、火災以外にも幅広い補償を受けることができます、ただし、ここであげたのは一般的な事故の例であり、補償内容は商品ごとに違いがあるので注意してください。
もちろん、補償範囲が限定された火災保険を選ぶことも可能です。たとえば、マンションの場合、1階以外では浸水被害の恐れが少ないため、水災補償を除外する人も多くいます。
マンションで起こる損害リスクと必要な補償内容は?
火災保険の補償内容と事故の具体例についてはおわかりいただけたでしょうか。
では、それらのうち、マンションにとって必要度の高いものはどれなのでしょうか。必要度が低いとされる水災以外の補償について検証してみましょう。
(1)火災・落雷、破裂・爆発
マンションでは一戸建てと比較して火災のリスク自体は低いかもしれません。しかし、もし自室から出火した場合は隣接する部屋への被害は免れないでしょう。その意味では一戸建て以上に、いったん火災が起きてしまったときのリスクは高いかもしれません。
(2)風災・ひょう災・雪災
マンションの建物自体は強風や豪雪の被害に強いかもしれません。しかし、これらの強風により窓ガラスが割れ、家財が被害を受ける可能性はあります。
(3)水ぬれ、外部からの物体落下など、騒じょう
排水設備に生じた事故等による水漏れ発生の可能性は、一戸建てと変わらないでしょう。ただし、一戸建てと違い、マンションの場合は下の階の住居・家財に損害を与えてしまうことがありますので、補償があるといいでしょう。
(4)盗難
オートロックや管理人の目など、セキュリティがしっかりしていれば盗難の恐れは少ないかもしれません。ただ、低層階の場合、ベランダからの侵入という可能性もあるので高層階に比べるとリスクは高くなります。状況に応じて必要性を判断してください。
(5)破損・汚損など
こちらは、偶然の事故による破損等の損害を補償するものです。一戸建て・マンションのよるリスクの差はないと考えられますので、個々の考え方に応じて選択することをおすすめします。
その他にもさまざまなオプションがある
火災保険には、このほかにも多くのオプションやサービスがあります。たとえば、以下のようなものです。
(1)個人賠償特約
偶発的な事故により他人を死傷させる、他人の物に損害を与える、といった日常生活における賠償事故に備えるもの
(2)バルコニー等修繕費用特約
バルコニー、玄関ドアなどマンションの共用部分に発生した偶然な事故による損害を一定額まで補償
このほかに、鍵開けや、水詰まりへの対応サービス、医療相談などのサポートをしている商品も多くあります。付加価値も重要な要素ですので、しっかり確認しておきましょう。
専有部分と共有部分の扱いはどう違う?
マンションの場合、火災保険の対象が共用部分と専有部分で分かれます。共有部分とはエスカレーターやエントランスなど、マンション全体で使用する部分です。一方、専有部分とは自分の住む部屋のことです。
マンションの専有部分は、所有者が自ら保険に加入しなければなりませんが、共用部分に関しては、マンション管理組合で火災保険に加入するのが一般的になります。
居住するマンションがどのような火災保険に加入しているのか、補償内容を確認しておくといいでしょう。
保険金額は誰がどうやって決めるのか
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火災保険に加入するなら、「保険金額」について知っておきたいところです。保険金額とは、保険金の支払い限度額のことです。
保険金額は、契約時に保険価格をもとに設定されます。この保険価格とは、保険の対象を金銭的に評価した額のことです。保険会社によって算出方法に違いはありますが、建物が広く新しければ価値は高くなり、築年数が低く、かつ床面積が小さければ価値は少なくなる、と考えるといいでしょう。
また、当然といえば当然ですが、対象となる建物の評価額以上の保険金額が支払われることはありません。
一方、家財保険は建物と違って任意に保険金額を設定できます。仮に、家財がすべて焼失した場合、すべての家財を買いなおすとどのくらいかかるか、ご自分で必要額を試算するのがベストです。
とはいえ、衣類や小さな電化製品などを含めた試算はなかなかむずかしいものです。保険会社のホームページでは、世帯構成ごとに家財金額の目安表が掲載されているところもあるので参考にしてみてはいかがでしょうか。
ここで1点、ご注意いただいたいことがあります。
先ほど、保険金額は保険価格をもとに設定されると申し上げましたが、火災保険の保険価額には「新価」と「時価」があるということを知っておいてください。
保険価額が「時価」であると、建物や家財の消耗分が差し引かれた額が評価額となるため、たとえ家が全焼しても保険金額が小さくなってしまいます。せっかくの保険料を支払っていても、時の経過とともに補償が小さくなってしまっては困ります。
最近の保険は、同程度の物を再び建築・購入するのに必要な金額である「新価」で契約するのが主流ではありますが、契約時には、保険価格が「新価」になっているか必ず確認しておきましょう。
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地震による火災を補償するには?
ここで、地震保険についても触れておきましょう。
ご存知かもしれませんが、火災保険に加入していても、地震が原因で起きた火災や、地震による災害に対しては保険金が支払われません。そのため、火災保険に加えて地震保険に加入しておく必要性は高いと言えるでしょう。
先ほどもふれましたが、地震保険は火災保険に付帯して契約するもので、単独で入ることはできません。補償額は、火災保険の30〜50%の範囲で任意に設定する仕組みになっています。
また、地震保険の保険金額には上限があり、建物は5000万円、家財は1000万円です。たとえば、火災保険が2000万円なら、地震保険は600万~1000万円で設定することになります。被害が大きくても、限度額を超えた補償を受けることはできません。
このように、地震保険の補償額には制限がありますが、保険料に関しては優遇もあります。確定申告や年末調整では「地震保険料控除」が認められているので、支払った保険料の金額に応じて控除が受けられます。忘れずに申告してください。
火災保険の保険料を抑える方法は?
万が一に備えた補償が必要とはいえ、できるだけ保険料の支払いは抑えたいところです。火災保険の保険料を抑えるにはどうしたらいいのでしょうか。
保険料が決まる要素には、大きくふたつがあります。ひとつは「建物や地域要因」で、もうひとつは「補償範囲」です。
「建物や地域要因」というのは、建物の構造、延べ床面積、所在地のことです。たとえば、燃えにくい構造で延べ床面積が小さい家が、自然災害に強い地域にあれば保険料は安くなるでしょう。逆に、火災に弱い構造で、延べ床面積が広い家が、災害の多い地域にあれば保険料は高くなると言えます。
また、補償範囲については、広い範囲をカバーすればするだけ、保険料は高くなります。
マンションの建物構造を個人の力で変えることはできませんが、補償範囲は調整が可能です。マンションの場合、一般的には水災に強い、ということはお伝えしましたが、あとは地域性や個々の考え方しだいで補償範囲を決めることになります。
保険料との見合いで、補償範囲を検討してみてはいかがでしょうか。
もし、補償を削りたくないという場合は複数の保険会社で見積もりを取って保険料の比較検討をするのがいいでしょう。
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支払い方法によっても保険料は安くなる
火災保険は保険料の支払い方法によって、保険料が安くなります。
月払い、年払いなどのほか、10年までの長期一括払いも可能です。長期の一括払いにすれば保険料は割安になりますが、それなりにまとまった金額が必要になってしまいます。
保険料を抑えるという点からは、10年の長期一括払いがおすすめですが、経済的な理由から、まとまった金額を支払うことがむずかしい場合もあるでしょう。そういった場合、まずは年払いを目標にして、少しでも保険料を安くしたいところです。
火災保険は補償範囲が広く、仕組みを理解するのがむずしいものです。一戸建てとマンションでの差異もありますが、大原則として「ほしい補償のある火災保険」を選ぶという考え方をおすすめします。
いくら保険料が安いからといっても、必要な補償を得ることができなければ加入する意味は薄らいでしまいます。
保険料のわりに大きな補償が受けられる火災保険は、補償・サービス内容と保険料の適合性がとれていれば、「割安な保険」だと言えます。
そのため保険料だけを比べて加入するのではなく、内容に応じた「割安さ」を追及することが、いちばんお得な火災保険と考えましょう。
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この記事を書いた人
ライフプラン応援事務所代表
ファイナンシャルプランナー(AFP)、住宅ローンアドバイザー。企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。 「自分の家計は自分で守る」をモットーに、丁寧でわかりやすい面談が好評。 また、給付金や控除など、消費者のための制度を調べるのが得意で、「ここが使いにくい」「誰のための制度なのか」などとケチをつけるのが好き。