住宅ローンで「持ち家貧乏」が増殖中!? ゆとりある持ち家ライフを実現する3つのポイント
横山晴美
2017/08/18
「持ち家貧乏」ってどんな人たちのこと?
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持ち家貧乏という言葉を聞いたことはありませんか?
持ち家貧乏とは何か、その明確な定義はありません。ただ、一般的には、持ち家貧乏とは「住宅ローン返済に苦しんで家計が困窮している人」のことと言っていいでしょう。
持ち家貧乏の怖いところは、その状態に陥ってからでは、問題を解決するのはむずかしいという点です。
また、現在は問題なく住宅ローンを返していても、将来的に家計が破たんするリスクを抱えている「持ち家貧乏予備軍」の人たちもいます。本物の持ち家貧乏に突入する前に、事態を把握して回避しなければなりません。
潜在的な持ち家貧乏の人も含めると、持ち家貧乏の割合は意外と高いかもしれません。
「潜在的持ち家貧乏」とは
現在は滞りなく返済を続けていても、毎月の返済がギリギリで貯蓄ができていない世帯は要注意です。ボーナスや残業が減ったり、子どもが成長して教育費が増えたりすると途端に返済不能に陥ってしまうからです。
まさに「潜在的持ち家貧乏」と言えるでしょう。
そうした状況に危機意識をもって、なんとかしなければと考えている人であれば、持ち家貧乏を回避できる可能性が高いです。しかし、いまは何とかなっているし、これからもなんとかなるだろうと、将来のリスクを見て見ぬふりをしている人は、本物の持ち家貧乏に陥ってしまうでしょう。
住宅ローンで「持ち家貧乏」になる典型的なケースとは?
持ち家貧乏になる可能性が高いのは、きちんとした返済計画を立てずに住宅購入に踏み切ってしまう人です。
もちろん、そういう人たちが必ず持ち家貧乏になるわけではありません。なかには、返済計画を立てずに住宅を購入しても、ローンを完済し、退職後のリフォーム費用まで用意できる人もいます。
しかし、これはあくまで少数派と考えましょう。具体的に、返済計画がない住宅購入とはどのようなものなのでしょうか。
<ケース1>借りられるだけ借りてしまう
住宅ローンを借りるには、金融機関の審査を受けなければなりません。年収や年齢、勤続年数などの条件により、住宅ローンをいくら借りられるのか、その金額は変わります。
ですが、仮に4000万円の融資を受けられるからといって、滞りなく4000万円を完済できるとは限りません。「借りられる額と借りていい額は違う」と言いますが、金融機関が貸してくれる額(借入可能額)と、実際に滞りなく完済できる額(返済可能額)とを混同してしまうと返済が苦しくなる可能性があります。
<ケース2>諸費用を考慮していない
住宅購入時には、物件価格のほかに、住宅ローンの諸経費や家具購入費、そのほか引越し代などの諸費用が発生します。また、購入後には、維持費として固定資産税やメンテナンス費用がかかります。それらの費用を見込んでおかないと、後で思わぬ出費に苦しむことになります。
<ケース3>支出の増減を考えていない
いまや、収入は年齢とともに増えていくものとは限りません。逆に下がることもめずらしくなくなったと言えるでしょう。また、収入が増加していったとしても、それ以上のペースで支出が増えれば、家計収支は悪化してしまいます。
住宅購入を決めた時点では、滞りなく返済できると判断した額であっても、将来、収入の変化によって負担にならないか、慎重な判断が必要です。
持ち家貧乏を誘発する典型的なケースを3つご紹介しましたが、なぜ、きちんとした返済計画を立てずに住宅購入を決めてしまうのでしょうか。
私の知る限りでは、衝動買いのようにして住宅を購入してしまう人には、“住宅ローンをいくらまでなら借りてもいいか”ではなく、“ほしい物件をどうやって購入するか”ということに意識が向いてしまっている人が多いようです。
言い換えれば、予算内で買える物件を探すのではなく、ほしい物件を購入するために、どうやって住宅ローンを借りればいいのかという思考になってしまうのです。
無理のない金額を借りたのに「持ち家貧乏」になるのはなぜ?
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なかには、無理なく返済できるはずの金額を借りたのに、持ち家貧乏になってしまうケースもあります。無理のない金額を借りたつもりなのに、どうして計画が狂ってしまうのでしょう。
「毎月の返済額を現在の家賃程度に抑えれば問題ない」と考える人がいます。一見、この考え方は理にかなっているような気がしますが、実は、持ち家貧乏のリスクをはらんでいます。
というのも、毎月の返済額だけを見て判断してしまうと、
「ボーナス払いを含めた年間返済額で考えると、年間の家賃額より大きな金額になってしまう」
「税金や維持費を含めると居住費が身の丈を超えてしまう」
といったことになる可能性があるからです。
また、毎月返済額に十分な余裕があっても、返済期間が適切でない場合があります。たとえば、35歳のサラリーマンであるAさんが、35年の住宅ローンを組んだ場合を考えてみましょう。
Aさんは、25〜30年後に定年を迎えます。35年ローンということは、退職後も返済が続くことになります。
退職後も一定の収入があるので返済を続けていけるとか、ローン返済と生活費をまかなえるだけの十分な貯蓄があるといった場合はいいのですが、そうでなければローン返済で生活が破綻してしまいます。
退職金で一括返済をすればいいと考えている人もいるかもしれませんが、その場合でも、退職金に頼らないでいいだけの老後資金の準備ができていなければ、やはり生活は破綻してしまうでしょう。
住宅ローンで持ち家貧乏にならないための3つのポイント
せっかく住宅を購入するなら、持ち家貧乏に陥ることなく、余裕のあるマイホーム生活を送りたいところです。そのためには、適正な予算で住宅を購入するのがいちばん大切です。金融機関が貸してくれるなら大丈夫だろうなどと考えて、背伸びをしてしまうと、ほぼ間違いなく持ち家貧乏になってしまうでしょう。
そこで、持ち家貧乏を回避するための3つのポイントをご紹介します。
<ポイント1>購入時・購入後の諸費用を把握する
住宅購入時にかかる諸費用は、新築物件ならば物件価格の5%程度といわれます。4000万円の物件ならば、200万円程度が必要ということです。
この額を当初から計算しておかないと、頭金として用意していたお金を諸経費の支払いに回さなければいけないといった事態に陥ってしまいます。そうなれば、当初予定していた金額よりも、住宅ローンの借入れ金額が膨らんでしまうといった誤算が生じます。
では、諸費用にはどのようなものがあるのか見ておきましょう。
(1)住宅取得にかかる諸費用
売買契約書の印紙代、土地・建物の登録免許税や司法書士への謝礼、仲介手数料や消費税など
(2)住宅ローンにかかる諸経費
金銭消費貸借契約書の印紙代、事務手数料・保証料、抵当権設定にかかる登録免許税や司法書士への謝礼など
(3)その他、新居にかかる諸経費
引越し代、家具購入費、不動産取得税など
(4)購入後に継続して発生する諸経費
固定資産税・都市計画税、火災・地震保険料、修繕費など
こうしてみると税金が多いことがおわかりいただけるでしょう。
印紙税は「契約書の金額」に応じてかかります。登録免許税や不動産取得税、固定資産税など不動産にかかる税金は「固定資産税評価額」が基準になります。つまり、基本的には物件価格が高いほど、諸費用も購入後の維持費も割高になってしまうということです。
持ち家貧乏になる人の多くは、購入時に少しだけ背伸びをした、という感覚のようですが、物件価格が高くなれば諸経費の負担も重くなるということを忘れないようにしましょう。
<ポイント2>ライフプランの変化を確認する
小さい子どもがいる場合は、子どもの成長とともに教育費の負担が大きくなります。教育費がかさむ時期に、住宅ローンを支払っていくことはできるでしょうか。
もし、住宅ローンと教育費の支払いで家計が赤字になってしまうことが予想される場合には、教育費の貯蓄をしておかなければなりません。赤字にはならないという場合でも、子どもが習い事を始めたり、塾に通い始めたりといった想定外の出費が生じることもあります。教育費は多めに見積もっておきましょう。
子どもがいないからといって、安泰ではありません。日本では多くの会社が50代半ばくらいから年収が減る傾向にあります。また、近年では介護離職も問題になっています。介護保険では介護のための有給取得や雇用形態の柔軟化を掲げてはいますが、働きながらの介護は負担が大きいのが現実です。
将来の家計収支の変化を予測しておくことはもちろん、収入の変化や思わぬ出費があることを想定して、余裕をもった資金計画を立てることが大切です。
<ポイント3>完済までのシミュレーションを行なう
上のふたつのポイントを踏まえて、住宅ローン返済のシミュレーションを作成しましょう。支出の増加や収入の変動についても、できるかぎり反映させることが大切です。
数字に強い人であれば、エクセルなどの表計算ソフトを使って自分でシミュレーションを行なってもいいでしょう。自分ではできそうにないという人は、不動産会社に依頼すればシミュレーションを作成してくれるので、そういったサービスを利用してもいいでしょう。ただし、不動産会社に依頼する場合は諸経費とライフプランの変化を組み込んでもらってください。
また、第三者に家計を見てもらいたいという希望があるなら、費用はかかる場合が多いですが、特定の金融機関に属さない独立系のファイナンシャル・プランナーに相談するのもひとつの方法です。
シミュレーションは、できるだけ厳しい条件で行なうことをおすすめします。その結果、“希望通りの家が購入できない”という結論に至る可能性もあります。
ですが、それを恐れてはいけません。条件をゆるくして、甘いシミュレーションをしたとしても、それには何の意味もありません。
最初は「購入は無理」という結果が出たとしても、たとえば車を持つのをやめる、毎月の貯蓄額を増やす、節約を意識するといった対策を講じることで、購入が可能になるかもしれません。まずは、現状を正しく把握することが大切なのです。
まとめ
住宅を購入する場合は誰でも、持ち家貧乏になる可能性があります。しかし、持ち家貧乏を過度に恐れることはありません。注意すべきポイントを知って、適切な返済計画のもとで住宅購入をすれば、持ち家貧乏を回避することができるからです。
住宅購入の際は、家計の現状を正しく見つめて、慎重に返済プランを検討していきましょう。
この記事を書いた人
ライフプラン応援事務所代表
ファイナンシャルプランナー(AFP)、住宅ローンアドバイザー。企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。 「自分の家計は自分で守る」をモットーに、丁寧でわかりやすい面談が好評。 また、給付金や控除など、消費者のための制度を調べるのが得意で、「ここが使いにくい」「誰のための制度なのか」などとケチをつけるのが好き。