ホームインスペクション、気になる「診断士の力量」と「第三者性」はどこまで信頼できるのか?
大友健右
2016/09/26
中古物件の購入を考えている人からの相談
今回は読者の方から寄せられた、ある相談について回答したいと思います。まずは、相談の内容をご覧ください。
中古の戸建て住宅を購入しようと、いろいろな物件を内見しています。物件によって、ホームインスペクション(住宅診断)がついたものと、そうでない物件があります。購入するにはどちらのほうがいいのでしょうか? そもそもインスペクションは、信頼できるんでしょうか? (T・Nさん/36歳/会社員/東京都)
世の中に「完璧な中古住宅」は存在しない
住宅というものは、「たとえ新築であってもどこかに不具合があるのが当たり前」とまで言ってしまっては言い過ぎかもしれませんが、まったく不具合のない完璧なものはないと考えたほうがよいものです。
ましてや建物というものは、時間とともに劣化していくものですから、傷みや欠陥のない中古住宅は存在しないといえるでしょう。したがって、中古住宅を購入する際は、その建物の状態をできる限りチェックすることが重要です。
しかし、住宅というものは、目に見えない箇所に不具合の原因があることが多く、しかも、解体して内部をチェックすることもできないものです。そこで最近、注目されているのがホームインスペクションです。
ホームインスペクションとは?
ホームインスペクションは、中古住宅の信頼性を高めるために国土交通省がガイドラインを策定し、2013年以降に実施されています。
日本ホームインスペクターズ協会のホームページによれば、「住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場から、また専門家の見地から、住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、アドバイスを行う専門業務」と定義されています。診断の方法は、「目視で、屋根、外壁、室内、小屋裏、床下などの劣化状態を診断するのが基本」とのこと。
料金は「5~6万円前後が一般的」で、問題となる現象が見つかった場合には機材を使用する詳細診断をすることになりますが、その際の料金は「10万円以上」になることもあるとか。
ホームンスペクションで気になるふたつのポイント
では、ホームインスペクションは、どこまで信用できるのでしょうか。ここで気になることがふたつあります。
ひとつは、不具合や瑕疵の有無、そしてその原因をどこまで正しく見きわめることができるのかという、診断士の力量の問題です。たとえば壁に亀裂があった場合、亀裂の存在自体はプロでなくとも目視で確認できますが、その深刻度合いや原因を正確に把握することが求められます。しかし、それはプロであっても簡単にできることではありません。
それからもうひとつの気になる点は、診断を行なうホームインスペクターが本当に「第三者的な立場」にいる専門家なのかということです。
同協会のホームページの「受験者の傾向」を見てみると、従来から建物の専門家の立場に立っている調査・検査機関の人だけでなく、リフォーム業や建築業に携わっている人、さらには不動産会社に勤める営業職の人たちも多く受験しているようです。また、建物の検査を行なう検査会社の多くには、建築業界の資本が入っています。
つまり、住宅の性能に責任を負う建築会社、住宅の販売を行なう不動産会社に利害関係のある人たちが、ホームインスペクターになるわけです。そう考えると、診断の「第三者性」がどこまで担保できるのか、消費者としては当然、気になるところでしょう。
検査結果はどこまで信用できるのか
もし、住宅を販売する不動産会社と何らかの利害関係がある人や会社が検査を行なったとしたら、不動産会社にとって都合のいい検査結果を導き出すかもしれません。もし、建物に瑕疵が見つかったら都合の悪い建築会社に利害関係のある人や会社が検査を行なったとしたら、検査内容は建築会社に対して甘いものになってしまうかもしれません。
もちろん、そんなことが実際に横行しているとは思いたくありませんし、消費者の利益を守るためにホームインスペクションの活用を真剣に考えている志ある会社もたくさんあります。しかし同時に、診断者のさじ加減でバイアスがかかった診断が行なわれる可能性はゼロではないのです。
そこで今回の結論ですが、ホームインスペクションの診断結果に問題がなかったからといって、それだけで優良物件だと判断してしまうことは危険だということです。「診断ずみの物件なら安心」と診断結果だけを鵜呑みにせず、「参考材料」のひとつと考えること。そして、やはりその物件を仲介してくれる営業マンや不動産会社が、どこまで信頼できるのかを自分の目で見きわめることが大切です。
買い主は「瑕疵担保責任」に守られている
なんだかホームインスペクションの信憑性にケチをつけるような結論になってしまったので、補足説明をしておきます。
中古物件の売買契約書のほとんどには、「瑕疵担保責任」について取り決めがされています。物件の引き渡し後に雨漏りやシロアリの害や建物の構造上の欠陥などが見つかった場合、一定期間内であればその改修や改築の費用を売り主が負担することになっています。
また、中古物件の売買市場についていえば、実際に成約している件数の何倍、何十倍もの物件が売りに出ているのが現場です。つまり、売れずに残っている優良な物件は決して少なくないということ。T・Nさんが知恵を働かせて、希望に合った住まいを見つけることを祈っています。
この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。