住宅に欠陥があっても日本の建築裁判は消費者を守ってくれない
岩山健一
2016/09/23
裁判官の評価は「こなした裁判の数」で決まる
ある裁判官が異動により東京地裁を去っていきました。3年に一度移動となるのは彼らの定め。悪く考えれば3年間適当に相槌をしながら、時間を稼げば新天地で気分転換し、また違う事件を扱えるのです。
彼らの評価は、在任中にどれだけの仕事をこなすかで決まります。仕事をこなすということは、判決や和解をも含め、「どれだけの裁判を終結させるか」ということを指すのです。
もちろん、裁判を早く終結させるということは、原告側も被告側も等しく望んでいることです。しかし、この裁判官は私が関わった欠陥住宅をめぐる裁判の関係者、特に被害を訴える原告側の主張を掻き回すだけ搔き回し、何も解決せずに去ってしまったのです。
弁護士たちは百歩譲って、「彼は慎重な性格なのだから…」などと言うのですが、私の目から見れば、弁護士たちとは違って、無能極まりない裁判管としか映りません。
なぜなら、この裁判官の訴訟指揮(*1)に、大きな問題があると私は感じたから。それは、この裁判官が「立証」というものを大きく誤解しているように思えたことです。
(*1)訴訟指揮:訴訟の適正かつ迅速な処理と真理の完全を期するために訴訟手続きを主宰する裁判所の行為
まるで「すべてを解体して見せろ」と言わんばかりの裁判官
欠陥住宅の立証をする際、住宅を丸ごと解体して、すべての施工瑕疵を現認することなど到底できません。そのため、欠陥住宅の立証に必要なのは、サンプリングから不良率を出し、推認を含めて合理的なストーリーを展開し、説明することだと私は考えています。
しかし、この無能な裁判官は原告側に対し、ただ徒にサンプル数を増やすことだけを要求してきたのです。まるで「すべてを解体して見せろ」と言わんばかりにです。
これでは立証側はたまりません。さらに、この無能な裁判官は、悪徳業者の代理人である弁護士や、これまた無能な建築士とは名ばかりの専門委員(*2)を味方にして、立証の不足を指摘してくるのです。そして、うんざりした原告が、「不足しているのはお前の能力だ!」と言いたくなったときには、もう異動しているというわけです。
このような無能な裁判官を放置しておいていいのでしょうか? また、無能な建築士に専門委員を務めさせることを放置しておいていいのでしょうか?
もっとも彼らの無能さに気づく人は、そうそういないのかもしれません。
(*2)専門委員:裁判官が事件の内容の理解を深め、訴訟の進行をスムーズにするために、特定の分野の知識を持つ専門家にわかりにくい点を説明してもらうために設定されたもの。専門員制度。
なぜ建築裁判は機能しないのか
無能な裁判官に無能な建築士が助言する--、そんな構図がなぜ生まれてしまうのでしょうか。
無能な建築士は間違ったことを言って業界から反発を受けたくないと考えます。それは裁判官も同じで、企業や経済界からの反発はありがたくないわけです。まして自分の出世に影響するとなればなおさらでしょう。
そうであれば、リスクを冒して企業(被告)の瑕疵を糾すよりも、消費者(原告)を黙らせることを考えたほうが得策です。原告に対して、本来は必要の無い「さらなる立証」を要求し、業界(被告)に有利な判断を示せば、少なくとも業界からは反発が出ることはありません。これが現代における建築裁判の実態なのです。
そういえば昨年、私が支援していた原告と、ある大手鉄骨系ハウスメーカーとの和解が成立したとき、この裁判官はいつものしかめ面を、満面の笑みに変えて喜びを表明していました。
しかし、この裁判で和解が成立したのは、たまたま相手の弁護士がモラルの高い人物であったというだけのこと。だから被害者に対するきちんとした賠償補填が認められたのであって、無能な裁判官は何もしていないのです。私は心底、「お前の手柄じゃないよ、こちらの立証だよ」と言いたくなりました。
裁判制度は国民の権利を守るはずのものなのに
裁判官たちはいったい何を恐れているのでしょうか? 何を守ろうとしているのでしょうか?
裁判は正義を守り、弱者を救済するためのものであるはずです。それなのに裁判官たちは、原告が受けた損害を賠償できるかどうかということより、悪徳業者たちの顔色を伺っているように見えます。ただ、業界が必要以上に焼け太ることのないように、つまり不当利得などの得を与え過ぎてしまわないようにということだけを慎重に、最優先に考えているかのようです。実にばかばかしいことです。
欠陥が存在することをいくら立証しても、裁判官が無能ならすべてが無駄になってしまうのでしょうか。裁判制度は、国民の権利を守るものでなければならないと思うのですが、果たして建築裁判が公正に判断を下すようになる日は来るのでしょうか。
この記事を書いた人
株式会社日本建築検査研究所 代表取締役
一級建築士 建築ジャーナリスト 大学で建築を学び、NHKの美術職を経て建築業界へ。建築業界のしがらみや慣習に疑問を感じ、建築検査によって欠陥住宅を洗い出すことに取り組む。1999年に創業し、事業をスタート。00年に法人化、株式会社日本建築検査研究所を設立。 消費者側の代弁者として現在まで2000件を超える紛争解決に携わっている。テレビ各社報道番組や特別番組、ラジオ等にも出演。新聞、雑誌での執筆活動も行なう。 著書にロングセラー『欠陥住宅をつかまない155の知恵』『欠陥住宅に負けない本』『偽装建築国家』などがある。