「いまが売り時です」「高すぎます」は信用できるのか
高橋正典
2016/01/04
営業担当者がよく言う「3つの口ぐせ」
あなたの持ち家が、「築20年以上の木造建築」だと仮定しましょう。その持ち家を売却しようと、大手不動産仲介会社に査定を依頼するとこのような言葉が返ってきました。
「これは土地値になりますね」
土地値というのは、建物の価格は0円で土地代金分の値段しかつけられないという意味です。担当者は「日本の木造建築は築20年で価値が0になるのは当たり前、マンションでも築25年を超えると大幅な安値でないと売れない」と話します。
この「築20年で価値0」というのは、まったくのウソではありませんがすべての物件がそうともいえません。丁寧に使っていたり、リフォームをしたりした家は、築20年以上でも価値のある家はたくさんあります。ですので、「築20年で価値0」は受け流すことをおすすめします。これがひとつめの口ぐせです。
ふたつ目の口ぐせは「いまが売り時です」。これは、物件を確保するための常套句のようなもので、営業担当者にとって売り主にとっての本当の売り時かどうかは重要ではなく、自分の数字を上げるための物件はいつでもほしいというのが本音なのです。
また、3つ目の口ぐせは「高すぎて売れません」です。これは、売り主に値下げの決断を下げるときに使う言葉で、値下げをすることでさっさと売ってしまいたいだけという場合が多いのです。この言葉が真実かどうかは、売り主が納得できる説明ができるかどうかです。
不動産の売買は専門的な事項が多いことから、不動産仲介会社の力によるところが大きくなります。そのため、「いまは売り時」「高すぎて売れない」などという言葉を口ぐせのように使っている会社にあたってしまうと、納得できる売却が不可能になってしまうのです。
チラシの誘惑…「あなたの家をほしがっている人がいます」
自宅の売却を考えている人はもちろん、そうじゃない人も気になるチラシがよくポストに入っています。「あなたの家をほしがっている人がいます」という不動産仲介会社のチラシを見かけた人は多いと思います。
マンション名や期間が具体的になっていることから、「へえ、買いたいと思っている人は多いのかもな」と思うかもしれません。そして、チラシの差出人は誰もが知っている大手不動産仲介会社…、これは査定にでも出してみるか、と問い合わせてしまったら、その会社の策略にまんまと引っかかったことになります。営業担当者は、こう語ります。
「いや、実際買いたいといっていたお客様がいたんですが、つい先日ほかの物件を契約してしまいまして…。でも何かのご縁ですから、査定してみませんか?」
このように、具体的な買い主の候補がいないまま査定→売却仲介の委任という流れに乗ってしまうと、売れる当てもないまま市場に出されてしまいます。これで本当に納得できる価格で売却できればいいのですが、そうはうまくいきません。
不動産仲介会社が狙うのは、あくまで両手取引(売り主・買い主ともに自社で契約し、仲介手数料を両社から得る方法)です。そのためには、「売り物」になる物件は1件でも多く確保しておきたいというのが本音です。多少ズルい手を使ってでも売り物件を確保することが、不動産仲介会社にとっては最も重要なこと。そして委任契約を結んだあとは、いろいろな手口を駆使して両手取引に持っていければいいのです。
冷静に考えてみましょう、自分が不動産を買うときにはある程度のエリアの目星をつけたとしても、他人が住んでいるマンションを狙い撃ちで買ったわけではないことを。条件が限定された不自然なチラシをつくるような不動産仲介会社は、相手にしないほうが身のためです。それが大手だったとしても、です。
この記事を書いた人
株式会社バイヤーズスタイル代表取締役
株式会社セラーズエージェント取締役。 一般社団法人 相続支援士協会 理事。 1970年、東京都中野区生まれ。売りっぱなしの単なる「物件紹介屋」と言われる日本の不動産業界の慣習を変え、生涯にわたり、より顧客に寄り添う「エージェント(代理人)ビジネス」にシフトさせるべく、株式会社バイヤーズスタイルを設立。業界で初めてすべての取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値向上を担う。一般的に売りづらいとされる、築年数の古い中古住宅の売買に精通しており、顧客から厚い信頼を得ている。 さらに、ひとつひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し、流通させるため「売却の窓口(R)」を運営し、その加盟店は全国に広がる。 不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。 宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、国土交通大臣登録証明事業不動産コンサルティング技能登録者。 著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版) 、『プロだけが知っている!中古住宅の魅せ方・売り方』(朝日新聞出版) 、『マイホームは、中古の戸建てを買いなさい!』(ダイヤモンド社) 、『不動産広告を読め』(東洋経済新報社)など。