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再建築不可物件――相続物件にありがちな安易な古家解体をしないために

田中 裕治田中 裕治

2021/11/08

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イメージ/©︎agm0608・123RF

不動産会社に言われるまま古家を解体

不動産を相続することは特別なことではありません。地方の不動産の場合、そこに住む、あるいは使う予定がなくても、ひとまず相続したという方も多くいらっしゃいます。

そんな不動産を売却しようとしたら、まったく売れないということは、今やよくあることです。こうした“負動産”をいかに“富動産”に変えたい、そんな思いからほかで断られた物件を引き受けています。

今回ご紹介するのは、当社のホームページを見て、ご依頼を受けたものです。

ご相談内容は愛知県知多市の物件で、10年ほど前に相続した土地を手放したいというものでした。

はじまりは売主さんが地元の不動産会社に売却相談したところ「古家があったら売れない」と言われ、かなりのお金をかけて古家を解体したことでした。

そして、古家を解体したあと、建物が建てられない土地だということが判明、さらに建物がなくなったことで固定資産税が年間12万円となってしまったということでした。当社に相談に来られる前に複数の不動産会社に売却を依頼したものの、建築不可物件ということでどこからも売れないと断られてしまったとのこと。そこでなんとかならないか、と当社にご相談に来られました。

時とともに土地の「条件」は変わる


・駅から徒歩10分
・土地面積388㎡(路地状部分含む)
・路地状敷地で軽自動車しか乗入れができない
・古家を解体し、接道要件を満たさず、建物の新築はできない
・固定資産税は年間12万円

一通りお話をうかがい、後日、現地確認に向かいました。まず、知多市の市役所などで調査してみると、当該物件は旗竿地(路地状敷地)でした。

知多市ではこうした土地は現行法(条例)によって路地部分の奥行きが15メートル超の場合、幅は全ての場所で2.5mなければ建物の新築ができません。

しかし、この土地に家が新築された当時は都市計画区域外だったため、接道要件がなく法律にふれることなく新築できたことが分かりました。

そこで建築基準法第43条の許可を取得して建築できないかといったことも検討したものの、それでも建物の建築はできないという土地ということでした。


通りから土地につながる路地
 
役所での一通りの調査を終えて、実際の物件を見に行きます。

その道々で「お隣さんが購入されれば、地続きの土地として活用ができる。きっと誰か引受けていただけるのではないか」と考えていました。しかし、実際にご近所を回ってみるとそんな甘い考えは吹き飛ばされました。

隣接地の方をご挨拶で訪問した際に、そんな話を振ってみると「タダでもいらない」とキッパリ。逆に「いつも草が伸びてきて虫が酷いからしっかり草刈りしてください」とお叱りを受ける始末でした。

建物がなくても土地は売れる、でも……

そんなことであきらめるわけにはいかず建物が建てられなくても売れると、このご依頼を正式に受けました。

この際、現地調査の結果を売主さんにお伝えすると同時に、「建物が建てられない土地で固定資産税が年間12万円は高すぎるので市役所と協議をしてください」とお願いしました。

販売活動としては資材置場や車両置場の住宅地以外の土地として、各種サイトに情報を公開しました。

立地、広さ、価格からも魅力のある物件なので、多数の問い合わせが来ました。しかし、建築不可物件ということを伝えると、そこでお話は終了。それでもあきらめずに物件の紹介を続けていると、愛知県内の法人から資材置き場として検討したいというお問い合わせがありました。

一方、固定資産税については、売主さんが市役所の固定資産税課と交渉を続け、年間12万の固定資産税を8万円ほどまで引き下げることができました。このことは買主さんにとってもランニングコストを抑えることになるので喜ばれ、この取り引きはうまく行うことができました。ご依頼を受けてから4カ月かかりましたが、売主さん、買主さん双方にとってよい取り引きになったと思います。

とはいえ、売却額は約100万円以下で、売主さんが支払った解体費用の半分にも満たない金額になってしまいましたが……。

相続不動産は土地の“素性”をしっかり調べる

この例でのポイントは「土地の“素性”を知っておく」ということです。

ご存じのように土地には「地目」や「接道」といったさまざまな区分や条件があり、それによって制限を受けます。そのためどんな土地なのかしっかりと把握することがとても重要です。とくに相続で被相続人が亡くなってしまっている場合では、その土地(不動産)がどのような経緯のものか分からないものあります。

今回のケースでは元々、建物が建築できる土地だったものが、時を経て建築不可の土地になっていました。

そして、地元の不動産会社にいわれるまま建物を解体したあと、接道要件を満たしていないことが分かり建物を建築できない土地だけが残されました。これは明らかに地元不動産会社の提案ミスです。

やはり、建物を解体する前に、しっかりと建替えできるかの確認をしておくべきだったでしょう。これをしなかったために建物がなくなり、固定資産税まで上がってしまう――こうした例は少なくありません。

仮に建物を壊さず、古家があれば、今回の例のように売却代金が解体費用より少ない、土地を売って赤字になるということはなかったと思います。

古家とはいえ、駅から10分、敷地も広い、立地条件としてはよい物件でした。古家であってもリフォームや自らDIYして使いたいという方や、倉庫として利用したという方もいたことでしょう。

こうしたことにならないようにするには不動産会社に任せっきりにするのではなく、自ら建物を取り壊しても、建物が新築できるか市役所などの建築指導課に行って、相談し、裏付けをとることが大切です。

手間ですが、このひと手間が後になって「しまった!」ということを防ぐことにもなります。

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この記事を書いた人

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。

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