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快適な住環境を実現するために(4/6)

自然エネルギーを活かした快適な家づくりの考え方

山田章人山田章人

2016/01/29

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電気やガスの使用量をできるだけ減らす仕組み

「パッシブデザイン」という言葉をご存知でしょうか? 辞書によると「建築の設計手法の一。特別な機械装置を使わずに,建物の構造や材料などの工夫によって熱や空気の流れを制御し,快適な室内環境をつくりだす手法」(大辞林 第三版)とあります。

 実のところ、まだ定義が明確ではありませんが、基準として明確になっているものもあり、そのなかでもヨーロッパで使われ日本にも導入されているものがあります。

 ひとつは、「パッシブハウス」といわれるもので、断熱性能を最大限にし、二次エネルギー(電気、都市ガス)の消費量を最小限にする考え方で、ドイツ発祥のものです。

 もうひとつは「エネルギーパス」といわれるもので、断熱性能は「パッシブハウス」よりも劣りますが、太陽光やバイオマス等身近な一次エネルギー(自然エネルギー)を活用し、トータルで二次エネルギーの消費量を最小限にする考え方です。

 どちらもエネルギーの使用量が計算されて表示されます。つまり、車の燃費表示と同じで、「住まいの燃費」を表示できるということになります。ドイツではすでに住居の選択に、この住まいの燃費が判断基準にされています。つまり、日本で車を買う時と同じように、住まいの燃費も住宅の性能の目安になっているのです。

 これらの基準は日本と比べると、気候の違いがあるため比較しにくいのですが、数字上では断熱性能としては3〜5倍は高い水準です。

 このほか、屋根裏の温まった空気を1階の床下に引き込み、基礎であるコンクリートを温めて活用をする方法もあります。また、温度が地表より一定している地下の熱を活用する方法もあります。

 このように、電気やガスの使用量をできるだけ減らす仕組みを総称としてパッシブデザインと呼ばれているのです。

パッシブデザインの具体例

 ここでは「パッシブハウス」を例としてあげます。まず建物内部と外部と間の熱の移動をコントロールします。外壁部分は熱の移動をできるだけ減らし、ガラスを使う窓は太陽エネルギーを上手に取り入れるようにします。それによって冷暖房にかかるエネルギーを限界まで減らすのです。

 夏は、最小限の冷房機で室内を冷やす。冬は、太陽からの熱を利用し温めた空気を朝まで保てるようにすることで冷暖房費を減らします。断熱をよくした上で、同時に気密性能を高めます。せっかく温めたり、冷やしたりした空気を隙間から逃さないためであり、室内の湿気が漏れて壁の中で結露しないようにするためです。

 この気密性能を隙間相当値としてC値といいます。数字が小さいほど機密性が高いのですが、日本の基準として、本州の関東以西の平野部でいうと5.0以下、北海道の一番厳しいところで2.0とされていますが「パッシブハウス」ではこの基準は0.6以下とされています。

 また外部と接する窓も、アルミサッシは熱を伝えやすいので、ドイツの住宅ではいまでは新たに使われることはありません。いまは樹脂が主流です。気密性が高くなるのと、結露をしにくくなります。ガラスも性能がよくなっているので、最近の発想は、南面は大きめの窓を取り太陽のエネルギーを直接室内に取り込み、北面の窓はできるだけ小さくし熱を逃げにくくします。夏は庇(ひさし)やシェードで太陽光を遮断します。

 高気密・高断熱の住まいは、一昔前は閉めきっていて圧迫感があると思われていました。今では、窓の性能がよくなったおかげでそのような圧迫感はありません。風通しのよい設計にしておき、気候のいいときは開け放てばよいのです。

さらに太陽熱を活用するには

 太陽熱を利用するには、最近よく使われる太陽光発電のほかに、「太陽熱利用システム」があります。

 屋根の上に設置した集熱器で太陽熱を集め、その熱を活用し給湯・暖房を行なうのが、太陽熱利用システムです。屋根にきらきら光る板状の機械が設置されている家がありますが、それがこのシステムの集熱器にあたる部分です。

 太陽エネルギーは自然のものなので、クリーンで環境にやさしい方法として注目を集めています。水を太陽熱で温めることから、太陽光発電と比較しても効率がよいというメリットもあります。

2種類の太陽熱利用システム

 太陽熱利用システムには、ソーラーシステムと太陽熱温水器の2種類があります。

 ソーラーシステムでは、太陽熱を集めるために水・不凍液など液状のものを使うのが一般的ですが、空気で集熱するシステムもあります。その集熱したものを強制的に循環ポンプで送り出し、貯湯槽のなかにある熱交換器を温めることで貯湯槽の水をお湯にします。このお湯は、キッチンではもちろん温風・床暖房としても活用されます。

 以前は貯湯槽一体型の機器を屋根に設置していましたが、重すぎるために屋根を痛めたり、寒冷地では凍結による損傷したりする事故が発生することがありました。最近では、集熱器のみを屋根の上に設置し、貯湯槽は地上に設置することでトラブルを回避できるようになっています。

 太陽熱温水器は、水温の上昇を利用して自然循環を促す簡易的なシステムです。ソーラーシステムと違い自然循環なので、温暖効果としては若干劣ります。

 いずれにしても、この太陽熱利用システムの導入について補助金を設定している自治体もあるのでチェックしてみましょう。

昔の大工さんの知恵はいまでも参考になる

 パッシブデザインの考え方は、特にそういう言葉を使わなくても家づくりに取り入れることは以前から行なわれていました。

 直射光が入らない場所でも、窓があれば反射などを工夫することで部屋を明るくできます。直射光は眩しすぎることもあるので、カーテンやブラインドなどで光量を調節します。太陽高度が高くなる夏は、庇(ひさし)をうまく活用することで室内へ入る光を少なくし、逆に冬は部屋の奥まで光が届くようにすると、冷暖房の節約になります。

 次に自然風は、夏の夜間や春・秋などにうまく外気を取り入れることで冷房の節約につながります。そのためには、卓越風と呼ばれるその地域における最も頻度が高い風向きの風を利用した設計を行ないます。

 特に夏、風が吹いていないときでも外気の温度が下がり室内との温度差が生じたときには、高い位置にある窓から暖かい空気がはい述されることで風通しが良くなります。

 また、敷地内の樹木は特に夏場に大きな効果を発揮します。樹木の影により建物や庭の温度の上昇を防げますし、葉の蒸散作用により周囲の空気を冷やす効果もあります。

 エアコンもない時代、昔の大工さんの日本の気候を上手に活かす建物のつくり方は、いまでも大変参考になるものです。現代の技術と、昔の大工さんの知恵を上手に使うことで、省エネ、エコな住まいをつくることができます。

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この記事を書いた人

一級建築士

5人建築家コンペでの家づくり 家escort京都 代表。 省エネ住宅診断士。 一級建築士事務所にて、神社仏閣から商業建築、住宅まで幅広く設計監理業務に従事した後、独立。2005年より、それまでの経験から、いい建物づくりには住まい手と設計者、施工者の相性のよい結びつきが不可欠と考え、住生活エージェントに専念。 住まい手が、自ら相性の良い建築家と施工者を選び出すのは至難の業であるという考えのもと、住まい手目線を基準に最適な建築家と施工者を結びつける代理人を目指す。自らの立場を、販売代理店ではなく、購入代理店と位置づけている。住まい手にとって最適な住宅とは何かを考え、老後までを考えた資金計画、不動産業者とは違う目線での土地探し、まだ施主様すら気づいていない好みや個性を引き出し最適な空間を生み出す工夫など、家づくりの準備を充実させることによって、結果、生涯心地のよい住まいを手に入れていただくことをミッションとして活動している。

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