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BOOK Review――この1冊 『誰もボクを見ていない』なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか

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文/向園 智子【『誰もボクを見ていない』なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか 山寺 香/著 ポプラ社刊 定価1500円+税)】

2014年に埼玉県川口市で起きた、少年が祖父母を殺害した事件は記憶にあるだろうか。

この事件は『誰もボクを見ていない』として17年に書籍化、今年7月に長澤まさみ主演の『MOTHER  マザー』として映画化された。本稿では、書籍『誰もボクを見ていない』についてのレビューを。

男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーと、その母から歪んだ愛情を受け育った少年とのあいだにいったい何が起こったのか。少年が起こした凄惨な殺人事件を通じ、親子の絆とは何なのかを問いかける……衝撃的な一冊である。

本書では、少年の生い立ちから幼少期まで遡り、特に過酷な生活を強いられてきた小学5年生以降を中心に、現在も服役中の少年や、少年に関わった人々の証言をまとめている。なぜ、少年が社会から見過ごされ、事件を起こすまで救済されることがなかったのか。現在の世の中の仕組みや問題点もまとめられており、子どもがいる、いないに関係なく、この世界に生きる同じ人間として、考えていかなければいけないことではないかと思う。

近年の少年犯罪の背景には、虐待や貧困があるケースが増えているという。さまざまな事情で陥ってしまった貧困から、親の子供に対するネグレクト(育児放棄、育児怠慢、監護放棄)が原因で、子どもは行き場がなくなり、非行に走り、必死に自分の居場所を探す。しかし、その行動が取れない年齢、幼児期では、親だけが生きるうえでの全てとなる。読み進めていくと、まさに、この事件を起こした少年も幼児期の親の影響がとても大きい。母親の歪んだ愛情が、犯罪を犯す少年を作り上げてしまったように思えた。

また、少年もそうだったが“居所不明児童”という社会との接点を失った子どもたちがいることにも驚く。このような子どもたちは、事件化しなければ社会から認知されることはほとんどないという。少年は、本来は事件前に保護すべき“被害者”であった。居所不明児童となった後も多くの大人との接点を持っていたにも関わらず見過ごされ、追い詰められ、事件を起こし“加害者”となってしまった。これを、全て少年の責任と言えるのだろうか。社会は何もできないのだろうか……。

少年は本書の取材を受けた理由として、「世の中にいる子どもたちへの関心を一人でも多くの方に持ってもらうため」と言っている。頼れる人がいないなか、過酷な生活を強いられていた少年に、この気持ち、考えを芽生えさせたのは、なぜなのかを心底考えさせられる。

著者は、この事件は“特殊な少年が起こした特殊な事件”で済ませてはならない、と言っている。まさにその通りである。

もちろん事件を正当化することなどできない。しかし、物事に因果が存在するのであれば、その予兆をいち早く摘むことも社会の役目であろう。

書籍と映画、この2つを体験することで、より理解が深まる。

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ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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