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東京都知事選挙、もしも決選投票があったとしたら?

朝倉 継道朝倉 継道

2024/07/13

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東京都知事選挙が終了

東京都知事選挙が終わった。「カオス」と言われた盛り上がりのなかから、われわれが学べたこと、考えさせられたことがいくつかあったように思う。

「供託金のこと」「もしも決選投票があったら」「東京首長論」―――3つをまとめてみた。

立候補の権利と資格―――供託金か推薦人か

今回の都知事選挙(投票日2024年7月7日)には、大量56人が立候補した。そのうち、誰がとは言わないが、いわゆる泡沫候補と呼ばれる人たちの姿が目立った。

アテンション・エコノミーという言葉がある。

情報の品質以上に、人々の関心や注目を集めることが価値を生んでしまい、それが財物化する状態のことをいう。かつては、マスメディアの一部がこれを専ら業(わざ)としていた。インターネット、なかんずくSNSの時代が始まってからは、広く個人にまで手段が一般化している。

そのうえで、都知事選というのは、日本全国からアテンション(注目・注視)される度合いが、他のあらゆる選挙イベントに増して高い。(全体で比べれば国政選挙が勝るが、選挙区単位ではそうではない。東京都知事選が勝る)

よって、高額の供託金を預け、得票数が足りずにこれを没収されたとしても、そのことに見合うだけのアテンションが買えるとして、今回の選挙に立候補した人はおそらく少なくないだろう。

そこで、供託金だ。日本では、現在、全ての公職選挙で供託金制度が採用されている。なお、知事選は300万円で2番目に高い。

参考:供託金額と該当する選挙
600万円 衆・参議院比例代表(納付の主体は政治団体だが個人が負担を求められるケースも想定される)
300万円 衆・参議院選挙区、都道府県知事
240万円 政令指定都市の市長

―――他、100万円以下は割愛―――

都知事選では、得票数が有効投票総数の1割未満に留まると、供託金は没収される。前回、20年の選挙では22人が立候補し、19人がその対象となっている。

そのうえで、今回の56人に大きく破られるまでは、この22人が都知事選立候補者数の最多記録だった。今回はその2.5倍を超えた。すなわち、今般都知事選における300万円の投資効果は、前回に比べ倍増、数倍増しているものと、一部の人たちからは見なされた可能性がある。

供託金は、そもそも、売名を目論むなど、当選を本気で目指さない候補者の排除を目的に設定されている。

ところが、その選挙が世間の注目を浴びることで、前述した「アテンション」が金額に見合ってしまうようだと、以上のことが容易に起こりうる。

諸外国の答え

では、泡沫候補対策として、供託金をもっと高くすればいいのかというと、まったくそうはいかない。なぜなら、それは被選挙権という重要な人権を著しく害する行為にほかならないからだ。

供託金が、たとえば800万円、1千万円と値上がりし、それだけのお金を集められる人物のみが立候補できるというのでは、民主主義の根幹が崩れる。理由は言うまでもない。候補者の属性が極度に絞られることになるからだ。よって、供託金制度にあっては、現状でも違憲性を疑う声があるところ、それがますます深まることにもなりかねない。

では、ほかに解決策は?

その答えをすでにいくつかの国が出している。推薦人署名制度だ。すなわち、候補者は、あらかじめお金ではなく「支持」を集めておく。一定の公職選挙において、これに立候補したい者は、一定数の推薦人からの署名を集めなければならない制度となる。

なお、これについて詳しく説明したいところ、確たる資料がなかなか手元に集まらない。

そこで、前回(20年)の東京都知事選の翌月7日に報道された日本経済新聞の記事における記述をまずは引用させてもらう。

「一部の国では乱立防止に金銭的な条件ではなく一定数の署名を義務付ける。たとえばフランス大統領選に出るには国会議員ら500人の推薦人を集めなければならない。米大統領選も州によっては無所属候補に署名を集めるよう課す。米国の研究論文には署名の方が供託金よりも出馬を抑制する効果が高いとの分析がある」

加えて、筆者が伝え聞くところ、ドイツやカナダにおいても、公職選挙への立候補に際して一定数の推薦署名を義務付ける制度があるようだ。

なお、上記、日経新聞記事においては供託金についても言及がある。

「G7のうち、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリアの国政選挙では供託金が不要。カナダは17年に違憲判決が出たことを受けて、制度を廃止した」(抜粋、細部を修正)

ただし、推薦人署名制度も万全ではない。当然ながら、大きな組織に属している人や、過去に属していた人が優位なものとなる。とはいえ、筆者の感ずるところ供託金よりはマシだろう。

一方、「泡沫候補乱立もよいではないか」とする意見があってもいい。「その方がより民主主義の原理に沿うし、山の賑わいになって選挙が盛り上がる」―――と、いうのであれば、供託金制度と推薦人署名制度の併用(候補者はどちらかのハードルを選択する)あたりが、望みに適うものとなりそうだ。

選挙のかたち―――フランス型選挙だったとしたら

都知事選挙が日本中から注目されたこの7月初旬だったが、同じ時期、世界が注目していた選挙に、7日に決選投票が行われたフランス下院選挙がある。

仕組みを紹介したい。1選挙区当たりの定数は1議席だ。「小選挙区2回投票制」と呼ばれる制度が採られている。あらましはこうなる。

まず、最初の投票で有効票総数の過半数、かつ、有権者数の4分の1以上の票を獲得した候補者は、そのまま当選が確定する。すなわち、その選挙区での選挙はそこで終了だ。

しかしながら、上記を満たす候補者が現れなければ、有権者数の12.5%以上の票を得た候補者が次の決選投票に進む。なお、該当者が2名に満たなければ、進むのは上位の2名となる。

決選投票では、相対多数の票を得た候補が当選者となる。要は、最も多くの票を集めた人が勝つわけだ。

なお、このやり方と似た効果を持つものとして、「優先順位付投票制」(呼び方はほかにもある)というのがある。小選挙区2回投票制では、2度の投票が行われるため、有権者含め各方面に負担が増すところ、そこを1回の投票にまとめたような仕組みだ。別の記事で簡単に紹介してある。―――「当選させたい順位をつける

そこで、シミュレーションを行ってみよう。上記のフランス下院選挙の仕組みを今回の都知事選挙に仮に充てはめてみる。各データは、総務省による7月8日発表のものだ。

当日有権者数 1134万9278人
投票者数 687万9502人
投票率 60.62%
有効投票数 682万3242票
得票数(上位4名・敬称略)
小池百合子 291万8015票
石丸伸二 165万8363票
蓮舫 128万3262票
田母神俊雄 26万7699票

まず注目したい。3位の蓮舫氏だ。有力候補だったが、残念ながら得票数が有権者数の12.5%以上を満たしていない。(128万3262票/1134万9278人=11.31%)

そのため、フランス式を採れば、蓮舫氏はここで試合終了だ。小池氏と石丸氏のみが決選投票に進むことになる。

すると、その際、それなりの票をまとめ上げた蓮舫氏の支持者は、次にどういった行動を取るだろうか。蓮舫氏支持=小池氏不支持として、単純にその票を石丸氏の数字に重ねてみる。

石丸氏 294万1625票(165万8363票+128万3262票)
小池氏 291万8015票

石丸氏が逆転だ。面白い結果が、数字の上では一旦出て来る。

もっとも、もうひとりの有力候補として田母神氏がいる。田母神氏の支持票=保守派寄りの票として、これを小池氏の数字に重ねてみる。

小池氏 318万5714票(291万8015票+26万7699票)
石丸氏 294万1625票

今度は小池氏が石丸氏を上回る。

そのうえで、ある程度支持を集めたのは田母神氏だけではない。ほかにもたくさんいる。

安野貴博 15万4638票
内海 聡 12万1715票
ひまそらあかね 11万196票
石丸幸人 9万6222票
桜井 誠 8万3600票

(以上は5万票以上の得票者・敬称略)

これら各候補の支持者たち、それ以外の候補者の支持者たち、さらには1回目の投票をしなかった有権者。決選投票に際して彼らはどのような動きを見せたのか?

それぞれ、ある程度想像できたり、できなかったり、色々だが、その結果がもしも現実にあったとすればなかなか興味深い。

なお、筆者は、こと首長選挙においては、以上のような2回投票制や優先順位付投票制で行う方が、現在わが国で行われているかたちよりも好ましいと感じている。

「絶対にA候補だ」「B候補を推すが、ダメならC候補だ」「A候補の当選だけは阻止したい」―――などといった有権者の多様な想いが、より汲み取られやすい制度であるからだ。

一方、国政選挙の場合、筆者の意見としては当面今のままでいい。一騎打ち一発勝負の“過激”な小選挙区制(衆院)と、阻止条項のない“過激”な比例代表制とのバランスが、両者過激なだけに、ある程度とれていると感じるからだ。

もっとも、その結果として「NHK党のようなトリックスターが現れるのは嫌だ」など、不満が多いのならば、これらのあり方について今後論議の俎上にのせるといいだろう。

政治が不要な街・東京

最後は、あくまで個人の印象論として、フワフワとしたままの話をしてみたい。

筆者は現在、埼玉県民だが、かつて東京で20年以上働き、10年以上暮らしていた。

そのうえで、極端なイメージだが、あえてそのままを言葉にすると、地方行政の範囲において、東京は「政治が要らない」街だ。もっと正しくは、都民は政治を必要としていない。

もっとも、実務としての行政は、都民ももちろん必要としている。

とりわけ、人々が期待しているのが治安の維持だ。さらに、衛生、健康、医療が高度にサポートされることを望んでいる。加えて、災害への備えがある。

このうち、毎日を支える「治安」「衛生」「健康」「医療」―――併せて日常の「安全」が、東京にあっては、都民の期待に応えるかたちで、都市の規模に比してすさまじく充実している。

そのため、東京はこの国でもっとも皆が住みたい街―――である以上に、おそらくは一度住めば離れがたい街になっている。(外国の大都市では治安にほぼ深刻な問題が生じる。それにより都市のもつ利便性が損なわれたりもする)

そのうえで、以上の“安全パック”が充実していれば、都民はそれでもう十分だとも感じている。むしろ、それよりほかを求めていない。

なぜなら、東京都民の多くは、そもそも自立と自活を志してこの街に来た人だからだ。もしくは、そのDNAを受け継ぐ子や孫だったりする。

彼らのような、政治への依存をよしとせず、自身で人生を切り拓いていきたい人々にとって、重要なのは行動と選択の自由にほかならない。

そのうえで、これを支える基盤として先ほどの「治安」「衛生」「健康」「医療」があれば、あとは必要ない。要らぬおせっかいとなるわけだ。

よって、そんな都民だからこそ、おそらくは95年当選の故・青島幸男氏以降、約30年にわたって、知事には文化人出身者を選んでいる。

なお、どの人も選ばれた時点ではスターと言えた人だ。すなわち、この選択にあっては、自治体経営という実務のトップではなく、専ら象徴としての東京の「顔」を選んだ感がつよい。

よって、今回、見事に3選を果たした小池氏にあっても、もちろん、政治的な実績がこれまでに無かったとは言わないが(実際にいくつもあっただろう)、都民の多くは、そこをさほどの論点としてはいなかっただろう。

何かと見映えのするこの人に、東京を象徴する顔としての役割を引き続き委ねたといった辺りが、実際のところ本質ではないかと思われる。その点、都知事は、どこか多くの徳川将軍にも似ている。

ちなみに、東京都民の平均年齢は、現在46歳程度となっている。有権者の平均年齢となれば、さらにグッと上がる。

小池氏は、すでに70歳を超える高齢者だ。しかしながら、有権者の中心的世代から見ると、経験豊かで落ち着いたよき姉であり妹となる。都民の選びたい「顔」として、おそらくは適任となる。

なお、以上はあくまで四捨五入した話として、小池氏をディスるものでもなく、都民をディスるものでもない。むしろ賞賛に近いものとして述べたつもりだ。

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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