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土地を「有利な資産」と考える人は平成初期の1/3に 日本人の「土地離れ」が加速中?(2/2ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2022/07/25

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保有価値から利用価値へ

土地白書からさらにデータを拾っていこう。「土地を資産として有利と考える理由」を人々に尋ねた結果だ。なお、人々とは、さきほどの質問=「土地は有利な資産か」に対して「そう思う」を答えた方々となる。ここに顕著な数字が見えている。

その数字とは、「土地は有利な資産だ」と思うその理由として、「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」を挙げた人の割合を指す。令和元年度以降、この選択肢のみがほかに飛び抜けて急激な増加を見せている。以下のとおりだ。

土地は有利な資産と考えるその理由として…

「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」を挙げた人の割合

平成30年度(2018) 12.5%
令和元年度(2019) 24.9%(ほぼ倍増)
令和2年度(2020) 34.2%(8選択肢中、単独首位)
令和3年度(2021) 29.6%(同じく同率首位)

ちなみに、この選択肢=「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」における平成30年度以前の最高値は20.9%で、それ以外は平成7年度(1995)以来、つねに10%台を上下してきている。よって、上記の令和元年度~3年度にかけての動きはまさに急伸といえるもので、実に特異な傾向となっている。

以上から、結論または一定の仮説が導き出せそうだ。

まず、ここ数年「土地は有利な資産」であると一律的に判断する日本人は一気に減ってきている。

理由は、われわれが土地に見出す価値が、多くの人において保有資産としての価値から利用資産としての価値に変わったことが大きい。

すなわち、土地ならば一律に価値がある=保有価値があるのではなく、それを利活用したうえで利益や恩恵を得られる土地にこそ価値がある。そうでない土地には価値がない——そうした考えが、人々の意識のうえでにわかに明確になり始めたのが、令和が始まってからの数年間といえるだろう。

繰り返すが、いまは「土地は有利な資産か」と単純に聞かれても、多くの人にとってそれはYes・Noの答えにはなりにくいということだ。

投資家には以前より当然のこと

もっとも以上の話は、過去よりいわゆる土地活用を行ってきた投資家などにとってはすでに当たり前のことに過ぎない。日本における土地への一律的かつポジティブな価値観は、バブル崩壊、リーマンショックなどの節目、節目も経ながら段階的に崩れてきている。そのうえで、現在は減少に転じた人口が、土地へのニーズをかたちづくる土台そのものを揺るがす地すべりとなって、動き出しているというのが事実だろう。

よって、いまは土地の価値は漫然と一律ではない。繰り返すがこれを使い、利益や恩恵を得られる土地は資産価値をもつが、そうではない土地は価値をもたない。どころか、余計な管理コストを生み出し続けるという意味で、いわば重荷ともなる。つまり“負動産”だ。

土地離れはわれわれの試練のひとつ?

一方、そのうえで注目したいのは、紹介した白書のデータについて、これらは当然ながら投資家を集め、尋ねたアンケート結果ではないということだ。

数字の出どころは、国交省が毎年行っている「土地問題に関する国民の意識調査」というもので、対象者は各自治体の住民基本台帳から無作為抽出されている。 

つまり、土地は有利な資産だと考える人の急減も、土地は生活や生産に役立ってこそ有利な資産だとする人の急増にあっても、これらはごく一般の人々の間で広く生じているものだ。いわば「目覚め」を示すものといってもいいだろう。

長らく、われわれ多くの日本人にとって「土地を持っている」という言葉は、「現金を持っている」ことと同じ響きをもつ雰囲気があった。だが、そんな常識はどうやらここ数年で急激に崩壊している。

これは、ある部分日本人の“土地離れ”といってよく、「一国一城の夢」ではないが、人生をもって何を勝ち得るかという意味でのよすがをも失うという意味で、試練のひとつといっていいのかもしれない。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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