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「弱者男性」がクローズアップされるその本質的な理由とは何か

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経済構造の変化と男性の立ち位置

「弱者男性」という言葉が、ネット上で注目を集めている。

言葉の定義には幅があって、男性のなかにも、収入、容姿や学歴という“スペック”で「弱者」と認定される人がいる点で議論になっているのだ。

これまでも女性から見た結婚相手によい男性像としては「3高(高学歴/高収入/高身長」や「4低(低姿勢=威張らない)/低依存(家事、子育ての分担ができる)/低リスク(リストラされない)/低燃費(お金を使わない)」といったものがあった。しかし、この弱者男性は、女性の権利向上を訴えるフェミニズムに対して「男だって生きづらいのだ」と主張する意味なのだ。

 

日本経済のバブルが崩壊した1991年以来、日本経済は成長しにくくなり、「失われた○年」と言われ続け、ついに「失われた30年」も超えた。この間、男性的な職場だった工場は経済のグローバル化で海外に移転、少子高齢化が進み、生産労働人口、総人口の減少に影響がさまざまなところで出はじめている。

外国人労働者が増え、女性の社会進出も活発となるなかで、その「しわ寄せ」は、男性の若年層に目立つようになってきている。

そして、「男性不況」という言葉も広まった。これは男性向きの製造業や建設業といった職が増えず、女性向きの医療や介護の仕事が増え、ホワイトカラー(事務職)の仕事も男女平等になってきている。その結果、相対的に男性の勤労者としての地位がますます低下した。88年成立の男女雇用機会均等法が職場や職業の男女平等を求めていただけに、フェミニストらからすると当然の帰結だ。

 

一人世帯が増える社会構造

土地バブル、ITバブル崩壊、リーマンショックと長期不況で稼げない男性は彼女や結婚ができず、それでも稼ぐ役割を強要されてきた。しかし、ついに男性であることの「生きづらさ」に、国や社会が正面から向き合う必要ができてきたと言えよう。

その主張は「真の被害者は弱者男性でもあり、国家や社会からの制度的支援が何もない」と、これまでは「負け惜しみ」「男らしくない」と言われ口に出すこともできなかった男性の弱音が全面に出てきたのにほかならない。

弱者男性の表面化は、男性の非正規雇用者が増え、格差社会が進んできたこの10年間においてじわじわ増えてきた。言ってみれば、弱者男性の登場は、日本の国力や経済力の斜陽化とセットの話だ。この中心世代は、就職氷河期を経験した40代、30代の男性たちだ。彼らは収入が少なく、女性との縁にもあまり恵まれず、独身であることが多い(高収入であえて独身という人もいるが)。

 

そして、近年「若い男性が結婚できるかには年収300万円の壁がある」というのが社会学では定説になりかけている。

2020年の生涯未婚率は、男25.7%、女16.4%(21年12月9日に公開された東洋経済オンラインの記事より)と非婚の時代、シングルの時代はどんどん進んでいる。その一因に女性が自分より「上」の男性を選ぼうとする「上方婚願望」もある。この傾向が続けば結婚できない弱者男性も減りそうにない。その結果、日本の家族構成は、高齢化による独居老人と相まって、どんどん一人世帯が増えている。

 

さまざまな「メンズリブ」が主張する共通点

これは日本に限っただけことだけなく海外も同様で、経済的な救済対象として注目されている。

また、弱者男性を支援する「メンズリブ」運動も世界的に起きている。また、「刑務所で人生を終わらせたい」と事件を起こす若者男性が目立ってきたが、事件前に救済の方法はなかったのかが問われる。メンズリブの潮流はバラバラだが、女性のフェミニズムと対立的な思惑も見られる。これは男性を「弱者」と断定せずに、父権(男)の復権を目指す保守的なものもある。

 

そこで男性のなかにもさまざまな意見が出てきており、注目すべき論点は次の4点になる。

1)男女ともに仕事と家事・子育てを担当すること、または女性(妻)が家計を支え、男性が専業主夫でもよいとする意見
2)男であるがゆえに社会的に抱えている問題を見つめ直し、生きやすい社会探る
3)男性を縛ってきた性的な役割や男らしさからの解放する
4)女性に比べて短い男性の寿命の問題、男性のコミュニケーション障害の改善

これらの意見をよく見ると、どれもこれまであった「男」というもの、いわば男を意味する「漢(かん=おとこ)」というものが、虚構だったことにスポットが当たっていることがわかる。

その一方、マスコミがタブーとして扱わない女性有利な社会的な制度もあぶりだされ始めてきている。例えば、大学進学率(短大含む)は男性よりも女性のほうが概ね高い時代になった。さらに女子大は男子は入れないが、男子高校を付属に持つ大学に女性を締め出す大学はない。女子大の伝統校は共学の大学より偏差値が5以上低くても、就職変偏差値は5以上高いことがある、といったことなど、男性からの指摘や不満が吐露されている。厚生年金も現状では女性の方が早くもらえる。

弱者男性とパワーカップル

問題は弱者男性が増えたことにとどまらない。最大の問題は、弱者男性が、格差を広げる要因にもなっている点にある。ニッセイ基礎研究所によると、夫の年収1500万円以上でも妻の約6割が就労している。実際、夫の年収が1500万円以上の世帯では、14年から20年にかけて、妻の労働力率は49%から62%、世帯数では20万世帯から32万世帯と1.6倍になっている。女性の社会進出が進むなかでこれ自体は驚く数字ではない。しかし、世帯収入として捉えると、結婚のできない弱者男性とのも差がさらに広がる一方だ。

 

加えて、現状では女性の「上方婚願望」がその格差をさらに広げる。同じくニッセイ基礎研究所の調査では妻の年収階級別に夫の年収階級の分布を見ると、妻の年収が高いほど夫も高年収の割合が高まる傾向が確認できる。この象徴的なものが共働きのパワーカップルの増加を促し、結果、都心の1億円前後のマンションがよく売れることにもつながったとも言えるだろう。

しかし、政治家はこうした世帯構造の変化を踏まえていないため、子育て世帯への臨時特別給付金において、夫(妻)一方の年収960万円超える世帯に給付せず、夫と妻の年収がそれぞれ900万円、合計1800万円の収入がある世帯には給付するという矛盾を生じさせた。今回、その基準は自治体ごとに判断をゆだねるとしたが、高額共稼ぎカップル絶対優位の状況は変わらない。

政府の男女共同参画会議のなかには「男女共同参画というと、能力ある女性が社会で活躍する点ばかりが強調される」と本音を漏らす男性学者もいた。

また、厚労省の政策立案関係者も「個人的には、世帯の所得を合算して、子どもへの支援・支給の尺度にするほうが平等だ。しかし、政治家の思考は夫が働き、妻は家事という昭和の家族構成の視点しか持っていない」と話す。

 

その結果が国会審議において政府が主張する「世帯所得を把握するのは技術的に困難で、把握しようとすると膨大な事務やコストが発生する」という説明で、こうした矛盾をうやむやまま、給付が実行に移されている。そもそも日本の税制(所得課税)は、世帯単位に課税するのではなく世帯主の所得への課税が基本の「一本足打法」だ。フランスなどは、原則として世帯所得から子どもを含めた家族一人あたりの所得を割り出して課税している。

社会学者の山田昌弘・中央大教授によると、クロス・マーケティング社と共同で行った日中米独伊の男性の小遣いの調査では、日本男性の収入に対する小遣い額の割合が8%、欧米は15%程度、中国は35%と日本の男性の小遣いは最低だった。山田教授は「日本人男性は、稼いでいる割に、自由に使えるお金は少ない」というのだ。

結婚しても、妻に財布を握られることが多い日本の男性。昭和であれば「恐妻家」「かかあ天下」などと男性たちは自嘲気味に話した。しかし、令和における弱者男性は、社会的問題の一因になっていることを忘れてはいけない。



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この記事を書いた人

経済アナリスト

マクロ経済面から経済政策を批評することに定評がある。不動産・株式などの資産市場、国や自治体の財政のバランスシートの分析などに強みを持つ。著書に『若者を喰い物にし続ける社会』(洋泉社)、『世代間最終戦争』(東洋経済新報社)、『地価「最終」暴落』(光文社)などがある。

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