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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

敷金と保証金、申込証拠金と手付金…秋の夜長に考える「似て非なる業界用語」のあれこれ(3/4ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2021/10/16

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その3 申込証拠金と手付金

分譲物件や賃貸物件を、購入もしくは借りようとした場合、気に入った物件が見つかれば、仲介をする不動産業者はその意思を売主や貸主に伝えるため、書面を作成して記名押印を求めます。その際に、名前を書いて認印を押すだけだと、契約前段階における申込者の買おう、借りようという意思が途中で揺らぐことも懸念されるため、書面と併せて一定の金銭を預け入れることを半ば強制的に求めてきます。これが申込証拠金(単に申込金)と言われるお金で、契約に至らなかった場合には返還される性質の金銭だ。

他方、手付金は、契約に当たって売主または貸主に交付する金銭で、不動産契約の場合、殆どが代金等(賃貸の場合は賃料や礼金など貸主に支払う金)の一部に充当するという条件を付して支払うのが一般的(賃貸の現場では、手付金の授受は一般的ではない)。

しかし、手付金というのは、契約という法律行為の実現に則してやり取りされるお金だから、申込証拠金のように、「買う(借りる)気が失せたので返して頂戴!」「はい、お返しします」というわけにはいかない(厳密には手付契約不動産契約別物とご存じか?)。

従って、不動産の場合、手付金に特段の条件を付さない以上は、解約手付と看做されるため、一旦成立した契約を反故にする際には、この金銭をやり取りして解約することができるよう、本体の契約上に特約をしているのだ(手付解除特約)。

一般消費者がしばしば遭遇する「申込金没収」被害の実態は、悪意のある不動産業者に、部屋止め料とか優先交渉権を得るための預かり金などと言われて差し入れた申込証拠金が、いつの間にか手付金という名目に変えられ、申し込みの撤回≒キャンセルを契約解除にすり替えられることによって、返還できないお金になってしまうことだ。

不動産の契約は、社会通念上も重要な法律行為だから、民法上の諾成(だくせい)主義をそのまま当てはめられないのが殆ど。特に不動産屋さんが仲介に入っている場合は、契約書面の交付や重要な事項の説明を果たして初めて契約が成立する。それまでは、預け入れたお金が勝手に手付金に成ったり、代金に充当されたりすることはありませんので、ご用心を。


手付契約と不動産契約は別物です/©︎mosaymay・123RF

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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