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もう国に任しておけない 賃貸トラブルのパイオニア的存在が 高齢者の居住問題と誰もが抱える老後問題に一石を投じる

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取材・文/浦邊 真理子

司法書士・太田垣章子(おおたがきあやこ)、通称章ちゃん先生。賃貸業界で「章ちゃん先生」を知らない人は“もぐり”だ。そう断言できるほど、太田垣氏は家主からも、不動産業界からもそして家賃滞納者を含む賃借人からも慕われる存在だ。「賃貸トラブルの請負人」として、約20年にわたり、延べ2600件以上の家賃滞納を始めとする賃貸トラブルを解決してきた。

そんな太田垣氏は昨年2020年11月、全国に展開するOAGグループ内のOAG司法書士法人の代表司法書士に就任した。そして、来たる9月25日、高齢者が安心して「家を借りられる」、家主が安心して「家を貸せる」サービスに加えて、自らの尊厳を守る「終活」を支援する株式会社OAGライフサポートサービスが始まる。太田垣氏に詳細を伺った。

「新たな住宅セーフティネット法」で高齢者の居住は守れない

総務省統計局発表によると我が国の65歳以上高齢者の人口比率は20年に28.5%となり、世界主要国で唯一25%を超えた「超高齢化社会」である。さらに、40年には3人に1人以上が高齢者になり、6世帯に一世帯強は一人世帯になるとされている。さまざまな問題を抱えるが、そのなかでも『住まい』は生活基盤であり最も重要な問題の一つと言えよう。

高齢者・単身世帯での借家の割合は全体の1/3(2018年、総務省公表住宅土地統計調査より)となっており、今後更に高齢者が増え、必然的に高齢者の賃貸住宅の需要増加が見込まれる。

しかし、高齢者は簡単に家を借りることができない現状がある。高齢者に対する賃貸住宅の家主の入居拒否感は強い。日本賃貸住宅管理協会が行った調査(回答242件)では、高齢者(60歳以上)に対し約8割の家主が拒否感を示した。増える高齢者と、高齢者の居住問題から、国は『新たな住宅セーフティネット制度』を17年10月に施行し、高齢者が断られない住居を増やすことを試みたが成果は出ていない。

「高齢者に貸したくないという家主さんをいっぱいみてきました」

そう語る太田垣氏。太田垣氏が携わった2600件に及ぶ賃貸トラブルのなかでも高齢者の家賃滞納、孤独死、孤独死からの事故物件化、他にも建物老朽化による退去勧告による立ち退き拒否など数多い。トラブル発生のリスクヘッジのため、高齢者の入居を断る家主は多い。家主を守る法律がない以上仕方がないと言えよう。

「高齢者が家賃の低いところに引っ越ししたいと思っても、受け入れ先がなく結果家賃滞納になってしまう。現状、入居を断られても解決する制度はありません。」(太田垣氏)

家主も高齢者も困っているのだ。

賃借権は相続されるという大きな壁

賃借人が死亡しても賃借権は相続されるため、家主は勝手に残置物を処分することはできない。

亡くなった賃借人には身内がいない、いたとしても交流がない場合が多く、相続人は『一任します』と権利を放棄し関わらないケースがほとんどだ。何度連絡しても返信がないケースも多い。このように時間と労力をかけて相続人を探しても迷惑がられるだけで、仮に家賃滞納があったとしても、結局裁判所での手続きを取らないと解決できない。

「万が一のときに賃貸借契約を解約できるような法律がないと、今後高齢者の居住問題が解決することはないと長年思い続けていました」(太田垣氏)

2021年光明が差し込む

しかし、この状況では今後の高齢化に対応できないと焦ってのことであろうか、2つの大きな動きがあった。

一つは、今年の2月に、国交省と法務省から高齢単身者に限り、賃貸借契約の解除と残置物の処分を第三者に委任してもよいと認める内容のモデル契約条項が策定された。依頼された事務処理を委任者死亡後も受任者が行う「死後事務委任契約」を活用したものである。この発表により、生前に委任されていれば、死後現在のような賃借権の相続に振り回されずにすむことになった。

さらに今年5月、国交省は過去に人の死が生じた不動産、いわゆる「事故物件」について、不動産業者(貸主・売主)が売買・賃貸の契約者(借主・買主)に告知すべき対象などをまとめたガイドライン案を初めて公表した。 病死、老衰など、いわゆる自然死は事故物件とはならず、貸主・売主は借主・買主に対して「告知の必要はない」と明記し話題になった。

つまり高齢者が賃借している部屋で事件性なく亡くなった場合、事故物件にはならないとの見解が示されたのだ。

今までグレーな基準で、司法書士として足を踏み入れることができなかったが、この流れができたことで、高齢者にとっても家主にとっても必要なサービスを提供することに迷いはなかった。

「尊厳を守る」と「安心感」を叶えるOAGライフサポート

ローンチするOAGのライフサポートは、それぞれオーダーメイドで自身のケースに合わせて利用できる。自らの尊厳を守り、もしものときに備える安心感がテーマとなったラインナップだ。専門家への相談取次ぎ、法律問題、税務問題、不動産の問題などについて、OAGグループの各種専門家へワンストップで問題解決へ導く。

その仕組みは次のようになる。

賃貸見守り会員

「高齢だから」「身内の緊急連絡先がないから」という理由で部屋が借りられないと心配する高齢者、空室で困っているのに「孤独死されたら困るから」という理由貸せない家主。この双方にとって救世主となる。

国交省の推奨するモデル契約として、高齢賃借人が亡くなった場合に賃貸借契約を解約し、残置物処分の手配をする。事故物件にならないよう『ハローライト』を使用する。これは物件の電気がつきっぱなし・電気がついていない時のアラート機能でOAGライフサポートが連絡を受け、高齢賃借人の24時間を見守るシステムである。入居者が月額2200円(税込)を支払い加入する。入居者向けのサービスではあるが、家主にとっても孤独死や病気トラブルの発生を防ぐ手立てとなり得るので、入居時に火災保険のように加入を促す利用も考えたい。

数十年に及び長期間居住し高齢者になったもしくは、なる予定の居住者にこそ、将来もしものことがあったときのために加入してほしいサービスだが、現在賃貸借契約があり、居住できている入居者に有償のサービス加入を促すことは難しいと思われる。そのような場合には家主側が代金を支払い入居者に加入してもらうなどの方法も考える必要がありそうなサービスだ。全国対応。

メイト会員/メイト・プラス会員

増えるおひとりさま。未婚率も高く、少子化な日本はこの先高齢者が増え続けるというだけでなく、頼れる親兄弟をもたない若者も増える。昔のように複数人の子どもたちで、1人か2人の親をみるというのではなく、自らも高齢者となりながら、1人で両親をみるケースも増えていく。

また、昔のように母親が専業主婦で時間や金銭に余裕があり介護できる家庭は減り、女性の社会進出が増え続ける現代では、子ども自ら介護できないケースも増えている。我が子がいても、「子どもに頼れない」「負担になりたくない」と考える人も多い。 

老後のことに漠然とした不安があるが、「誰に何を相談していいのか分からない」方向けのサービスがメイト会員/メイト・プラス会員だ。

終活をはじめたい、自身の老後について知りたいという場合に、情報や学ぶ場を提供するサービスである。メール送信、YouTube配信、オンラインウェビナーなどでも情報発信し、「ITに取り残されない」よう、使い方も学びながら双方向コミュニケーションや意見交換ができる仕組みとなっている。

ライトパック会員

家族に頼るのは、いざというときだけという方向きのサービスである。

子どもはいるけれど遠方や海外居住という場合など、万が一のときにすぐに駆け付けられないケース。我が子ではない親族(兄弟や甥姪、孫など)が面倒を見てくれるというが、過度な負担は掛けたくない。そんなケースもあるだろう。

緊急事態に陥ったときは、ご親族と連携しながら、司法書士、行政書士、ライフサービスのプロフェッショナルがケースに合わせて支援を行う。

認知症や脳卒中の後遺症などで適正な判断ができなくなったときに、誰が財産管理を行うのかなどの気掛かりを、事前に打ち合わせし決定しておくことで、万が一の場合でも自らの意思に反した事態になることを防ぐ。

フルパック会員

家族を頼られない、頼らないという人でも安心できるサービスである。

一人暮らしで孤独死してそのまま発見されないことが心配、身元保証人がいないため病院・高齢者施設に入院・入居ができない、認知症になった場合はどうなるのかという悩みは多い。

おひとりさまに付随するさまざまな不安を、見守りと生活状況把握、身元保証人受託による全方向サポートで解消する。身元保証人もOAGライフサポートが引き受け、任意後見契約と死後事務委任契約がセットになっているので、いつ何が起きてもあなたの尊厳は守られる仕組みだ。

万が一、亡くなった場合に誰が葬儀をするのか、葬儀しないのか、病院から火葬場に直送する、誰がお骨をお墓に持参するなどあらかじめ希望を聞き、備えることにより自分の人生を自己決定する「尊厳」が守られる。

コンシェルジュ・プラス会員

安心感に特化したサービスである。定期的な面談を通して信頼関係を深め、いつでもなんでも相談できる専属のコンシェルジュを持つことにより、頼る人がいない場合でも安心して暮らすことができる。

心配ごとをひとつひとつを共に解決し、または各種専門家への取次ぎなど解決に導くための方法を提案する。

ハンディキャップ会員

自身に軽度の知的障がいがあり、計画的にお金を管理して使うことができない場合、現在は自宅で面倒を見ている重度の知的障がいのある息子を、この先、親が歳を取って面倒をみられなくなったときの心配、または障がいのある子どもには頼れない老後が心配など、さまざまな障がいを抱える方やその家族に向けたサービスである。

個々のケースに最適な方法を共に悩みながら、法律の専門性を発揮しつつ不安を解消し、人としての尊厳を守るために、意思決定や財産管理、後見制度・信託制度利用のサポートや相談を受ける。

そのほかに、遺言作成・執行サポート・寄付先選定サポートなど、一人一人の希望通りにサポートが用意されている。

自分で決めておく重要性

「元気なうちに決めておくことが大切なんです」

と太田垣氏は言う。そして少し寂しそうに続ける。

「例えば、断捨離。若い人は、未来への希望と体力があるから断捨離ができるのかもしれない。過去にしがみついていたらきっとできないと思う。体力的に精神的にも思い出を消化し、次へ進むアクションである断捨離は高齢になってからでは難しい。高齢になると面倒くさくなるのかなぁ……」

自らの老後について決定することも一緒だろう。

日本人は『死』にまつわることをまるで何も無いように振る舞う傾向がある。直視して傷つかないように避ける。まだ終わりではない、まだ死ぬことはない。それは先のことだと後回しにする。

しかし、未来の決定をすることは体力も精神力もいるので、老後になってから、痴呆になってからでは決めることはできなくなる。そして決めていないままにそのときは訪れる。

早い段階で自分の未来についてちゃんと決めておけば、人生の終盤になって迷惑をかけたり、モノのように扱われるようなことにはならない。

「老後に備えることは、自分のこれまでを大切にすることと同じです」(太田垣氏)

命の尊厳を守るために

これまでの日本では家族が何とかしてくれた。しかし核家族から、さらに少子化未婚化と急激に家族が少なくなり、今後家族に頼れる時代ではない。

自らの尊厳を守る意識が大切であり、それは事前に然るべき方法で法的に整えておかなければ、命の尊厳は守られないということだ。

現在のコロナ禍においても、認知症の人は基本ワクチンを打つことができない。自己決定権が認められないので、打たせてもらえないのだ。

OAGライフサポートでは、「もしも起こり得ること」も細部に至るまで決めてチェックしていくと言う。

特に賃貸見守りに関しては「現場で家主、賃借人、両方の思いを一番見てきたので、どんなトラブルが起こるか分かる」と太田垣氏は自信をのぞかせる。

その根底には、20年近く賃貸業で育ててもらった業界へのお返しがしたいという想いがある。今まで賃貸トラブルを解決するために、理不尽に罵倒されることもあった。人間の恐ろしさ冷たさも汚さもたくさん見て、涙を流してきた。しかし善良な賃借人が困っている姿も、家主が困っている姿もあまたと見てきた太田垣氏の、「なんとか助けたい」想いがカタチとなったのだ。

【プロフィール】

太田垣 章子
OAG司法書士事務所法人代表、司法書士。株式会社OAGライフサポート 代表取締役。 

30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2600件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。

また、12年間「全国賃貸住宅新聞」で連載し、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。現代ビジネスにも連載をしている。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』『不動産大異変』(いずれもポプラ新書)、共著『家族に頼らないおひとりさまの終活』(ビジネス教育出版社)がある。

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この記事を書いた人

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