お金は「道具」に過ぎない ——『FIRE』著者 クリスティー・シェン、ブライス・リャン インタビュー
Uchicomi+(ウチコミ!プラス)編集部
2021/09/08
聞き手・文・編集/真板 貴幸・Mami Miyake(通訳) 京都観光時のクリスティー(左)とブライス(右)/本人提供
「FIRE」ムーブメントが広がりを見せている。FIREとはFinancial Independence, Retire Earlyの略で経済的に自立し、早期リタイアすることを意味する。なかでも第一人者であるクリスティー・シェン、ブライス・リャンの著書 『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』(タイヤモンド社 刊) が、このムーブメントに与えた影響は大きい。両氏が実践している投資、早期リタイアメントに至ったきっかけ、そしてライフスタイルなどについて聞いた。
ジェイエル・コリンズ、ロバート・キヨサキに影響
——ジェイエル・コリンズの著書『父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え』でインデックス投資を学び、ロバート・キヨサキの著書『金持ち父さん 貧乏父さん』 に影響を受けたそうですね。
クリスティー・シェン:私とブライスはカナダのトロントに住んでいます。東京と同じようにトロントは家が高い。ロバート・キヨサキはマイホームを買うことについて、物議を醸すような言葉を残しています。それは多くの人が信じてきた家に対する考え方とは反対のものでした。それは「貧しい人は物を買う」「中産階級の人は家を買う」「お金持ちは投資資産を買う」という言葉です。
私は貧しい環境で育ちました。そんなせいか、やがてある程度の収入を得られるようになると、有名ブランドの財布やバッグを買うことに、そして家を買えるかどうかに夢中になった。そう、物を買うことに執着していたのです。
そんななか、家を買うことを否定するような彼の考えは、私にとって非常に衝撃的なものでした。家は誰もが買うものと思っていたからです。しかし不動産投資などについて書かれた彼の著書を読み、実際にお金を得て、そのお金を使ってより多くのお金を生み出す考え方を知り興味を持ちました。
そして投資の仕組みを理解する。それが富への道に入るための出発点になると教えてくれたのは、ジェイエル・コリンズの著書 『父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え』です。そこではインデックス投資について学びました。
ブライス・リャン:インデックス投資とは個別銘柄に投資するのではなく、株価指数に連動したファンドに投資することです。どの会社が巨大企業になるかを予測するのは難しいですし、どの会社が倒産してしまうかも分からない。しかし経済全体で見れば、成長していることがよく分わかります。
例えばそれは、カジノに行って儲かるスロットマシンを選ぼうとするのではなく、カジノそのものに投資するのと同じようなものです。なぜカジノそのものに投資するか? それはどのスロットマシンが儲かるのかを知ることは難しいですが、カジノ自体が儲かっているかを知ることができるチャンスはあるからです。
インタビューに応じるブライス(左)とクリスティー(右)/編集部
基本的には買って、売らない
——NYダウ、ナスダック、S&P500は長期で見ればずっと右肩上がりです。一方、日経平均はバブル崩壊後、長いあいだ低迷し、最高値である3万8957円(1989年12月29日)を30年ものあいだ超えることができていません(TOPIXは6日以降、1990年8月21日以来の高値を更新中)。また、コロナ禍で各国が実施した金融緩和もテーパリング(買い入れ額縮小)の議論が始まり、近い将来その時期を迎えようとしています。インデックス投資に死角はない?
ブライス・リャン:米国人の多くは「米国に投資しろ」と言います。米国が世界の中心だと考えているからです。米国にだけ投資するより、もう少し国際的な側面から見たほうがいい。米国では(リーマン・ショック時のような)、ときどきクレイジーな人たちがいるので、いつ状況が悪くなるかは分かりません。私たちは米国だけに投資するのではなく、世界中の株式市場に投資したいのです。
どの国が上手くいくか分からないし、誰もそれを予測できない。個々の国ではなく世界を対象にするのです。なぜなら「世界がお金を稼ぐ」からです
そして株式市場は今後大荒れすることが予想できます。1918年のスペインかぜのパンデミックが収まった後、「狂騒の20年代」に突入しました。これはほぼ10年間にわたって経済が拡大した時代ですが1929年に株式市場が大暴落して終わります。
短中期的には上がったり下がったりするかもしれませんが、少なくとも1年か2年ほどは上昇していくと思います。しかし、より高い視点から投資について語るときに重要なことがあります。
それは、私たちがリタイアメントのためにこれらの投資をしているということです。重要なのは「低い指数で買って高い指数で売る」ということではありません。基本的に「買って売らない」のです。
FIREの投資哲学とは、例えば金やビットコインなどのようにお金を稼ぐために市場で取引をするというのではなく、債券やインデックスファンドなどを保有し、利子や分配金などを得て生活を続けるというものです。
お金は人生で重要なものを手に入れるための「道具」
——そもそも早期リタイアメントのきっかけは?
クリスティー・シェン:現代社会では、人間関係や幸せよりも仕事を重視する絶対的なカルチャーがあります。とにかく懸命に働かなければならないし、親はあなたに、「高給の仕事に就いて家を買いなさい」と言うでしょう。そのような考えに逆らうことは非常に難しいことです。
しかし私が私自身の人生を変えるための決心をしたのは、同僚が机の上で死にかけているのを見たからです。日本には過労死という言葉がありますが、それを実感しました。彼は3年間、1日14時間の連続勤務をし、ある日突然倒れ病院に搬送されたのです。医者が言うには、彼の健康状態はとても悪く、1日に2箱のタバコを吸っているような状態だったそうです。
そしてちょうど1週間後、彼は仕事に復帰しました。
みんな何事もなかったかのように振る舞っていました。もし何事もなかったことにするなら、ワークライフバランスとはいったいなんでしょうか? ワークライフバランスそのものを否定したのです。この教訓から私が得たのは、人生の一面だけに集中してほかのことはどうでもいいと思ってしまうと、人生そのものを棒に振ってしまうということです。
会社のために自分の人生を犠牲にして家族と過ごす時間を捨てる。そして65歳まで働く。しかし実際に65歳まで生きる人がどれほどいるのでしょうか? 仮に65歳まで生きられたとしても、その時点で完璧な健康状態にある人はどれほどいるでしょうか?
癌になるかもしれないし、脳卒中になるかもしれない。私の同僚は50代でしたが死にかけました。だから65歳で引退できるという保証などどこにもないのです。
FIREのコンセプトは、自分の人生において何を優先させるかを考えることです。自分にとって大切なのは家族なのか、自由なのか、幸せなのか。そしてお金は人生で最も重要なものを手に入れるための道具に過ぎません。
お互いのバックグラウンドがシナジー生んだ
——早期リタイアメントを成し遂げることができたのはクリスティーとブライス、二人一組だったというのが大きい?
クリスティー・シェン:カップルであれば、より難易度は下がりますが、単身であっても経済的自立ができないというわけではありません。FIREコミュニティには単身者で経済的自立を成し遂げている人もいます。
私たちにとって収入が2つあることが助けになっていたというよりは、正反対の性格であることが功を奏していると言えます。
私はすべての計画に対して備えがなければといった感じで、常に余裕資金を持っている必要があると考える、いわばアジア的思考の持ち主です。そのうえでリスクを取ることに楽観的なブライスのような西洋的思考が加わればうまくいくでしょう。
このように正反対の2つのバックグラウンドが一緒になったからこそうまくいったのです。この考え方をお互いが理解して貯金をし、万が一うまくいかなかったときのバックアッププランを用意しておくのです。
ブライス・リャン:アジア的思考のクリスティーは節約や予算組みが上手で、ベストプライスを見つけるのが本当に上手です。いざお金を貯めるとなると誰もがクリスティーのようにはできない。そしてお金を増やして、より多くのお金にするということに関しては疑いの眼差しで見ているほどです。
日本のオウルカフェで/本人提供
世界を旅しながら資産を増やす
——コロナ禍の前は世界中を旅していたそうですね。節約をしながら資産を増やし、人生を楽しむ。なぜこのようなライフスタイルに?
クリスティー・シェン:多くの人は東京やトロント、ニューヨークのように物価の高い都市での仕事に縛られている。しかし、経済的に自立してしまえば物価の高い都市で生活する必要はないのです。
私たちは世界を旅するようになって、ほかの地域で過ごすことがいかに安いかということを知りました。実はアジアだけではなくヨーロッパでも安価に過ごせる都市があります。例えばポーランド。ポーランドはヨーロッパということもあり、物価が高いと思われているかもしれませんが違います。また、ポルトガルも低コストで生活することができる。それらと比較してもさらに快適なのはタイです。
私たちはトロントで1500カナダドルの家賃を払っています。これはトロントでは安いほうで、通常トロントの家賃は2000〜3000カナダドルくらい。タイに行ったときは月600ドルでプール付きです。料理をする必要はないですし、毎日泳いで楽しんでいます。そして主要なエリアにはどこへ行くにも歩いていけます。
タイに滞在した際、日本円で稼いだお金をタイバーツに換金している多くの日本人がいました。彼らは東京やその他の場所でリタイアするより、はるかに高い生活水準で暮らしています。
今回のコロナパンデミックにより、自宅で仕事ができるようになった人も多いかと思います。私たちのように物価の安いところでやりくりすれば、その差額を資産のポートフォリオに組み込むことができる。このような場所で暮らし、仕事をすることができれば東京で引退するのに十分なお金を貯めようとした場合よりも、早くリタイアすることができるのです。
ブライス・リャン:これは「ジオグラフィック・アービトレージ」と呼ばれるコンセプトで各地域での物価や貨幣価値の差を活用するというものです。
年間いくら使っているかを把握し、その25倍の貯金をすることで、いまとまったく同じライフスタイルを続けることができるというものです。日本やイギリスであれば、タイやベトナム、フィリピンにいったときには貨幣価値が高まります。これらのことを組み合わせると、思ったよりもずっと早くリタイアすることができる。
そうであれば、目標は現在の生活費の25倍ではありません。タイやベトナムに住むとしたら、実際にはそれらの国で住むための費用の25倍であり、その数字は東京のような大都会に住むよりもずっと低くなることでしょう。
クリスティー・シェン、ブライス・リャンのインタビュー完全版(動画)はウチコミ!プラスで視聴することができる。
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この記事を書いた人
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