熱海を襲ったのは盛り土だったのか――本当の「盛り土」をおさらい 盛り土は周りにたくさんある
朝倉 継道
2021/07/30
写真はイメージ。本文とは関係ありません/©︎lesik・123RF
一気に知られるようになった「盛り土」
熱海・伊豆山地区での土砂災害が7月3日に発生して以降、「盛り土(もりど)」という言葉が我々の周りを駆け巡っている。
今回、街を襲った盛り土は、現地を流れる二級河川「逢初川」(あいぞめがわ)の川筋に沿って山あいをさかのぼった上流部の谷に、大量に積まれていた。それが、豪雨によって緩み、激流となって伊豆山地区を駆け下った。
途中にあった約130棟もの建物や、そこにいた多くの人を土砂に巻き込むという、甚大な被害をもたらしている(7月28日時点で死者22人、行方不明者5人)。
もっとも、この悲劇を生んだ盛り土が、本当の意味での「盛り土」と呼ぶべきものなのかどうかは、かなり怪しくなってきている。そこにあったのは、土地を造成し、その上に住宅などを建てようとするためのいわゆる盛り土では、どうやらないようだ。
正体は、どこからか生じた開発残土と大量の廃棄物が混ぜて捨てられていただけの、いわばゴミ捨て場のゴミのようなものだったという。
本来の盛り土とは
本来の盛り土は、造成工事によって生まれるものだ。起伏や傾斜のある土地を平たんにし、その上に住宅等の建物を建てたり、道路をこしらえたりするため、主に行われる。
このうち、谷状に窪んだ土地に土を入れ、上面を平たくするやり方を「谷埋め型」と呼ぶ。一方、斜面に土を盛り、その上部をひな壇状に整えるなどするやり方を「腹付け型」と呼ぶ。
そのうえで、谷埋め型にしても、腹付け型にしても、盛り土が完成したあとはそこで人が生活・活動する場となるため、そう簡単に崩れられてはたまらない。そこで、盛り土を行う際、忘れてはいけないのが、排水への手当てとなる。
なぜならば、盛り土にとって最大の心配ごとが地下水だからだ。盛り土の底には、本来の地形に沿って、雨水などがどうしても流れ込みやすくなる。流れ込んだ水がスムースに排出されず、盛り土の中に貯まると、その部分が緩んで、土が滑りやすくなる。そこに、地震の揺れなど刺激が加わったり、あるいは土砂が水圧に耐えきれなくなったりすると、滑り台よろしく、これが流れ出すことになる(滑動崩落という)。
そのため、盛り土には、内部に水が貯まることで滑動崩落が起きないよう、底に暗渠を通すなど、適切な排水設備が必要となるわけだ。
加えて、盛り土の谷側には、土砂が滑り出すのを抑えるため、擁壁(ようへき)が設けられたりもする。擁壁といえば、斜面上にひろがる住宅地で、コンクリート製のそれらがずらりと並ぶ風景を誰もが目にしたことがあるはずだ。
そのうえで、これら擁壁には、見ると必ず幾つもの穴が開けられている。これは「水抜き穴」と呼ばれるもので、すなわち大切な排水設備のひとつとなる。
そこでいえば、今回の熱海の現場においては、正しい盛り土であれば存在するはずの排水設備が、その残骸さえ見当たらない旨指摘されている。よって、次々と明るみに出てくる関係者の証言にも照らせば、これが実際には盛り土といえるようなものではなく、廃棄物と残土を混ぜた、単なるゴミの処分場だった疑いが、いよいよ濃くなりつつあるのが現状だ。
現地で空撮された写真のインパクトから、「盛り土とは、専ら山奥の谷を土砂でうずめる行為」などと、イメージを一人歩きさせないよう、多少の注意が必要だろう。
大規模な盛り土だけでも全国に5万カ所以上
では、まともな意味での盛り土は、通常どんなところに存在するのだろうか。それは、地域によっては、人々の身の周りそこかしこにまさに無数にある。
国土交通省が今年3月に公表したところによると、「大規模盛土造成地」に規定される大きなものだけでも、その数、全国5万950カ所にのぼっている。
都道府県別大規模盛土造成地数
出典/国土交通省「都道府県別大規模盛土造成地数」(R3.3末時点見込)
このうち、都道府県別の数を見ると、TOP5には神奈川県、福岡県、大阪府、愛知県、千葉県が入っている。ちなみに、東京都は1584カ所、熱海市のある静岡県は1103カ所となっている。
なお、これらについては、国交省の「ハザードマップポータルサイト・重ねるハザードマップ」で、位置等が公開されている。
そこで、上記1位の神奈川県を見てみると、川崎・横浜から三浦半島にかけての密集度のすごさに、誰もが思わず目を見張ることになるだろう。
神奈川エリアの大規模盛土造成地(緑の箇所)。「重ねるハザードマップ」にて【すべての情報から選択】→【土地の特徴・成り立ち】→【大規模盛土造成地】を選択すると確認することができる
ともあれ、盛り土による造成地は、上記、大規模盛土造成地に含まれない程度のものも加えるならば、繰り返すが、地域によっては人々の周りに数えきれないほど、存在するというわけだ。
ちなみに、今回の熱海での被害を受けて、国交省からは、全国の「盛土可能性箇所」のさらなる抽出を実施する旨、7月9日に発表がされている。シラミつぶしに盛り土の存在をつかまえにいくということで、われわれの足もとにあるリスクをさらに細かく把握できるかたちが、間もなく整備されるということのようだ。
盛り土の2つの基本リスク
最後になるが、こうした盛り土にリスクが指摘される理由を挙げておきたい。
ひとつは地震だ。さきほどもふれたとおり、地震によって斜面上の盛り土が崩壊する懸念、および実例も多いことのほか、地盤の液状化による被害もある。
その液状化で、とりわけ記憶に新しいのが、18年に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震での被害だ。このうち、もっとも甚大だった札幌市清田区里塚地区での被災においては、谷埋め型の盛り土造成地で、広範囲にわたって液状化が生じた。
報道によれば、112戸の住宅が、全壊、半壊、あるいは一部損壊させられる結果となっている。
加えて、もうひとつのリスクが、地震に遭わずとも、大雨のみで盛り土が崩れ出す可能性もあることだ。17年には、奈良県三郷町で、住宅地の盛り土にしみ込んだ大量の雨水が、水圧によって擁壁を内側から崩してしまう事故が起きている。
近年続くいわゆる気候変動により、豪雨災害が目に見えて深刻さを増すなか、盛り土造成地のデリケートな弱みを露わにする結果となっている。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。