行きたい人3割半。大阪・関西万博は盛り上がるのか? カギをにぎる2つの追い風
2025/04/07

「大阪・関西万博に行きたい」と答えた人は全体の34.9%───目標を大きく下回る数字だ。2月上旬、大阪府と大阪市が昨年12月に行ったアンケートの結果が各メディアから報じられ、このイベントの先行きへの不安こそが、むしろ全国から注目されるかたちとなっている。開幕日(4月13日)が迫る中、チケットの販売枚数も振るわない。万博はどうなる? 盛り上がるのか? 数カ月後の未来を予想してみたい。
大阪・関西万博は盛り上がる
まず、いきなりの大胆予想だ。大阪・関西万博は大いに盛り上がるだろう。その様子といえば、日本で開かれた前回の国際博覧会、05年の「愛知万博」(愛・地球博)と同様だ。最初は寂しくとも、後から尻上がりに調子を上げていく。愛知万博も結局のところ、最も少ない入場者数は3月下旬の開幕日に記録したものだった。それが中盤に入ると俄然雰囲気が変わり、会期の中日を待たずして目標1,500万人の半分を突破。その後真夏を迎えやや勢いが鈍るものの、間もなく盛り返し、上記の数字を閉幕ひと月以上前にクリア。この頃には会場の混雑がむしろ課題となり、最終日1週間前の9月18日にはついに入場を制限。結果として、来場総数2,204万9千人に達するという、想定を大幅に超えるフィナーレを迎えている。すなわち、大阪・関西万博もきっとそんな流れになるだろう。
もっとも、数字のみを挙げると、大阪・関西万博では、愛知万博が目標とした倍近くとなる“想定来場者数”約2,820万人が事実上の目標となっている。いまのところ、これに限っては達成のハードルは高い。しかしながら、大阪・関西万博には愛知万博には無かった2つの追い風が吹いている。以下にそれを挙げていこう。
前回は無かった身近な「風」
愛知万博の開催は、前述のとおり05年のことだった。そこで思い起こしたい。当時、世の中にほぼ存在せず、現在はわれわれの日常生活に欠かせないどころか、ひょっとすると身体の一部のようになってしまっているものといえば何だろうか?
答えはスマートフォンだ。アップル社のiPhoneは07年から販売が開始されている。愛知万博の2年後だ。なお、同機は最初のスマホではないが、おおむね一般的にはそういえる存在だろう。さらに、そのスマホの上で主に広がった、いまや世界を覆い尽くしているといっても過言でないものとは何だろう? 答えはSNSだ。「X」の前身であるTwitterが生まれたのは06年、Facebookの一般開放も同年、Instagramは遅れて10年に誕生している。
すなわち、大阪・関西万博は、スマホ・SNS時代以降初めての、日本で開かれる国際博となる。そのうえで、このイベントは規模の大きな「登録博」だ。その特徴として、開催期間が長いことが知られている。具体的には約半年に及ぶ。すると、長期にわたるその間、会場を訪れた多くの人がその風景を写真や動画に収め、連日SNSにアップすることになるだろう。しかも、そこにはスタッフなど「中の人」も加わる。有名人、著名人等のゲストも参加する。すさまじい規模のバイラルマーケティングが会期中、展開されることになるはずだ。なおかつ、万博はある意味デザインの実験場だ。つまりはSNS映えする要素にあふれている。スマホやPC画面で目にした多彩な画像、映像に惹かれた人々が、以後は次々と大阪行きの予定を組むことになるだろう。
インバウンドがアシスト
愛知万博の頃とは大きく違っているわが国を取り巻く状況のひとつに、インバウンドの盛り上がりがある。
そこで、さかのぼると、愛知万博が開かれた05年の訪日外国人旅行者数は約673万人だった。これは、当時過去最高を記録した数字だが、その理由の一端として「愛知万博の開催や、これに伴う訪日ビザの緩和などの効果が出たと考えられる」旨、国(国土交通省)がコメントを出している。
その外国人客だが、昨年は3,600万人を超えた(日本政府観光局)。まさにケタ違いの伸びだ。これが、大阪・関西万博では確実な追い風となる。むしろ、逆の影響としてオーバーツーリズムの嵐が関西各地を吹き荒れることにならないかの方が心配だ。
そのうえで、大阪・関西万博にとっての朗報が1月初めに海外から届いている。アメリカのニューヨーク・タイムズが、「2025年に行くべき(世界の)52か所」に、富山市とともに大阪をランクインさせた。紹介順位は38番目といまひとつだが(富山は30番目)、大阪を選んだ理由にはもちろん万博の開催も含まれている。世界中に影響力が及ぶ有力メディアによる著名なお墨付きだ。主催者側としては大変心強いことだろう。
なお、過去の同ランキングでは、日本からは昨年山口市(3番目)、23年に盛岡市(2番目)と福岡市(19番目)が選ばれている。
「iPS心臓」に胸高鳴る
以上、大阪・関西万博を後押しするであろう2つの追い風を指摘した。これに乗ってわが予想も当たるか、行方を秋まで見守っていきたい。
そのうえで、筆者が個人的に楽しみにしている今回の万博の見どころを2つ挙げておこう。ひとつは「iPS心臓」だ。iPS細胞の技術を使い、ヒトの心臓のモデルを作り出す。ちゃんと鼓動する、人工培養された生きた細胞による心臓だ。それが大阪・関西万博で間もなく見られる予定となっている。未来の医療の一端が示される興味深い展示だ。70年の大阪万博における「月の石」や「アポロ」「ソユーズ」両宇宙船のような目玉に乏しいといわれる今回の万博の中で、筆者にとってひときわ一番の目玉がこれとなる。
もうひとつが、先ほども触れた「デザイン」だ。期間限定の建物となるパビリオンが一堂に会するということで、万博会場は建築デザインのまさに実験場となる。とりわけ、参加諸外国が国の威信をかけて練り上げる海外パビリオンのデザインを見るのは、筆者にとって大きな楽しみだ。この点、愛知万博では規格化されたユニットに各国が内外装を付け加える「モジュール方式」が採用されていた。イベント後に資材等の再利用が進めやすくなる面ではよい考え方といえるが、自由で個性的なかたちを表現するには制約が厳しい。一方、今回の大阪・関西万博では、当初予定されていたより数は減ったものの、それでも多くの国が自前で建物をデザインする。それらの完成予想映像などを見る限り、まさに心臓の鼓動が高鳴るような作品が目白押しだ。楽しみというほかない。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。