『KAPPEI カッペイ』/若杉公徳コミックの実写化! 抱腹絶倒コメディ
兵頭頼明
2022/03/06
©︎2022 映画『KAPPEI』製作委員会 ©︎若杉公徳/白泉社(ヤングアニマルコミックス)
一世を風靡した『ノストラダムスの大予言』
「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」
このフレーズに反応し苦笑いするのは、私を含め現在60歳を超えた人たちであろうか。
1973年11月に発売されミリオンセラーとなった『ノストラダムスの大予言』(五島勉・著)は、フランスのルネサンス期の医師であり占星術師であったノストラダムスの予言書を独自に解き明かし、上記のフレーズを「1999年7月に人類が滅亡する」と解釈していた。
当時の日本では公害をはじめとする多くの社会問題が発生しており、人々は未来への不安を抱えていた。同年3月に小松左京のSF小説『日本沈没』が発売され空前のベストセラーとなっていたこともベースとなり、『ノストラダムスの大予言』は日本で「終末ブーム」とでも呼ぶべき一大現象を巻き起こした。
空から降ってくる恐怖の大王とは何か。同書では核ミサイル、彗星、大震災、大気汚染等々、さまざまな可能性について検証していたと記憶するが、当時、同書を読んだ私は中学生であり、その解釈が科学的だったのか否かは判断できない。覚えているのは「四半世紀後に人類は滅亡するんだな」となんとなく思い込まされ、本気で不安になったということだけだ。1999年、人類は滅亡することなく、著者の五島勉氏は2020年に死去した。
本作『KAPPEI カッペイ』は、ノストラダムスの大予言を信じ、人類の救世主となるべく修行を積んできた男たちを描いた抱腹絶倒のコメディである。
勝平(伊藤英明)
1999年7月に世界が滅亡した際の救世主となるため、人里離れた場所で修行を積む「終末の戦士」と呼ばれる男たちがいた。
勝平(伊藤英明)もその一人で、師範(古田新太)の教えに従い、すべての個人的な楽しみを捨て、殺人拳・無戒殺風拳を習得すべく日夜修行に勤しんでいた。しかし、幼少時から修行を続けていても、世界が滅亡する日は一向に訪れない。
師範(古田新太)
ある日、師範はすでに成人となっている戦士たち全員を集め、こう宣言する。
「我々は1999年に世界が滅亡すると信じ、修行を積んできた。しかし、いまは2022年。世界は滅亡などしていない。本日で、解散!」
呆然とする勝平。終末の戦士たちは各々、東京へとたどり着く。右も左も分からぬ大都会で、勝平はチンピラにカツアゲされていた人の良さそうな大学生・啓太(西畑大吾)を救う。それがきっかけとなり、勝平は啓太のアパートに転がり込み、女子大生のハル(上白石萌歌)と出会い、人生初めての恋を知る。
ハル(上白石萌歌/右)
そんな勝平の前に、かつての修行仲間である守(大貫勇輔)と正義(山本耕史)、そして最強の戦士と言われた兄弟子の英雄(小澤征悦)が現れ、大騒動となる――。
実写化でも広がる若杉公徳の独特の世界観
原作は2011年から14年まで連載された若杉公徳の同名コミック。これまで若杉の作品は『デトロイト・メタル・シティ』と『みんな!エスパーだよ!』が実写映画化されており、その独特の作品世界にはコアなファンが付いている。
本作『KAPPEI カッペイ』の設定と世界観も実に馬鹿馬鹿しく惚けているが、ハルに恋をした勝平が真っ赤になり、水風呂に飛び込むと水が湯となり沸騰するというベタな描写などはなんとも微笑ましく楽しい。伊藤英明ら主要キャストが体を作り上げ、格闘シーンにリアリティを持たせているからこそ生きる面白さである。
勝平たちは幼少時から隔絶された環境に身を置き修行に励んでいたため、ごく普通の若者たちが享受してきた青春時代の楽しみを全く知らずに育った。世界の平和を守りたいという彼らの使命感は本物であり、勝平のハルを思う心は純粋極まりない。
彼らのまっすぐな思いと世間の常識とのギャップが笑いを生むのだが、少しでも学校や会社、そして社会そのものに馴染んでいないのではないかと感じたことのある人ならば、本作の登場人物の行動を自分のことのように思い、ホロリとする瞬間に出会うはずだ。
私たちが絶えず抱いている小さな不安や不満を、ほんのわずかな時間だが忘れさせてくれる。そこが本作の魅力である。『ノストラダムスの大予言』を知らない世代の人たちにこそ見てほしいと思う。
『KAPPEI カッペイ』
監督:平野隆
原作:若杉公徳
脚本:徳永友一
出演:伊藤英明/上白石萌歌/西畑大吾(なにわ男子)/大貫勇輔/古田新太/森永悠希/浅川梨奈/倉悠貴/橋本じゅん/関口メンディー(EXILE/GENERATIONS)/鈴木福/かなで(3時のヒロイン)/岡崎体育/山本耕史/小澤征悦
配給:東宝
2022年3月18日より公開
公式サイト:https://kappei-movie.jp/
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この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。