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『ヤクザと家族 The Family』/任侠でもない、抗争でもない「熱い」ヤクザの家族映画(1/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2021/01/27

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『新聞記者』で2019年度の映画賞を総なめにした監督・藤井道人の最新作である。

1999年、すでに母親を亡くしていた19歳の山本賢治(綾野剛)は、派手な金髪と上下真っ白な服に身を包み、自暴自棄に生きていた。証券マンだった父親はバブル崩壊とともに覚せい剤に手を出し、命を落としてしまう。身寄りがなくなった賢治は悪友の細野(市原隼人)や大原(二ノ宮隆太郎)と徒党を組み、以前にも増して自堕落な生活を送ることになった。

ある日、行きつけの食堂で飲んでいた賢治は、そこに現れた柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)をチンピラの襲撃から救い出す。食堂の店主・愛子(寺島しのぶ)の亡夫は柴咲の弟分であった。翌日、賢治は柴咲組の事務所に呼ばれ歓待されるが、柴咲をはじめ若頭の中村(北村有起哉)ら組員全員に対し無礼な態度をとり、事務所を飛び出してしまう。

数日後、賢治は柴咲組と敵対する侠葉会の若頭・加藤(豊原功補)と若頭補佐・川山(駿河太郎)に拉致され拷問を受ける。賢治が侠葉会の売人から覚せい剤を横取りしたことに対する報復であったが、彼がポケットに入れていた柴咲の名刺により、窮地を逃れる。柴咲と再会した賢治は父親に覚せい剤を売りつけたヤクザという存在を心から憎んでいたが、そんな彼に手を差し伸べた柴咲に救いを見出し、父子の契りを結ぶ。賢治はヤクザの世界に足を踏み入れることになった――。

本作は約20年に亘る三つの時代を描いている。賢治が柴咲と出会った1999年を第一章とするならば、柴咲組と侠葉会の抗争が激化する2005年が第二章。そして、すべてが変わってしまった2019年が第三章である。

1992年に暴力団対策法が施行。2009年には各地方自治体で暴力団排除条例が制定され始め、ヤクザは反社会的勢力として徹底的な排除に追い込まれていった。その辺りの事情は東海テレビ製作のドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』(15)に詳しいが、本作第二章では暴対法施行後に変化せざるを得なかったヤクザの生き方が描かれる。

組長を襲撃され犠牲者を出した柴咲組は当然のように報復しようとするが、刑事の大迫(岩松了)から「これからは社会でヤクザを裁くのは法や警察だけじゃなく、世の中全体から排除されるようになる。時代は変わっていくんだ」と釘を刺される。賢治は自分と同じく家族のいないホステス・由香(尾野真千子)の前でだけ安らぐことができたが、ひと時の安らぎを得ても、引き下がる気にはなれない。ではどうするのか。

2019年を描いた第三章では、ヤクザを取り巻く状況がさらに変化。ヤクザを辞めても5年間は銀行口座を開設できないし、保険にも入れない。住まいを借りるにも縛りがある。いわゆる「5年ルール」は厳格で、ヤクザに奢ってもらえば反社から金を受け取ったことになってしまうのだ。ヤクザはすでに足を洗った昔の仲間に食事を奢ることさえできない時代になっていた。柴咲組舎弟頭の竹田(菅田俊)ら古参幹部のシノギも厳しい。

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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