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『エジソンズ・ゲーム』 発明王の実像を描くビジネスムービー

兵頭頼明兵頭頼明

2020/04/09

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子どものころ手にした教科書やさまざまな書物から、トーマス・エジソンといえば偉人の中の偉人、偉大なる発明王としてのイメージを刷り込まれた。当時の教師たちは「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」というエジソンの言葉を金言として用い、生徒たちを鼓舞したものだ。

しかし、私たちは大人になるにつれ、彼の言葉が実に都合よく使われていたことを思い知る。ひらめきがなければ努力は無駄になってしまうことは確かだが、努力したからといって必ずしも成功するわけではないということを、実生活で知ることになる。
エジソンの言葉は勝手に美談に仕立て上げられ、その実像は歪められて伝わっているではないかと疑問を抱くのである。

本作『エジソンズ・ゲーム』は、天才発明家エジソンとカリスマ実業家ウェスティングハウスの壮絶なビジネスバトルを描いている。これがエジソンの実像なのかは分からないが、一つの解釈として実に興味深い作品である。

エジソン(ベネディクト・カンバ―バッチ)は天才発明家と崇められているが、気に入らなければ大統領からの仕事さえ断ってしまう傲慢な男である。妻のメアリー(タペンス・ミドルトン)と息子を深く愛しているが、仕事に没頭すると家庭を顧みることはない。
カリスマ的手腕を持つ実業家ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)は、そんなエジソンと手を組もうと考え、晩餐会に招待するが、エジソンにすっぽかされてしまう。

エジソンは1881年にエジソン・エレクトリック社を設立。翌1882年にニューヨークで、自ら発明した電球を電気で光らせ、夜の街を照らすことに成功する。しかし、ウェスティングハウスはエジソンの推進する“直流”方式よりも“交流”方式の方が優れていると考えていた。“直流”には大量の発電機が必要だが、“交流”ならば発電機1基で遠くまで電気が遅れ、しかも安価なのである。

1886年、ウェスティングハウスは“交流”方式の実演会を成功させるが、自分の電球が使われていたことを知ったエジソンは激怒し、発明を盗まれたとウェスティングハウスを中傷。さらに、“交流”方式は感電しやすく、死を招くと攻撃したことで、世紀の「Current War=電流戦争」(本作の原題)が幕を開ける。

偉人としてのエジソンのイメージをことごとく打ち砕いてゆく作品だ。本作で描かれるエジソンは、勝つために手段を選ばない狂気の男である。一方、ウェスティングハウスは周囲の声に耳を傾け、新しい才能と手を組むことで天下を取ろうとする温和な男として描かれる。この二人の闘いに、あふれる野心ゆえエジソンのもとを去る天才科学者テスラ(ニコラス・ホルト)と、エジソンを敬愛する秘書インサル(トム・ホランド)、そしてアメリカ五大財閥の一つであるモルガン財閥の創始者J・P・モルガン(マシュー・マクファディン)が絡み、息もつかせぬ闘いが繰り広げられてゆく。

特許の争奪戦には莫大な金が動く。そして、その影では醜い中傷合戦とネガティブキャンペーンが横行する。今で言うところの、ディスり合戦である。
最も印象深かったのは、死刑執行手段としての電気椅子の導入にまつわるエピソードだ。それまでの死刑執行手段よりも確実性が高いということで導入が検討されるのだが、これは諸刃の剣であり、電気が“死”のイメージと結びつくと、電気の安全性まで否定されかねない。導入検討時のエジソンの裏での動きが、後の裁判や闘争の行方を左右することになる。
“直流”が勝つか、“交流”が勝つか。たとえ勝者が分かっていても、ラストまで目が離せないスリリングな作品だ。

今回公開されるのは、監督アルフォンソ・ゴメス=レホンによるディレクターズ・カット版である。2017年9月にトロント国際映画祭でお披露目されたバージョンは、監督の意に反し、プロデューサーの意向で修正されたものであった。そのプロデューサーはセクハラで告発され、製作会社は倒産。紆余曲折を経て、ディレクターズ・カット版による公開が実現した。かのプロデューサーの名は、クレジットから削除されている。

エジソンのもとを去ったテスラは、優れた才能を持ちながらも資本家に翻弄されていったが、本作の監督もまた、プロデューサーという名の権力者に翻弄されたのであった。


『エジソンズ・ゲーム』(原題:The Current War: Director’s Cut)
監督:アルフォンソ・ゴメス
出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マイケル・シャノン/トム・ホランド、ニコラス・ホルト
配給:KADOKAWA
公式HP:https://edisons-game.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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