ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

『フォードvsフェラーリ』

古き良きハリウッド映画に最新の技術を駆使したエンターテインメント作品

兵頭頼明兵頭頼明

2019/12/28

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

966年のル・マン24時間耐久レースで生まれた伝説。絶対王者に挑んだ男たちの実話である。

カー・デザイナーとして活動する元レーサー、キャロル・シェルビー(マット・デイモン)のもとに、アメリカ最大の自動車メーカーであるフォード・モーター社から思いがけない依頼が届く。その依頼とは、当時のモーター・スポーツ界の頂点に立つイタリアのフェラーリ社に勝てる車を作り、ル・マン24時間耐久レースを制覇してほしいという途方もないものであった。

フォード社の会長ヘンリー・フォード2世(トレイシー・レッツ)は、若い世代にアピールする速くて魅力的な車を売り出さなければならないと信じるマーケティング戦略担当リー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル)の進言により、フェラーリ買収計画を進めてきた。しかし、契約成立直前、フェラーリ創業者エンツォ・フェラーリ(レモ・ジローネ)が「レース部門は絶対に手放さない」と態度を翻したため、交渉は決裂。面子を潰されたフォード2世はフェラーリへの激しい対抗心を抱き、フェラーリ打倒のための新たなレースカーを作るようアイアコッカに命じる。アイアコッカが白羽の矢を立てたのがシェルビーだったというわけである。

シェルビーは1959年のル・マンにアストン・マーチンで参戦し、アメリカ人レーサーとして初めて優勝した経験を持つが、心臓の病気でリタイアを余儀なくされていた。与えられた時間はわずか90日。1960年から直近65年までル・マン6連覇中の絶対王者フェラーリを倒すことは不可能と思われたが、レースへの情熱を断ち切ることができないシェルビーは、オファーを受諾する。
シェルビーが最初に行ったことは、凄腕のイギリス人ドライバー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)への協力要請であった。マイルズは経営する自動車修理工場を国税局に差し押さえられ、生活に行き詰まっていた。初めは彼もこの計画が無謀だと思ったが、妻モリー(カトリーナ・バルフ)と息子のピーターに背中を押され、シェルビーのチームに加わることを決意する。

本作は大逆転を狙った二人の男の挑戦を描いてゆくが、敵はフェラーリだけではない。二人の進歩的なやり方に反発する保守的なフォードの経営陣もまた、ミッション達成を阻む大きな障害であった。

シェルビーはマイルズの腕を信じているが、マイルズはとにかく型破りなレーサーで、フォードの重役陣と対立を繰り返す。妥協することを知らず、歯に衣を着せないマイルズの言動はフォード副社長レオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス)の怒りを買い、ビーブはマイルズをチームから除外することを決断する。
しかし、彼の思惑を悟ったシェルビーは、元レーサーならではの破天荒な手段でフォード社長に直談判し、ミッション達成に必要不可欠なマイルズをチームに残すことに成功する。時には反発しあいながらも、シェルビーとマイルズのレースに賭ける情熱は同じである。いつしか二人は固い絆で結ばれていった。

ストーリー、映像、音響……楽しみどころが満載

本作は不可能なミッションに挑んだ二人の男の友情物語であるとともに、緊迫のレースシーンを堪能できるスペクタクル映画でもある。66年のル・マンを再現したフォード車とフェラーリのデッドヒートは迫力満点で、音響効果も素晴らしい。まるでレース場にいるかのような臨場感を味わえる。

マット・デイモンとクリスチャン・ベールのキャスティングもピタリとハマっており、バディ・ムービーとしての魅力も十分だ。
目の前に立ちはだかる壁を乗り越えるためには、何よりも家族の愛と支え、そして信頼できる友が必要であるという古典的かつ普遍的なメッセージが胸を打つ。

古き良きハリウッド映画の骨格を最新の技術で肉付けした、感動のエンターテインメント作品である。こういう作品こそ、アカデミー賞レースに絡んでほしいと思う。

『フォードvsフェラーリ』
監督:ジェームズ・マンゴールド
脚本:ジェズ・バターワース/ジョン=ヘンリー・バターワース/ジェイソン・ケラー
出演:マット・デイモン/クリスチャン・ベール//カトリーナ・バルフ/ジョン・バーンサル/トレイシー・レッツ/ジョシュ・ルーカス/ノア・ジュープ ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式HP:http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/
(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

ページのトップへ

ウチコミ!