28年前に残された疑問、そして、新たなドラマ展開がはじまる
兵頭頼明
2019/11/08
1985年の5月のことだ。日本有数の大劇場、日本劇場(2018年閉館)で公開された『ターミネーター』(84)は、私たち映画ファンに新鮮な驚きを与えてくれた。シリーズ最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』を紹介する前に、まずはシリーズ第一作『ターミネーター』を振り返ってみよう。
監督・脚本はジェームズ・キャメロン。その時点では、B級映画『殺人魚フライング・キラー』(81)を撮っただけの無名の監督にすぎなかった。主演のアーノルド・シュワルツェネッガーはジョン・ミリアス監督作品『コナン・ザ・グレート』(82)の主演俳優であったが、英語の下手な筋肉ムキムキの大根というイメージしかなかった。どこから見てもB級の二人がタッグを組んだ低予算のSF映画。それが『ターミネーター』であった。
人類と機械が果てしない戦いを繰り広げている未来。機械軍は1984年のロサンゼルスに人間の形をした殺人機械T-800型ターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)を送り込む。目的は人類軍のリーダーであるジョン・コナーを産むことになるサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)を暗殺し、ジョンの存在を歴史から抹消することであった。命を狙われる理由を知らぬまま絶体絶命となったサラ。その時、彼女の前に一人の男が現れる。彼の名はカイル・リース。ジョン・コナーの命を受け、サラを守るために同じ未来から送り込まれた兵士であった―。
ハリウッド映画がドルビー・ステレオ方式の普及に取り組んでいたにもかかわらず、音声はモノラル(DVD化の際、ステレオ化された)。SFXシーンは最小限に止め、ライブアクションが中心。そのアクションも現代の小火器を使った二人の男の闘いに限定する。キャメロンは多くの映画人を育成した功績によりアカデミー賞名誉賞を受賞した「B級映画の帝王」ロジャー・コーマンの門下生だけあり、少ない製作費を工夫と知恵で補い、SFマインドと情感あふれる魅力的な作品を作り上げた。
この作品のスマッシュヒットにより、シュワルツェネッガーはハリウッドを代表するアクションスターとしての道を歩み始め、キャメロンは『エイリアン2』(86)の監督に抜擢され大成功を収める。
そして、満を持して製作された続編が『ターミネーター2』(91)であった。製作費は前作の640万ドルから1億ドルへと大幅アップ。文字通りの超大作として製作され、全世界興行収入5億2,000万ドルというメガヒットを記録する。
その後『ターミネーター3』(03)『ターミネーター4』(09)『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15)とシリーズは続き、2008年には『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』というテレビシリーズも製作されたが、『ターミネーター』の権利を手放したキャメロンは製作にタッチしていない。 キャメロンの手を離れたシリーズは、製作すべきではなかった。『ターミネーター』第一作および第二作のポテンシャルと完成度は望むべくもなく、シリーズは尻すぼみとなってしまった。
前置きが長くなったが、本作『ターミネーター:ニュー・フェイト』は『ターミネーター2』の正統な続編である。第一作から35年が経過し、ようやくキャメロンの元に製作権利が戻ったのだ。キャメロンは製作とストーリーを担当し、リンダ・ハミルトンがサラ・コナー役に復帰した。もちろん、T-800型ターミネーター役はアーノルド・シュワルツェネッガーである。監督は『デッドプール』(16)のティム・ミラー。
ハミルトンとシュワルツェネッガーが28年ぶりに顔を揃えるのは映画ファンとして嬉しい限りだが、『ターミネーター2』でT-800型ターミネーターは溶鉱炉に沈んだはずではなかったか。人類が滅亡する「審判の日」は回避されたはずなのに、なぜサラ・コナーは戦い続けているのか。本作はそういった疑問に答えるとともに、新たなドラマを展開してゆく。
新型ターミネーターREV-9(ガブリエル・ルナ)と、迎え撃つ女性兵士グレース(マッケンジー・デイヴィス)が登場。鍵を握る女性ダニー(ナタリア・レイエス)を巡って凄まじいアクションが繰り広げられる。もちろん、そこにはサラ・コナーとT-800型ターミネーターも加わり、スリル満点のジェットコースター・ムービーになってゆくという趣向である。
ヒロインのダニーがメキシコ人女性という設定がユニークだ。演じるナタリア・レイエスはコロンビア出身である。マッケンジー・デイヴィスはカナダ出身で、アーノルド・シュワルツェネッガーはオーストリア出身。メキシコで絶大な人気を誇るディエゴ・ボネータも出演しており、シリーズ中、最も国際色に富んだキャスティングとなった。国境問題やAIの進化といった話題も取り込んでおり、時代の変化に対応した、いま作られるべき形の続編であると言える。キャメロンの復帰により、シリーズはようやくあるべき姿に戻ったのである。
だが、本作には第一作と第二作を豊かなものにしていた情感の高まりがない。情感を誘うシーンがないわけではないが、ポテンシャルが低いのである。第一作のラスト、嵐が近づいている未来の戦場へと向かってゆくサラ。第二作のラスト、T-800型ターミネーターと別れざるを得なくなったコナー親子。情感のポテンシャルはここで最高潮に達し、観客の涙を誘った。『ターミネーター』第一作と第二作は優れたSFアクション映画であるとともに、男と女、そして親と子の愛の物語であった。
キャメロンは後に『タイタニック』(97)で大規模なスペクタクルとラブストーリーの要素を無理なく融合させるという離れ業を演じ、観客の涙腺を大いに刺激した。『タイタニック』は世界興行収入記録を樹立し、キャメロンはアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞している。
『ターミネーター:ニュー・フェイト』は失敗作ではない。しかし、正当な続編である以上、やはり本作はキャメロンに監督してほしかった。キャメロンは大仕掛けのアクション映画であっても気持ちよく観客を泣かせてくれる稀有な才能の持ち主であり、そんな彼の資質こそが『ターミネーター』を産みだしたのだから。
『ターミネーター:ニュー・フェイト』
監督:ティム・ミラー
製作:ジェームズ・キャメロン、デイヴィッド・エリソン
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン、マッケンジー・デイヴィス、ナタリア・レイエス、ガブリエル・ルナ、ディエゴ・ボネータ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式HP:http://www.foxmovies-jp.com/terminator/index.html
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。