「悲劇の戦艦大和」とは違ったアプローチで描かかれた反戦争映画
兵頭頼明
2019/07/27
(C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 (C)三田紀房/講談社
一口に戦争映画と言っても、戦争の悲惨さを訴える正統派の反戦ドラマから作戦の勝利を高らかに謳いあげた娯楽作品、そして風刺の効いたコメディなど様々である。日本は敗戦国であるが故に第二次世界大戦の悲劇をテーマにした作品を数多く生み出してきたが、その中で戦艦大和は敗戦の象徴として描かれることが多い。
戦艦大和は第二次世界大戦中、当時の日本が持つ最高技術を投入して建造された全長263メートルの巨大戦艦である。史上最大の46cm主砲を搭載していたが、1945年4月7日、九州南方海域で特攻作戦中に撃沈する。乗員3332名中、生還者はわずか276名。この特攻作戦で大和が撃墜した敵機は3機だったと言われている。
本作は『ドラゴン桜』や『インベスターZ』で知られる三田紀房の同名コミックを実写映画化した作品。テーマはずばり、戦艦大和である。
物語は1933(昭和8)年に始まる。欧米列強との対立を深め、軍拡路線を押し進めてゆく日本。海軍省は秘密裏に世界最大の戦艦の建造を計画していたが、省内の意見は真二つに割れていた。今後の海戦は航空機が主流になると主張する海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は、巨大戦艦の建造がいかに国家予算の無駄遣いかを明白にしたいと考えているが、建造推進派は戦艦に関する情報の一切を秘匿している。山本は軍部と無関係の協力者を見つけなければならなかった。
そんな折、山本はふとしたことから100年に一人の天才と言われる東京帝国大学出身の数学者・櫂(菅田将暉)と知り合い協力を依頼するが、櫂は数学を溺愛する変人であるとともに大の軍隊嫌いで、協力しようとしない。しかし、櫂は山本の「巨大軍艦が建造されれば、その力を過信した日本は必ず戦争を始める」という言葉に衝撃を受け、帝国海軍の中へ飛び込んでゆく決心を固める。巨大な圧力と妨害工策の中、櫂は巨大戦艦「大和」の建造を阻止するべく奔走する。
数学者を主人公に据えて第二次世界大戦を描くというユニークな戦争映画である。菅田将暉演じる天才数学者・櫂は、数学的観点から巨大戦艦建造計画の問題点を明らかにし、計画の中止を主張する。彼の動機は、決して日本を戦争に向わせてはならないという強い思いである。推進派との丁々発止の攻防はスリリングだ。
緊張感あふれるシーンが続くが、櫂のキャラクター造形が愉快で、その描写がコミックリリーフ的な役割を果たしている。数学と美をこよなく愛し、何でも測りたがる変わり者。いつも巻き尺を持ち歩き、美しいと感じた物すべてをその場で計測しなければ気がすまない。美しい女性も例外ではなく、他意なく計測させてほしいとお願いするので、当然ながら周りから誤解を招く。そんな櫂に反発を覚えながらも徐々に傾倒してゆく海軍少尉・田中を柄本佑が演じており、バディムービーさながらの掛け合いを見せてくれる。
戦艦建造推進派で大和を設計した海軍造船中将・平山(田中泯)とのやり取りも味わい深い。立場は異なるが、平山もまた信念の男として描かれている。
監督は『永遠の0』(13)や『ALWAYS 三丁目の夕陽』シリーズ(05~12)の演出でドラマとVFXの融合に定評のある山崎貴。昭和初期の日本の再現は見事で、山崎ならではの圧巻のスペクタクル映像も用意されている。
戦艦大和を舞台にした戦争映画は数々あれど、それが建造されるまでの攻防を描いた作品というのは珍しい。原作コミックはまだ連載中であるし、大和が建造されたことは誰もが知る歴史的事実なので、当然ながら本作は映画独自の展開と結末を生むことになる。筆者はこの結末に唸った。
新しい視点とアプローチから生まれた反戦映画の佳品である。
『アルキメデスの大戦』
原作:三田紀房「アルキメデスの大戦」(講談社「ヤングマガジン」連載)
監督・脚本・VFX:山崎貴
出演:菅田将暉/柄本佑/浜辺美波/笑福亭鶴瓶/小林克也/小日向文世/國村隼/橋爪功/田中泯/舘ひろし ほか
配給:東宝
公式HP:http://archimedes-movie.jp/
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。