『トランスフォーマー』シリーズ愛されキャラのスピンオフ
兵頭頼明
2019/03/27
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2007年にスタートした『トランスフォーマー』シリーズの第6作である。シリーズ第1作の20年前という時代設定で、エピソード・ゼロと言える作品だ。
1987年、サンフランシスコ郊外に位置する小さな町。自動車やメカニックの類が大好きという孤独な少女チャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は、父親を亡くした悲しみから立ち直ることができない。そんな彼女は18歳の誕生日に、海沿いの町の外れにある小さな廃品置き場でスクラップ同然の黄色い車を見つける。心を惹かれたチャーリーは自宅に乗って帰るのだが、降りた途端にその車がロボットのような体形にトランスフォーム〈変形〉したため、心底驚いてしまう。車に姿を変えていた地球外生命体も驚き逃げ惑うが、お互いに危害を加えないことを理解しあった瞬間、言葉が通じないながらも友情のような感情が芽生える。チャーリーは記憶と声を失った生命体にバンブルビー(黄色い蜂)という名を付け、自宅のガレージに匿うことにする。それは予測不可能な大事件の発端であった――。
バンブルビーはシリーズのメインキャラクターであり、人懐っこくておちゃめ、そしておっちょこちょいという性格を持つシリーズ屈指の愛されキャラである。発声機能が故障しているため言葉が話せない彼は、ラジオをチューニングしてオンエア中の楽曲の歌詞を言葉の代わりに聞かせるとともに、体を動かすジェスチャーで感情を伝えようとする。その様子がとても愛らしく、その一方で寂し気な表情を垣間見せるため、観客は思わず感情移入してしまうというわけである。過去のシリーズ作品を観ていれば倍楽しめるが、初めてという人も問題なく楽しめるはずだ。本作を見たことで、過去のシリーズ作品を振り返って見てみようという観客も増えることだろう。
主人公のチャーリーを演じたヘイリー・スタインフェルドは14歳の時に『トゥルー・グリット』(14)で映画初出演を果たし、いきなりアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた逸材である。彼女の魅力にも注目してほしい。もちろん、見せ場はシリーズ名物の大規模なSFX〈特撮〉映像である。巨大ロボット生命体同士の壮絶なバトルは見ごたえ十分だ。
もともと『トランスフォーマー』は日本の玩具メーカーから発売された変形ロボット玩具シリーズの総称であり、アメリカのメーカーやコミック出版社との連携によって設定が生み出され、アニメ、コミック、ゲーム、そして実写映画と、世界的規模での商業展開が繰り広げられている。本作はシリーズ随一の人気キャラクターをフィーチャーしているわけだが、このシリーズには他にも魅力的なキャラクターが多数存在する。『スター・ウォーズ』シリーズのように、今後も別のキャラクターを主人公にしたスピンオフ作品やエピソード・ゼロ的作品が次々に企画され、制作されてゆくに違いない。
日本映画にも同じような成功例があった。『踊る大捜査線』シリーズである。1997年にフジテレビ系で放送されたテレビドラマ『踊る大捜査線』は、連続ドラマ放送終了後に2本のスペシャルドラマと1本の番外編ドラマが制作され、98年に『踊る大捜査線THE MOVIE』として映画化された。同作は興行収入100億円を超える驚異的なヒットを記録し、2012年までに続編映画3本、スピンオフ映画2本が製作公開されるとともに、数多くのスペシャルドラマや関連番組を生み出し、ゲームも発売されている。
日本が生み出した最強最大のキャラクターである『ゴジラ』はハリウッドでも映画化され、世界に向けて羽ばたいた。柳の下のドジョウは一匹だけではないということを、映画界は繰り返し証明している。魅力的なキャラクターとコンテンツは何度でも再利用される宿命にあり、観客もそれを望んでいるのである。
『バンブルビー』
監督:トラヴィス・ナイト
脚本:クリスティーナ・ホドソン/ケリー・フレモン・クレイグ
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジョン・シナ、ジョージ・レンデボーグ
Jr.、ジョン・オーティス、ジェイソン・ドラッカー、パメラ・アドロン、ステ
ファン・シュナイダー
配給:東和ピクチャーズ
公式HP:http://bumblebeemovie.jp/
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。