名キャメラマン・監督の映像美と独自の華麗な殺陣で魅せる時代劇
兵頭頼明
2018/10/02
(c)2018「散り椿」製作委員会
『散り椿』は本年9月に開催された第42回モントリオール世界映画祭で、審査員特別賞を受賞した作品である。葉室麟の同名小説の映画化で、監督と撮影は本作が『劔岳 点の記』(09)『春を背負って』(14)に続く3作目の監督作品となる木村大作、主演を前作『関ケ原』(17)に続く時代劇出演となる岡田准一が務めている。
藩の不正を訴え出たために追放された瓜生新兵衛(岡田准一)には、重い病を患う妻の篠(麻生久美子)がいた。篠は新兵衛に、藩に戻って榊原采女(西島秀俊)を助けてほしいという願いを託して死んでゆく。かつて采女は新兵衛にとって良き友であったが、同時に篠を巡る恋敵でもあり、新兵衛の藩追放にも関わりのある男であった。新兵衛は帰郷し采女と再会することで、藩の不正の真相と篠の真意に近づいてゆくが、新兵衛の周りを彼の動きを快く思わない一味が取り囲み始めていた―。
日本映画界を代表する名キャメラマンであり監督も手掛ける木村大作と、年に一作以上のペースで映画に主演する俳優・岡田准一。60年の映画人生で培った技を伝えてゆかねばならないという使命に燃える男と、日本映画の伝統を継承する俳優は自分しかいないと自負する男がタッグを組むのは必然であった。本作『散り椿』には、二人の持つこだわりが隅々まで生かされている。
木村のこだわりは、オールロケーションと35㎜フィルム撮影。デジタルではなくフィルム、そして、作り込みのセットではなく本物の場所での撮影にこだわった。日本という国ならではの四季折々の自然がフィルムに収められており、画面の美しさは特筆ものである。
岡田のこだわりは、殺陣。本作にはベテランの久世浩を筆頭に3人が殺陣師としてクレジットされているが、その3人目は岡田准一である。今まで見たことがない殺陣を見せたいという木村のリクエストに、岡田らが応えた結果である。開巻早々、雪の中で三人の刺客を相手にするシーン。中盤における西島秀俊との絡み。そして、ラストの大立ち回り。一瞬の斬り合いを見せる岡田の動きが見事だ。往年の時代劇スターは殺陣に独自の型を持っていたものだが、彼もまた独自の型を作り上げた。岡田オリジナルとも言えるダイナミックで華麗な殺陣である。
11月で38歳になる岡田准一は、14歳でジャニーズ事務所の6人組ユニット・V6の最年少メンバーに選ばれ、徐々に演技者としての頭角を現してきた。『木更津キャッツアイ ワールドシリーズ』(03)で映画初主演。06年には是枝裕和監督作品『花よりもなお』に主演し、日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎新人賞を受賞している。07~08年に放送され10年に映画化されたテレビドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』では、ハードなアクションをこなせる俳優であることを世に知らしめた。
初回から岡田の切れのいいアクションに度肝を抜かれたが、後に彼はフィリピン武術のカリと、あのブルース・リーが創始した截拳道(ジークンドー)のインストラクター認定を受けている。岡田准一は「肉体で完璧に語ることのできる俳優」を標榜する稀有な俳優なのである。
近年は『天地明察』(12)『図書館戦争』(13)『永遠の0』(13)『蜩ノ記』(14)『図書館戦争 THE LAST MISSION』(15)『エヴェレスト 神々の山嶺』(16)『海賊とよばれた男』(16)『追憶』(17)『関ケ原』(17)と年に一本以上のペースで主演映画が公開されており、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』(14)という特例を除き、テレビドラマにはほとんど出演していない。『駅 STATION』(81)『鉄道員(ぼっぽや)』(99)など、キャメラマンとして高倉健と多くのコンビ作がある木村は、岡田に「最後の映画スター」と言われた高倉健の後継者ともいうべき姿を見たに違いない。
静と動、いずれのシーンでも深みのある演技を見せてくれる岡田准一。彼を中心に、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子ら実力のある若手や中堅俳優陣と、奥田瑛二、石橋蓮司、富司純子らのベテラン勢が絶妙なアンサンブルを奏で、作品を支えている。日本映画の良き伝統を受け継ぐ、見応えのある作品である。
『散り椿』
監督・撮影:木村大作
出演:岡田准一/西島秀俊/黒木華/池松壮亮/麻生久美子/緒形直人/新井浩文/柳楽優弥/芳根京子/駿河太郎/渡辺大/石橋蓮司/富司純子/奥田瑛二
配給:東宝
公式サイト:http://chiritsubaki.jp/
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。