ABBAの名曲とダンスはそのままに、映画的なオリジナルストーリーを楽しむ
兵頭頼明
2018/08/29
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ミュージカルとは台詞と音楽、歌、ダンスが融合した演劇の形式である。例外もあるが、一般的なミュージカルは劇の途中で台詞が歌に変わり、さらにダンスへと発展してゆく。感情が高じて台詞が歌になり、その感情がさらに昇華してダンスになるというわけである。
台詞が歌に変わるのだから、歌われるのは新たに書き下ろされたオリジナルの楽曲ということになるが、そうではないミュージカルも存在する。既存の楽曲を使用するジュークボックス・ミュージカルと呼ばれるジャンルの作品である。
ジュークボックス・ミュージカルは、特定のアーティストやグループのヒット曲を使って構成されることが多い。オリジナル楽曲のミュージカルを作り上げるよりも簡単だと考える人もいるだろうが、既存の楽曲を使うがゆえの制約も多く、むしろジュークボックス・ミュージカルの作劇は難しいとも言える。だからであろうか、このジャンルにはアーティストの伝記モノが多い。クリント・イーストウッド監督が映画化した『ジャージー・ボーイズ』(14)は60年代に活躍したロックンロール・グループ、フォー・シーズンズの活躍と解散を描いた作品で、このジャンルの代表作の一本である。
『ジャージー・ボーイズ』は2004年の試験興行を経て、翌年ブロードウェイでプレビュー公演がスタートしているが、この舞台は大ヒットしたジュークボックス・ミュージカルに触発されて製作された。70年代に人気を博したスウェーデンのポップ・グループABBAの楽曲をフィーチャーした『マンマ・ミーア!』である。このジャンルにありがちな伝記モノではなく、独自の物語を作り上げている。1999年にロンドンで初演されてロングランを記録し、このジャンルで最も成功した作品となった。2008年には映画化されている。
エーゲ海に浮かぶ美しい島カロカイリで小さなリゾート・ホテルを営むドナ(メリル・ストリープ)。彼女の娘ソフィ(アマンダ・セイフライド)は、恋人スカイ(ドミニク・クーパー)との結婚式を翌日に控えている。父親とヴァージン・ロードを歩くことがソフィの夢であったが、シングルマザーのドナに育てられた彼女は自分の父親が誰なのかを知らない。そこで、ソフィはドナの日記を盗み読みし、父親である可能性が高い三人の男、建築家のサム(ピアース・ブロスナン)、銀行家のハリー(コリン・ファース)、冒険家のビル(ステラン・スカルスガルド)に結婚式の招待状を送っていた。三人とも島へやって来るのだが、「会えば必ずわかる」と思っていたソフィには誰が父親なのかさっぱりわからず、元カレたちとの突然の再会にドナはパニック寸前。『マンマ・ミーア!』はそんな24時間の大騒動をABBAの名曲とダンスに乗せて陽気に描くロマンティック・コメディであった。
本作『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』は大ヒットした映画版の続編である。映画オリジナルの作品であり、舞台の映画化ではない。ドナと三人の男たちとの間に本当は何があったのかという、オリジナルの舞台でも映画版でも描かれなかった過去。そして、夫のスカイと気持ちがすれ違っている中、妊娠していることを知ったソフィの現在。過去と現在が行き交い、そして未来へと向かうという映画的でダイナミックな構成となっている。
前作のキャストが10年ぶりに再集結したことに加え、若き日のドナにミュージカル映画『シンデレラ』(15)で注目されたリリー・ジェームズ、ホテルの支配人に『ブラック・レイン』(89)のアンディ・ガルシア、そしてドナの母親に『月の輝く夜に』(87)でアカデミー賞主演女優賞に輝くシェールが扮している。豪華で魅力的な顔ぶれだ。
前作以上に元気でパワフルな作品だが、そのパワーの源は何と言ってもABBAの楽曲である。誰もが口ずさんでしまうお馴染みのメロディ。これこそ、ジュークボックス・ミュージカルの強みだ。しかも、本作は楽曲のパワーに依存するのではなく、楽曲のポテンシャルを最大限に引き出す作りとなっている。ABBAを知らない世代の人たちにもお薦めしたい作品である。
『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』
監督・脚本:オル・パーカー
出演:メリル・ストリープ/ピアース・ブロスナン/コリン・ファース/ステラン・スカルスガルド/ドミニク・クーパー、/アマンダ・セイフライド/リリー・ジェームズ/ジェレミー・アーヴァイン/シェールほか
配給:東宝東和
公式サイト:http://www.mammamiamovie.jp/
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。